俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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オレたち参上 ①

「あっっっっっっっついヨー……ねーおにーさーん……もうちょっと冷房強くならないカナー……?」

 

「他のお客さんもいるんだ、これ以上下げられないよ」

 

珍しく客が多い店内、カウンター席には丁度今来店したばかりのコルトがぐったりと溶けている。

季節は春から夏へと移り変わっていく頃合い、だというのにカンカンと照り付ける太陽は真夏日の如くアスファルトを焼いている。

 

「どこもかしこも異常だネー、この日差しと言いお店と言いサ」

 

「いやー今年の花見弁当が意外と好評でさ、こうしてリピーターが付いたって訳よ」

 

「へー、そしておにーさんの顔見て離れるってわけだネ」

 

「言うな……」

 

別にスペースが狭い訳でもないカウンター席に座るのはコルト1人、他の客は皆テーブルスペースで優雅な食事を楽しんでいる。

カウンターに寄り付かない原因としてはまあ、厨房に居座る俺のせいだろう。

 

「でもここにあったベニヤ板は外したんだネ、おかげでおにーさんの顔がよく見えるようになったよ」

 

「ああそれな、優子さんが暑苦しいって言って引っぺがした。 あれがあると厨房の熱気が籠るんだよ」

 

「ワーオ、パワフル」

 

優子さんの傍若無人っぷりには慣れたものだが、今回のこれは困ったもんだ。

折角の掻き入れ時だというのにこれじゃ客足も半減、出来るだけテーブルスペースに顔が見えないように努めるしかない。

 

「うーん、でもなんでだろうネ? そこまで怖い顔にも思えないけど……いっそ魔法じみてるヨ」

 

「ほっとけ、店に立ち寄ったのは世間話をするためか?」

 

「もちろんそれもあるヨ、ただ話したいことはもう一つあるけど……今は無理カナ?」

 

ちらりとテーブルスペースの方へ視線を向け、コルトは口のチャックを閉じるようなジェスチャーを見せる。

人がいる前では話しにくい案件、魔法少女絡みの話か。

オーキスとスピネが起こした東京事変からおよそ1ヶ月、あれから特に魔物の出現率が減ったという話は聞いていない。

連日連夜ニュースを騒がせていた魔法少女たちの活躍は鳴りを潜め、いつの間にかTVからはいつも通りの番組が流れるようになった。

 

「それじゃ私はそろそろ……ああそうだ、このお店って小学生くらいの子はよく来るのカナ?」

 

「小学生? 学校帰りの中高生はよく見るけど……親子連れでもなければ滅多に見かけないな」

 

「ソッカー、じゃあ見かけたら気を付けておいてヨ じゃあまたネー!」

 

カウンターにドリンク代を大目に置き、椅子から飛び降りたコルトはそのままドアベルを鳴らし扉の向こうへ消えて行く。

小学生の客、話したいこととやらに何か関係があるのだろうか? 一応気に留めておこう。

 

《何やら不穏な感じでしたね、少なくとも嬉しい話ではなさそうです》

 

「同感、嫌な予感しかしない……」

 

「―――――なあ、誰と話しとるん?」

 

スマホの画面を覗いていると、不意に後ろから声が掛かった。

そこに居たのは1人の少女、夏らしいシンプルなノースリーブニットに、石竹色の花弁が舞う意匠を拵えたスカートがふわりと揺れる。

顔のサイズに合わないサングラスの下から透ける瞳は意地悪そうに微笑み、その下には艶やかな泣きボクロが自己を主張している。

……そしてそのホクロと雅な口調には覚えがあった。

 

「あら、ええ男。 けどなんやどこかであった気がするなぁ、なんでやろ?」

 

「ん゛っ、んー……気のせいじゃないかな? 悪いね、ちょっと通話していて……いらっしゃいませお客様、ご注文は?」

 

「…………ふーん、そうかぁ。 まあええわ、鳴神葵はんはおる? ロウゼキからって言えばわかると思うんやけど」

 

「あー、今はちょっと居ないなぁ……」

 

やはり、魔法少女としての衣装はなくともその特徴的すぎる喋りと雰囲気で何となくわかる。

目の前に居るのは魔法少女ロウゼキその人に違いない、しかしわざわざ京都を離れて一体何の用だ?

 

「まあアポ無しやから仕方ないなぁ、暫く待たせてもらうけどええかな?」

 

「あ、ああ。 別に構わないけどいつ帰ってくるか分からないぞ?」

 

「ええよええよ、多分戻って来た時の方が話も早いと思うし」

 

「……?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「こ、こここここんにちはぁ! 今日より魔法局に配属となるダークネスシルヴァリアⅲ世です! よろしくおねがいしましゅ!!」

 

「はーい、と言う訳で本日から共に活動するシルヴァちゃんです。 ぱちぱちぱちー」

 

「随分と手続きに時間がかかりましたね、私の時よりフットワーク重くなっていませんか?」

 

頭を深々と下げると隣に立つ縁さんが拍手の後、クラッカーを1つ取り出して景気よく鳴らす。

ここは魔法局にある作戦待機部屋、部屋には敷き詰められた畳の匂いが立ち込め、中央には場違いなメカメカしいテーブルが一台設置されている。

 

「……なぜ畳?」

 

「うふふ、趣味よ。 ごめんなさいね、本当はスタッフもちゃんと紹介したいのだけど、今はみんな忙しくて」

 

 

「縁さんも忙しいはずですけどね、東京から持ち帰ったデータの解析に掛り切りのはずでは?」

 

「うふふふ、シルヴァちゃんの案内が終わったらすぐに戻るわ……だからシルヴァちゃん、なるべく時間を潰しましょうね」

 

「ぜ、善処はする……」

 

よく見れば縁さんの虚ろな目の下には濃いクマが刻まれている。

ジャージの上に羽織った白衣にはコーヒーのシミが点々と付着している、一体何日寝ていないのだろうか。

 

「……しかし縁さん、なぜ彼女は変身状態で?」

 

「良い質問ね葵ちゃん。 こっちの方が話をしやすいのと、早速だけど仕事を1つ頼みたいからよ」

 

「我に仕事とな?」

 

すると縁さんはテーブル上の菓子皿やファッション雑誌を端に除け、開けたスペースに包み紙を1つ置く。

口を結ぶゴムひもを外すと、中から出てきたのは3粒ほどの錠剤だ。 それはうっすらと黄色、青、赤に色づき、両面にはすべて☆のマークが刻まれている。

 

「これ、何か分かるかしら」

 

「ラムネ菓子……ではないですよね」

 

「むむむ……ほんの僅かだが魔力を帯びておるような……?」

 

「シルヴァちゃん鋭い、流石ね。 察しの通りこの錠剤は魔力由来の品物よ」

 

縁さんがテーブル上に広げた錠剤を1つ摘まみ取る。

やはり彼女の細い指に摘ままれた錠剤からは微かな魔力を感じ取れる、それも魔物や魔法少女が接触した残滓という感覚でもない。

この錠剤自体が魔力を帯びているような。

 

「これこそ魔法局の新しい頭痛のタネ……この錠剤ね、実は“杖”なのよ」

 

「…………はい?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「うっへー、まーた遅刻だヨ。 サムライガールにどやされるネ」

 

ついつい猛暑に負けていつもの喫茶店で長居しすぎた、既に集合時間から30分は過ぎている。

それもこれもあの店の居心地が良いのが悪い、今度クレームをつけるついでにアイスフロートも注文しよう。

そう考えると太陽に焼かれるアスファルトを踏む足取りも何故か軽くなる、次回のサボりスケジュールを考えておかねば。

 

「…………ン?」

 

鼻をくすぐるその臭気に、思わず弾む足取りを止めてしまった。

 

……“臭う”、嫌ほど嗅ぎなれた魔力の臭いだ。 微かな臭いではあるがどうも距離が近い。

熱射に生気を奪われたサラリーマンが行きかうこの大通りに異変はない、だとすれば人目を外れた路地裏か……

 

「……上カナ?」

 

立ち並ぶビル群を見上げると、ビルの屋上を転々と飛び回る2つの影が見える。

パルクールのプロも真っ青のビックリ軌道だ、到底人間業ではない。

魔物か魔法少女か、何であれこの街を守るものとして確認しなければなるまい。 素早く路地に身を隠して変身し、狭い壁を交互に蹴って私はビルの頂上を目指した。

 

 

 

 

「――――ひいいぃぃぃ!! 後生でごじゃる後生でごじゃる! 見逃してほしいでごじゃるんじゃがー!!」

 

「ええい、往生せえや! いい加減にせんと怒るでホンマに!!」

 

壁を駆けのぼり、視界が開けると丁度向こうも追いかけっこの末に同じビルまで跳んで来たらしい。

その時、紫色の忍び装束に身を包んで泣きべそをかきながら逃げる少女と目が合ってしまった。

……彼女も魔法少女か? それにしては何と言うか()()()()()()()ような。

 

「ひえー! 地獄にブッダとはこのことでごじゃる! そこの人、お助けをー!!」

 

「はぁーん? 人様に頼ろうとは見上げた根性やな……うぅん?」

 

素早く私の背後に隠れたニンジャガールを追って、追跡者がその姿を現す。

大胆に太腿をあらわにしたトラ柄のチャイナドレス、一房の黒いメッシュが入った金髪を左側に寄せて結ったサイドテール。

それは肩に電撃を集めて作った様な大斧を担いだ、もう一人の魔法少女だった。

 

「……うげぇ、“本物”やん。 ツイとらんなぁ自分」

 

そして彼女は私の顔を見るなり、眉をひそめてすさまじく嫌そうな顔をして見せた。

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