俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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No Life ⑤

「みーたん! やっぱり止めよう、君達の身に万が一何かあったら私は……!」

 

「プロデューサー、このやり取り何度目? ミミたちがやるって決めたじゃん、折角の武道館ライブなんだからさ」

 

「そうですよ音羽(おとは)さん!! 自分達はここまで頑張って来たじゃないですか! 絶対絶対やり抜いて見せます!!」

 

畳が敷かれた控え室に、プロデューサーと呼ばれた女性と子供2人のやり取りが響く。

プロデューサーは目鼻がクッキリとしたヅカ系の顔立ちを涙で濡らし、ハンカチを噛みしめながら泣き崩れるが、子供2人はまるで気にしていない様子だ。

 

「あのぉー、お取込み中申し訳ありませんがこの後の打ち合わせについてちょっとお話が……」

 

「おお、魔法局の方! やっと来てくれたか、確か桂樹さんと槻波さんだったね!? 聞いてくださいよ、キバテビは今反抗期を迎えている!」

 

「いやぁ、さっきから居たのだがね……」

 

さきほどから私と縁クンを圧倒しているのが赤銅(あかがね)音羽(おとは)、無名時代から2人を支え続けたというキバテビの敏腕プロデューサーだ。

何度も写真を確認したので間違いはないはずだが、折角の美形を崩しておいおい泣き崩れるその姿は敏腕のびの字も無い。

 

「放っといて良いよー、いつものことだから。 魔法局の人が守ってくれるなら安心っしょ?」

 

「押忍!! 改めまして自分は鬼ケ原 灯(おにがはら あかり)、こっちのギター弄ってるのが赤銅 未美ちゃんです!! 本日はよろしくお願いします!!」

 

「う、うむ。 元気が良いねぇ君は、良い事だようん」

 

やけに声量が大きいおかっぱ頭の少女がビシっと見事な礼を見せ、真剣な面持ちでギターの調整を続けている金髪の少女の名と共に自己紹介を済ませる。

キバってBeat、通称キバテビ。 これが今を時めく大人気バンドユニットの2人か。

 

「しかし赤銅か……お二人はご家族なのかね?」

 

「局長……本当に資料に目を通しました?」

 

「ははは、構わないよ。 お察しの通り、私とみーたんは血の繋がりがなくてね」

 

「そだよー、ミミは養子。 魔力絡みの災害で親を亡くしてさ、プロデューサーに拾われた」

 

……頬に嫌な汗が流れる。 おや、もしや私は今酷い地雷を踏み抜いてしまったのでは?

隣に立つ縁クンの方へ視線で助けを求めると、頭を抱えた彼女は目を逸らすばかりで助けてはくれない。

 

「別に気にしなくても良いよー、両親の顔も覚えてないし。 今じゃプロデューサーが親みたいなもんだしね」

 

「だからこそ心配なのさ! この脅迫文を読むだけで胸が引き裂かれんばかりの思いだ、やっぱり今からでもライブは止め」

 

「はいはい話は後で聞くから出てった出てった! ごめんね魔法局の人、お着換えするからちょっとプロデューサー連れて出て行ってもらえるかな?」

 

「今日の衣装は気合い入っているので!! お楽しみにお待ちください!!!」

 

「あー、ちょっと待ってみーたん! あかりんも! 良いかい、もし何かあったらすぐに防犯ブザーを鳴らし」

 

彼女が言い終わらぬうちに、少女2人の手によって我々は無碍なく追い出される。

さすが今人気急上昇のバンドユニットという所か、大人3人軽く締め出すほどのパワーに溢れている。

 

「もう、局長がいきなり不躾なこと言うからですよ!」

 

「や、やっぱり私のせいなのかね!? どうしよう縁クン、今からでも菓子折りを持って渾身の土下座を……」

 

「いや、本人も言った通り気にしないでくれ。 むしろ土足で踏み込まれることをあの子は嫌うだろう」

 

一通り涙を拭ったプロデューサーがハンカチを胸ポケットにしまい、襟を正す。

今までの狼狽した様子は何処へやら、そこには宝塚顔負けな顔立ちの女性が1人立っていた。

 

「改めまして、キバテビプロデューサーの赤銅 音羽です。 以後お見知り置きを」

 

「こちらこそ、ですが今は自己紹介の時間も惜しいです。 再度の確認になりますがライブは予定通り開催を?」

 

「ええ、再三止めてきましたが2人の意思は固い。 無理やり止めると暴走した2人が何をしでかすかわかったもんじゃない」

 

胃の辺りを抑えたまま見せる苦虫を噛み潰したような表情は経験から来るものか。

出会って数分ではあるが、確かに活力が漲っているあの2人組は放っておくと大事を招くような素養があるように思えた。

 

『分かってんじゃんプロデューサー! そう言うことだからボディガードはよろしくね♪ あっ、それと魔法少女の人たちにもあとでお礼言わせて!』

 

『良かったですねミミちゃん!! 抜け出し路上ゲリラライブ作戦は決行せずに済みそうです!!!』

 

こちらの話に耳を傾けていたのか、固く閉ざされた扉の向こうから少女2人の元気な声が飛んでくる。

同時に着替えているのだろうか、会話の合間には絹擦れや脱ぎ捨てた衣類が落ちる音も聞こえてくる。

あれ、これもしや倫理的に私が聞いてはいけないものでは?

 

「聞いての通りです、実際過去にも一度抜け出したことがあったので強く言えず……」

 

「分かりました、現場の警備は予定通り私たちが行います。 何か異常がありましたらこちらの無線機で連絡をください」

 

「ええ、どうかみーたんとあかりんの事をよろしくお願いします。 ……歯痒いな、せめて私に魔法少女の力が残っていれば」

 

「へぁっ?」

 

思わず間抜けな声が零れてしまった。

魔法少女? 今の目の前にいる彼女が? 昔?

 

「……ああ、しまった。 てっきり十角から話は聞いていたと思ったのだが、今のはオフレコで頼みます」

 

「いや気になるのだがね!?」

 

「と、十角さんと知り合い……? ままままさか始まりの――――」

 

縁クンが泡を吹いて倒れそうな衝撃を受けている最中、彼女の胸ポケットに仕舞われた無線機から着信を伝えるメロディーが流れ始めた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ええ、そうです。 こちらで保護し……ええ、分かってます。 それでは」

 

ゾウが踏んでも壊れそうにないごつい無線機を片手にしたアオが、どこかへの通話を終える。

今の俺はブルームスターの恰好で、アオ達と共に用意された席にお座りしている状態だ。

すり鉢状に落ちくぼんだ会場の最下段、中央に位置するひし形のステージから一番近い位置だ。

 

「なるほど、何かあればすぐ舞台に飛び込める位置デスね」

 

「本当なのか? キバテビの2人が襲われるって」

 

「襲われるかどうかはまだ定かではありません、悪戯であってほしいですがね」

 

アオから事情を聞いた俺たちは、一時休戦として協力関係を築くことになった。

魔法局としても大事の前にこんな野良と小競り合いをしている場合ではない、騒ぎを起こして大物を逃がしたら最悪だ。

こちらとしても脅迫犯とは見過ごせない問題だ、互いに利があって今に至るのだが……。

 

「コルト、写真撮るのやめろお前!」

 

「ぷくく……! いや、よく似合うなと思ってネ……!」

 

「わぁ……ななs……ブルーム、可愛い……」

 

「くっ……殺せッ!」

 

《マスター、それ逆効果ですよ》

 

俺の隣に座るコルトが手に持ったカメラで余すことなくこの黒ワンピース姿を写真に収め、タツミの横に座る詩織ちゃんは目をキラキラと輝かせてこちらを見つめている。

コルトは俺の中身を知っているからこその嫌がらせだな、お前今度店来たら覚えていろよ。

 

「じゃれ合いはそこまでにして下さい、そろそろ始まりますよ」

 

ステージ上に取り付けられた巨大モニターはライブ開始までの時刻を正確に刻んでいる。

刻一刻と減るカウントは今ちょうど5分前、脅迫犯が何かアクションを起こすとすればその時だ。

果たして鬼が出るか、それとも蛇が出るか――――

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