俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

15 / 628
エマージェンシー・ゴルドロス エピローグ

空は既に夕焼けに染まり、どこか遠い空でカラスが鳴いている。

失態だ、委員会の仕事と本部への報告に時間がかかってしまった。

早く帰らなければ、ブルームスター以上の非常事態が近づいている。

 

焦る気持ちに否応なく早足になってしまう。

伝えなければ、早く、速く、迅く、あの人へ――――

 

近道の路地裏を抜けて、肩で息をしながら我が家の扉を開ける。

ドアベルが乱暴に鳴らした向こうに見つけたその人は、いつもと変わらずそこへいてくれた。

 

「――――お兄さん! 大変です、ゴルドロスが……悪名高い賞金稼ぎ(バウンティハンター)がやってきます!!」

 

「へー、そうなんダ。 大変ダネー」

 

「お帰りアオ。 うん、とりあえず手洗ってきな」

 

「……ゑ?」

 

いつもの店内、閑古鳥が鳴いているのはまたお母さんが勝手に店を休んだからだろう。

いつもと違うのはエプロンを付けたお兄さんが複雑な表情で店内に佇んでいる所と、

見知らぬ子供が1人、お兄さんの特製プリンに舌鼓を打っているという所だ。

 

いや、見知らぬ子供ではない、その顔はどこかで見たことがあるような……

 

「……あぁ! ゴ、ゴルドr……」

 

「HEYサムライガール、それはちょっとマナー違反だヨ」

 

はっとして口を両手で覆う。

こんな誰が聞いているかも分からない所で魔法少女名を口にするのはご法度だ。

 

「も、もうしわけ……じゃないですよ! 何であなたが居るんですか! 私゛の゛プリ゛ン゛!!」

 

「これは俺の分だよ、アオの分はちゃんと取ってあるから安心しろ」

 

「ンフー、yumyum♪」

 

縁さんから見せてもらった写真と同じ顔を綻ばして加名守コルトは笑う。

写真で見た顔はもっと人相が悪かった気もしたけど、こんな顔も出来たのか。

 

まあそれはそれとしてお兄さんと一緒に食べるプリンタイムを邪魔した罰は重い、月の無い夜は気を付けておけ。

 

「色々あってコルトも夕飯食う事になったから、今日はハンバーグだぞー」

 

「コルト!? 下の名前で呼んでいるんですかお兄さん!? 二人はどういった関係なんですか!?」

 

「お兄さんに“女の子”にして貰っちゃった関係……だよネ?」

 

「性質の悪い冗談を言うんじゃあない、あ゛ー……まあ色々あったんだよ、プリン食べるか?」

 

様々な感情の入り混じった複雑な表情を見せてお兄さんは答える。

悩ましいその表情も実に魅力的だがその色々な部分を聞きたいのであってああでもプリンは食べたいな早く手を洗ってこないと。

 

「私の分! 残していてください! 絶対ですよ!!」

 

「はいはい、ちゃんと指の間と手首までしっかり洗ってきなよ」

 

お兄さんの笑顔をしっかりと脳内に焼き付けてから私は台所に向けて駆けだした。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……で、あの子にはなにも言ってないノ?」

 

「言えるか、ブルームスターの秘密を知ってるのはここにいる二人+αだけだよ」

 

《マスター、誰が+αです? ちょっとこれは魔人権侵害ですよ誠に遺憾ですよ》

 

テーブルのメニュースタンドに立てかけたスマホが五月蠅い。

成り行き上仕方なかったとはいえ、この秘密はコルト以外に話す気はない。

 

「……フーン、そっかー。 2人だけの秘密かー……ンフフフフ」

 

何故だか知らんがプリンを匙で掬う少女は酷く機嫌がいい。

大丈夫だろうか、口外することはないとは思うがこのままポロっと口が滑ったりはしないだろうか。

 

「ハンバーグにチーズでも乗っけてくれればもうちょっと口も堅くなると思うんだけどナー?」

 

「……言っておくけどそんな高いチーズは無いぞ?」

 

何故かこちらの考えはお見通しだ、これも魔法少女としての能力なのだろうか。

高い取引だが仕方ない、確か冷蔵庫の中身に業務用のチーズが残っていたはず。

 

「……ネ、おにーさん。 居心地良いねここ、また来ても良いかナ?」

 

「いつでも来いよ、ただしうちは女の子は歓迎だが動物(ケダモノ)はお断りでね」

 

「むぅー……意地が悪いヨおにーさん!」

 

「ただいま戻りました! プリンはありますかハンバーグはありますか!」

 

台所の方からタオルで両手を拭きながらアオも戻って来た。

大人びた子だがこういう時は他の子どもと変わらない、黙って冷蔵庫から取り出したプリンを渡すと目をキラキラさせて受け取る。

 

「おにーさん、私もおかわりが欲しいヨ!」

 

「むっ、駄目ですよ。 夕飯前のプリンは1人1つです」

 

「ああ、しかもアオに渡したのが最後の1個だぞ」

 

「……言い値で買うヨ?」

 

「「駄目です」」

 

1人増えただけだというのに、その日の夕飯は実に騒がしくなってしまった。




加名守コルト(魔法少女名:ゴルドロス) 杖:変身人形テディシフター

平時でもゴシックロリータを着こなす金髪碧眼の小学三年生。
アメリカと日本のハーフ、帰国子女で日本語に慣れていないため喋り方に独特の癖がある。
常に変身アイテムであるクマのぬいぐるみを抱えている、名前は「テディ」。

変身時の姿はミリタリージャケットにイヤーマフと一変して飾り気のないものとなる。
固有魔法は魔石を通貨としてテディの腹部に突っ込む事であらゆるものを取り寄せる「対価の魔法」。
魔石は自分で調達するか、政府から幾らか支給されるものを使う。
また、テディの腹に魔石を埋める事で少しずつだが魔石が増える機能、本人曰く「金利システム」もある。
なおこの人形は魔法少女として目覚めた当日、両親に買ってもらうはずだった有名ぬいぐるみメーカーの新作に酷似している。

物品を引き出す際、「魔力コーティング」「使用者識別」「強度強化」などのオプションも追加で選択する事ができる。 ただしオプションを追加するごとに物品の値段も吊り上がるため注意が必要。
この際に出てくる物品がどこから取り寄せられるのかは不明、世界のどこかにあるものを取り寄せているのかもしれないしぬいぐるみの腹から生み出されているのかもしれない。

魔法少女としての根底にある願いは“取り戻したい”
魔法少女として目覚めた日、失ったものを取り戻したい彼女はあらゆるものを買い取れる能力を得た。
彼女がいくら魔石を積もうとも一番欲しいものは手に入らないというのに。

名前の由来はケルベロス+ゴールド+ロス(消費)
本名のコルトはアメリカの銃器メーカーであるコルト社から。

創作とはいえ子供に銃器の名前を付けるのはどうなんだろう。
初案ではもっと狂犬じみた性格だったが推敲を重ねるごとに丸くなっていった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。