俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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第二章:魔法少女事変
クライマックスの裏側で


「――――して、あれから魔物の出現頻度は?」

 

春の陽気に似つかわしくない冷えた空気が漂う会議室に重苦しい声が反響する。

特大の円卓を囲んで座る面々は各地を守護する魔法局の長達だ、皆揃って身体から湧きたつ凄みが違う。

 

……この私、槻波影一郎を除いて。

 

「各地の被害件数は依然変わらず、いや僅かではありますが一応減ってはおりますな」

 

「その程度ただの誤差に過ぎん、本当に魔力の門とやらは閉じたのか?」

 

「いやはや、無視できぬ数値とは思えますがな」

 

「どこがだ、そもそも3日4日で劇的に何かが変わるはずもあるまい。 そう思うだろう東北の?」

 

「エェ……ハイ、ソウデスネ……」

 

助けてくれ縁クン、この空間にいるだけで胃がガリガリと削られていくのがよく分かるぞ。

あーあー私だって花見がしたかったのになー!

 

「ふん、君は玉虫色の返事ばかりだな。 もう良い、君に聞いた私がバカだったよ」

 

「ううぅ……もうしわけない」

 

ああいやだ、自分のような若輩者にはとても辛い。

いつもは秘書として縁クンがフォローしてくれるが、今日に限っていないのだからすごく辛い。

だが今回の会議に限ってはそういう訳にはいかない理由がある、何せ形ばかりではあるが「東京攻略作戦」は私が発令したことになっているのだから。

そのせいか比較的交流のある東北他5県の各局長もおらず、私だけが代表として矢面に立っているのだ。 泣きそう。

 

 

「ふふ、沈黙は金言うてなぁ。 下手な事言わんぶん東北さんは御上手やなぁ」

 

「お、お褒めに預かり光栄だよロウゼキく……さん」

 

「ええよええよ呼び捨てで、流石にうちの方が年下やと思うよ? それにここらのシワクチャたちより老けとるとは思われたくないしなぁ?」

 

だが何故私はこの隣でコロコロと笑うロウゼキさん、いやロウゼキ様のお隣に座っておられ遊ばされるのだろうか。

いつもなら各々の席は決まっており、京都支部とはだいぶ遠い位置関係にあったと思っていたのだが。

 

「京都の女狐め……貴様はどう思う? この報告書によれば東京に存在する魔力の発生源は閉ざされたらしいが」

 

「せやなぁ、()()()()()()()()()()()()()()とウチは見てるわ」

 

「……なに?」

 

「もうこの世界は今ある魔力だけで十分に回ってしまうようになってしまったんやない? 降った雨がいつか海に戻るように、それだけ魔法がありふれてしまった……なんてなぁ」

 

「そ、それではオーキスクンの……スピネクンの犠牲は無駄だったというのかね!?」

 

「黙れ東北の! たかだか野良1人、議題と関係のない話を持ち出すな!」

 

「お前こそ黙り給えはげちゃびん! 魔法少女を守る長が、魔法少女の事を気にかけて何が悪いというのかね!?」

 

「は、ハゲ……!?」

 

……しまった、つい余計な口が出てしまった。

ああ不味い、鳥取支部局長の砂漠と化した頭部に青筋がビキビキと……

 

「……まあまあ、魔法少女のことを思うんは確かに正しいなぁ。 けどそれを喧嘩言葉で言うたらあかんよ、鳥取はんもそないムキになる事もないやろ?」

 

「…………ふん、次はないぞ東北の」

 

「は、はははははい! 以後気を付けますので申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

ロウゼキ様の助けがなければ特大の雷を喰らっていた所だ、あとで感謝の言葉を述べて五体投地しなければ。

鳥取局長にもあとで菓子折りをもって土下座しなければ、そうでもしなければ後が怖くて私の気が持たない。

 

「けど完全にスピネはんの犠牲が無駄とは思わんよ、減らずとも今以上に魔力が増える事もなくなった。 これは大きな進歩とちゃう?」

 

「しかしねぇ……結局魔物が減らなければ我々の心労も減らないのだよ」

 

「そもそも勝手な判断で閉じたのが間違いでは? 内部空間や仕組みなど調べる事は幾らでもあっただろうに」

 

「魔力に対して観測機器が無力であることを忘れたか、言い方は悪いが死に体1人で閉じられたのなら万々歳だろう」

 

再び喧々諤々の議論が飛び交う、驚くことにこの議会を回しているのは全て私の隣に座る少女の言によるものだ。

魔法少女ロウゼキ、災厄の日に生まれた「始まりの10人」が内の1人。

常に修羅場を潜り抜けて来た魔法少女当人の発言は重みが違う、お飾り局長の私とは大違いだ。

 

「……はいはい、その件は後でオーキスはんの処遇と合わせて話そか。 実は先に聞いてもらいたい話があってなぁ」

 

「ほう、君がそこまでもったい付けて語る時はロクな話がない。 内容は何だね?」

 

「察しが良くて助かるわぁ熊本はん。 うちな、東京攻略が終わったら真っ先に京都の本部へ戻ったんよ」

 

「それはそうだ、君の不在で京都の防衛戦力は大きく変わる。 それで?」

 

「――――うちで大事に大事に保管しとった“魔石”、無くなっとった」

 

そのひと言で瞬く間に大きなどよめきが広がった。

魔石、魔物から生成されるそれは一部の魔法少女のリソースや研究材料、加えて人工的な杖の素材ともなる貴重な鉱石だ。

各支部にもいくつか保管され、盗まれたとあっては一大事だが先の議題を遮るほどの事ではない。

だが“京都に保管されている魔石”に関してはその意味が大きく異なってくる。

 

「……()()()()1()0()()()()()()()()、盗んだのが誰か……なぁ、知らへん?」

 

部屋の温度が3度は下がった様な気がする。

隣の少女が浮かべる微笑は1ミリも崩れてはいないが、その微笑みが示す意味は180度変わっている。

我々は皆蛇に睨まれたカエルだ――――あれだけ白熱した議会は、一瞬にして沈黙に閉ざされた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

――――狭い路地に肩をぶつけながら、一目散に私は逃げる。

何から? 化け物からだ、冗談じゃない。 あれは一体何なんだ? 私が何をした!

ただちょっと魔法少女に()()()()()()()だけなのに、なんで、どうしてこんな目に……

 

 

「おいおい、鬼ごっこはもう終いかぁ?」

 

さっきまで後ろにいたはずのそれが、いつの間にか目の前に立ちふさがっていた。

ぶっきらぼうな口調、肩に担いだバチバチと帯電する剣状の何か。 まただ、また変わっている。

 

「なん、で……どうして!? ねえ!! 私何もしてない、あなたに何もしてないじゃない!!」

 

「ンなこたオレの知ったこっちゃねえよ。 ただテメェがその力を持ってんのが問題なんだ」

 

次で決めると言わんばかりに、彼女が担いだ剣がより一層輝きを放つ。

ゆっくりと歩み寄る彼女を前に、私の脚は竦んでロクに動いてはくれない。

 

「やだ、やだ……! やめて、なんで……私はただ()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「だからだよ――――テメェはここでクライマックスだ」

 

振りかぶった剣が振り下ろされ、私の身体を袈裟に通り抜ける。

身体を駆け巡る鮮烈な痛みと共に、私の意識は闇の中へと屠られた。

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