俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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緋色の炎 ③

初めの熱波とは異なり、時が凍てついたこの街を暖めるかのような優しい熱が周囲に満ちる。

これはブルームスターが放ったものなのだろうか、あの姿は一体?

陽炎に揺らめくその姿は上手く目視出来ないが、明らかにいつもの姿ともあの危険な黒衣とも違う。

今にも擦り切れてしまいそうなほどにくたびれた赤い外套、その下にぴっちりと着込んだ日本軍服。

片手にサーベルでも持てば実に似合いそうだ、最も刀という舞台なら負ける訳にはいかないが。

……彼女はまた、新しい力を手に入れたとでも言うのか。

 

だとしたらそれは一体、どれ程の代償を火にくべるのだろう。

 

 

『演算……完了! 今結果を!』

 

同時にツヴァイの棍に取り付けられたクワガタ状のデバイスから興奮した声が響く、どうやらあの怪物の核が見つかったらしい。

これでブルームスターの帰還と合わせて、いよいよこちらから攻勢に出る事が出来る。

 

「こちら助手席より報告ー!! 頑張って逃げて来たけどいよいよ壁が迫って来たわ、このペースだと10分持たないで衝突よ!」

 

「What's!? 急にそんな事言われてもサぁ!?」

 

「……どうやらあまり時間は残っていないようですね」

 

車の進行方向へ振り返れば、確かに私達が侵入してきた壁がみるみると近づいている。

ロウゼキさんなら入って来た時と同じように壁を壊せるだろうが、それでは駄目だ。

臭いものに蓋をしただけではいつ溢れるやも分からない、目の前の禍根から逃げるのではなく今ここで断ち切らなければ。

 

『……悪い報告、核と思わしき強い魔力反応は()()()()。 おそらく雲を超える』

 

「…………誰か、飛べる方はおりまして?」

 

「うちは一瞬だけなら跳べるけど」

 

「チャンピョンはんにそこまで器用な事求められんわぁ、うちも雲の上となると……」

 

「あはは、ジェット機でも取り出す資金が残ってたら良かったんだけどネー……」

 

シルヴァも無言で首を振る、魔力が切れた私なんて論外だ。

だとしたら心当たりは1人しかいない、今の彼女ならもしくは。

 

「ブルームスター、上です! 飛んでください、この肉塊の核は上にある!!」

 

「……! そうか、サンキューラピリス!!」

 

私が声を張り上げると、ツーカーの返事でブルームスターが箒に飛び乗る。

今の彼女から感じる魔力の圧はすさまじい、空の上なんてお手の物で飛んで行けるはずだ。

 

「……しかしラピリスよ、盟友が飛んだところで詳しい位置は分からないのでは?」

 

「…………あ゛っ」

 

『お姉、頼む』

 

「はいはい、ピッチャー振りかぶって第一球投げますわー!!」

 

自身の棍からクワガタ状の機械をむしり取り、綺麗な投球フォームを構えたツヴァイが投擲する。

プロも顔負けの球速で投げられたクワガタは離陸直前のブルームスターの箒へ取りつき、そのまま共にはるか上空へと旅立って行った。

 

「おおー、ナイピッチー」

 

「ふっ、今宵も私の魔法に狂いなく……後は頼みましたわよ園ー!!」

 

『おーまーかーせー……』

 

打ち上がるロケットの如く、ブルームスターの姿は瞬く間に雲の上へと消えて行く。

私たちではあの空には届かない、出来るのはせいぜい祈ることくらいだ。

 

「……あっ、そうだ。 そういやうちが拾った弾ってどうなったの?」

 

「おっと、それは私に任せなヨ! 資金をつぎ込めば成層圏まで届くライフルだってお手の……」

 

魔石が詰まっているはずのポーチに手を突っ込んだゴルドロスの動きが止まる。

みるみるうちにその顔は蒼く染まり、ゆっくりと引き上げられた腕は空を掴んだままだ。

 

「……ごめん、素寒貧だヨ」

 

「あらまぁ」

 

「ご、ゴルドロスー!?」

 

他の魔法少女を見渡してみるが、誰も銃を買い取るほどの魔石は持っていない。

既に皆消費済みか、倒しても回収出来る暇がなかったのだ。

しかしそうなると幾らブルームスターが活路を開いたところでトドメの一撃がない。

 

「……キヒッ、なぁんだ。 やっぱり化けて出てきて正解だったかぁ」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

 

『ブルームスター、お初にお目にかかる。 願わくば少し速度を落としてほしい』

 

《むむっ? マスター、箒の先っちょにクワガタが》

 

「クワガタ? ……ってなんだこれ、誰かの杖か?」

 

遥か高き肉塊の頂点を目指す飛行の途中、炎を吹き出す箒の穂にしがみ付いたクワガタのような存在に気付く。

中からの機械越しのくぐもった少女の声、ただの機械が無傷でこの箒に乗っていられるとも思えないし魔法的存在なのだろう。

言われた通り僅かに速度を落とすと、クワガタは箒をよじ登って体勢を取り直し、一息吐き出す。

 

『ふぅ……私は魔法少女ツヴァイの片割れ、あなたをこの怪物の核へナビゲートするために来た』

 

「そっか、助かる……なッ!!」

 

上空から降ってくる亀のような魔物の腹を蹴り抜き、爆散させた塵を振り払う。

この肉塊も今だ抵抗は諦めていないらしく、さきほどから様々な魔物が降って来たり壁から触手が突き出される始末だ。

だが躍起になって守るということはこの先に核があるというのは間違いじゃないらしい、皮肉にも肉塊の抵抗は俺たちの行動が間違いじゃないと裏付けている。

 

『……まるで誘蛾灯。 先ほどから魔物たちの攻撃は貴女へ集中している。』

 

「そりゃ弱点がばれたと分かったら必死になって守るもんだろ?」

 

『だとしても、虎の子の弾丸は地上の魔法少女が握っている。 こちらばかりに被害が集中するのは異常』

 

「そういうものか、地上は今どうなっている?」

 

『現状姉との通信は非常に安定。 今はこちらが目的地へ到着に合わせ、銀の弾丸(シルバーバレット)の装填準備』

 

《文字通り、ですね。 合図の方は任せましたよクワガタさん》

 

『……質問、先ほどから聞こえてくるこの頭の軽そうな声は?』

 

《喧嘩売ってんですかこのやろー!!》

 

はて、ハクとの会話は基本的に俺の脳内に響くだけのはずだが、同じ電子機器同士で変な電波でも拾っているのだろうか。

だがそれも気にしている余裕はない、気づけば雲はすぐ目の前で、そしてその中には羽をもつ魔物が多数待ち受けている影が見える。

 

『目的地はこの更に上、余計な足止めを喰らっている暇もない。 ここは戦闘を避け……』

 

《マスター、一度下がって!!》

 

ハクの警告で反射的に箒を操り、直角に高度を落とす。

すると壁から針のように突き出された肉の触手が俺の残像を貫いた、あのまま跳んでいたら頭を貫かれていたかもしれない。

 

「すまねえハク、助かった!」

 

《へっへーん、目の前の情報に踊らされるとはまだまだですね。 マスターのナビはこのハクが努めますとも》

 

『……この修羅場で人を煽るとはずいぶん余裕がある、今はたった一度の勝利を存分に味わうと良い』

 

同行者2人の雲行きが怪しい、今から雲の中へ突入するというのに縁起でもない。

だが足を止めて仲裁する時間も惜しい、致命的な仲たがいが起きる前に突っ切ってしまおう。

 

《マスター、前方の奴優先処理! いつぞやのニワトリです、流れ弾が地上に落ちます!》

 

『四時方向、コウモリ型。 過去の情報から推測するに超音波を放つ、こちらを先に処理すべき』

 

「ああもう、全員纏めて倒せば良いだろ!!」

 

案の定、意見が割れた2人の指示を聞き流し、手あたり次第に襲い掛かる魔物の横を()()()行く。

火の粉を散らす外套に触れた部位は一拍遅れて赤熱し、瞬時に燃え上がった炎が魔物の全身を包み込む。

振り返った後方には灰しか残らない、地上に届くころには灰とも分からないほどに散り散りになっているだろう。

 

『…………不本意ながらお見事、しかしこの力は魔法少女個人にしてはあり得ないもの。 何故?』

 

「いいや、合ってるよ。 この力は1人のもんじゃないからな」

 

あの時チャンピョンたちの下へ飛び出さなければ、無限に湧き出る魔物たちに食い千切られていたかもしれない。

あの時ラピリスに魔力を分けられなければ、騎士が辿り着く前に押し潰されていたかもしれない。

そして騎士がいなければ、今の俺へと繋がらなかった。

これはまるで聖火のように託されてきた力だ、そしてその炎は今、焼き払うべき邪悪へと届く。

 

あっという間に分厚い雲の層の終わりが見えてくる、その先に薄っすらと浮かぶ影はまるでカラスのようなクチバシが伸びたシルエット。

……いや、きっと巨大なペストマスクか。

 

『目標まで接敵10秒前、覚悟は?』

 

「とっくに―――――ああそうだ、初めに言っておくよ」

 

箒の柄を強く握り、箒の速度をさらに上げる。

東京を、東京を生きた人たちを取り戻す。 スピネが泣きながら描いた夢を終わらせるために。

この街の凍り付いた10年に、融かすために。

 

 

「―――――決めたよ、お前は今から火炙りだ」

 

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