俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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灰色の顛末 ②

『敵機沈黙。 見事、あなたの協力であの趣味の悪いペストマスクは打破された』

 

「…………ああ」

 

重力に引かれて墜ちる空の下、クワガタマシンから響く声に俺は生返事しか返せない。

もう体中が限界だ、気づけばあの紅い格好も解けていつもの白マフラーにローブに戻っている。

少し休もう、どうせ地に落ちた所で魔法少女の身体は死にはしない。

 

……結構高いけど、死なないよね?

 

『これほど高度からの落下記録はない、幸運を祈る。 ぜひ後学のために犠牲となってほしい』

 

《マスターのお墓を立てましょう》

 

「縁起でもない事言うな馬鹿ぁ!」

 

声だけ張り上げた所で、手元には箒に変える羽根も魔力も残っていない。

どうする? 折角全部解決したのに地面にたたきつけられて死にましたじゃ御笑い種も良い所だぞ。

 

「まったく、世話の焼ける人やなぁ」

 

耳をくすぐるようなこしょばゆい声、無限の浮遊感が続いていた身体が下からふわりと持ち上げられる。

衝突に備えて瞑っていた眼を開ければ、目尻に紅を引いた意地悪そうに微笑む少女と目が合った。

 

「ろ、ロウゼキ!?」

 

「“さん”を付けよか、うちのが多分年上やでー うふふふふー」

 

そして彼女に抱きかかえられたまま、長い降下を経てふわりと地面へと降り立つ。

あわや頭がザクロと散る所だったが助かった、ふらつく脚でアスファルトを踏みしめると、すぐさま他の魔法少女たちも駆け寄って来た。

 

「ラピリ……」

 

「――――成敗ッ!!」

 

「……スぐえぇ!?」

 

突っ込んだ勢いそのまま、ラピリスは体重を乗せて刀の柄を俺の腹へと突き立てる。

幸いほとんど魔力の残ってなかった一撃だ、大したことにはならないがそれでも悶絶するぐらい痛い。

 

「あぐぐぐぐ……な、何すんだよぉお前よぉ……!」

 

「ふむ、この程度も躱せないとは相当参ってますね。 重傷です」

 

「地面にぶっ倒れながら言った所でネ……」

 

痛みに悶えて地面を転がる俺と、初撃に残る全力を注ぎ過ぎて大の字で倒れるラピリスを、ゴルドロスが呆れ顔で見下ろす。

周りの魔法少女も苦笑いやら何やらで渋い反応だ。 ……その中にスピネとオーキスの姿はない。

 

「……ラピリス、あの2人はどこに行った?」

 

「…………彼女たちは、その」

 

口籠るラピリスが答えを返す前に、俺の目の前の地面からカミソリの刃が突き出し、その切れ込みから伸びた腕が内部の空間へ俺の身体を引きずり込む。

裂け目のなかへ呑まれる瞬間、視界の端で一瞬だけ見えたロウゼキは何をするまでもなくただ俺の姿を見送っていた。

 

……十分カバーできる距離にいたが、もしやわざと見送ったな?

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「こ、こんにちはぁ。 ブルームスター」

 

「お前かオーキス……ここは、お前の空間か?」

 

物体の表面や空間を切り裂いて、内部を自由に移動できるオーキスの魔法。

その存在から内部空間がある事は知っていたが、入るのは初めてだ。 俺とオーキス以外はどこまでものっぺりとした黒い空間が続いている。

 

「……オーキス、お前だけか?」

 

「……うん、朱音ちゃんは先に逝っちゃった」

 

困ったように笑ってみせるオーキスの目尻は腫れぼったい、スピネの最期を見届けた痕だろう。

彼女の最期は幸せだったろうか、もしあの時俺が間に合っていたのなら……

 

「ごめ――――」

 

「謝ったら許さない、たとえ七篠さんでも私は怒るよ」

 

「そう、か……ん、んん!?」

 

「あはは、やっぱりだぁ。 駄目だよ七篠さん、こんな簡単に引っかかったら」

 

狼狽える俺の姿に確信を得て、口元を隠したオーキスがくすくすと笑う。

は、ハメられた……! 流石、10年もの間修羅場をくぐって来た胆力は伊達ではない。

 

「ふふふ、なんとなぁくそんな気はしてたんだよね。 七篠さんも私の正体は薄々気づいていたでしょ?」

 

「……やっぱり君か、()()()()()

 

「せいかぁい……で、でもなんでそんな格好なのかな?」

 

やはりか、オーキスのオドオドとした喋り方にはどうも覚えがあった。

それと今の恰好については聞かないでくれ。 マナリア海溝よりも深い事情がある。

 

「多分七篠さんも魔法局に捕まったら困るよね、このまま適当な所まで連れて行くよ」

 

「そりゃ助かるけど……君はどうするんだ?」

 

「自首する、私たちがやった事は許されることじゃない。 最後にはあんな怪物まで生み出しちゃったんだから」

 

「……そうか」

 

彼女の決意を止めることはできない、それに今さら何を言った所で変わるものでもないだろう。

願わくば、彼女の与えられる沙汰に温情が与えられることを祈る。

 

「……ずるいよね、朱音ちゃん。 最後の最後に「生きて」って言われちゃった、そんなの無視できないよ」

 

「あ゛ー……妹ってそういうところあるよな、断れないの分かって言うんだよあいつら」

 

「七篠さんもそういう経験あるんだ―、へー」

 

時間にして5分もかからない他愛無い会話だったが、その中で初めてオーキスの素顔を覗けた気がする。

大丈夫、彼女ならこの先にある困難も乗り越えていける。 スピネが残した言葉はきっと呪いなんかじゃない。

 

「……うん、ここまで離れれば良いかな。 出口を作ったら私は戻るから、バイバイ七篠さん」

 

「ああ、多分ラピリス辺りが修羅の形相で取り押さえに来るだろうが頑張ってな」

 

「………………や、ややややややっぱりついて来てもらってもいいかなかなかかかかかなぁ!?」

 

「じゃあな、生きてたらまたいつか会おう」

 

「待って! 朱音ちゃんに、朱音ちゃんに誓ったばかりなのに死んじゃうからぁ!!」

 

道連れを喰らう前にすごすごと切れ目を潜り抜けて異空間から脱出する。

大丈夫、彼女ならこの先にある困難も乗り越えていける。 スピネが残した言葉はきっと呪いなんかじゃない、うん。

 

《……終わったんですねぇ、マスター》

 

「ああ、なんとかな。 さすがに疲れた」

 

泣き言が聞こえる異空間がゆっくりと閉じ、周囲を見渡してみると、すぐ背後には東京を覆う“天の壁”がそびえ立っていた。

空を見上げれば満天の星空だ。 夜を照らす光がない東京から見る空は眩しいほどに輝いている。

彼女達が飽きるほど見上げた空、そしてもう二人揃って眺める事が叶わない空だ。

 

《マスター、またスピネちゃんの事後ろめたく考えてません?》

 

「なんで分かんだよ、エスパーかお前は」

 

《マスターが分かり易すぎるんですよー。 ……生きている人間が下を向いたら駄目です、死んだ人間を想ってもそれは前に脚を進めての事ですよ》

 

「そうかよ……ああ、そうだな」

 

疲労を溜息に乗せて吐き出し、長い帰路に向けての一歩を踏み出す。

この東京を見下ろす星の群れを目に焼き付けながら。

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