俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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No Life ⑧

「ヤバいって、なにこれ!?」

 

「ねー、あのステージに立ってる子誰?」

 

「TVで見たことある、ラピリスとドクターだ! でもドクターって……」

 

「おい、何でドクターがここにいるんだ!?」

 

不味い状況だ、正気に戻った人たちから中心に徐々に混乱が広がっている。

この膨らんだパニックが破裂したら収拾がつかなくなる、狭い出口を求めてこの人数が押し寄せると死傷しかねない。

舞台上の4人も気になるが、私達の仕事はこっちだ。

 

「はいはい、皆落ち着いてネー! ライブは一回中止だヨ、ここは危ないから落ち着いて避難しようネー」

 

取り出した拡声器を片手に呼び掛けるが、観客はどよめきが広がるばかりで皆動いてはくれない。

すでに縁には連絡を取っている、すぐに魔法局員が避難誘導に来るはずだが、それまでにこの混乱を納められるだろうか。

 

「ねーおかーさん、あのこだれー?」

 

「わあ、ゴルドロスもいるじゃん! やっば、超バエル。 まつ毛なっが! 金髪きれー!」

 

「魔法少女が何でここにいるの? ねえ、もしかしてここって危険、なん、じゃ……」

 

その時、会場中に伝播するどよめきに差し込む様な音色が響き渡った。

そして混乱した観客が1人、また1人と魂が抜けたかのように立ち尽くす状態へと戻る。

 

まただ、さっきの私もこのヴァイオリンの音色を聞いて意識を失ったんだ。 

強い意志で抵抗するか、外からの強い衝撃で立ち戻れるようだがこうも繰り返されては避難誘導もままならない。

 

『コルトちゃん、大丈夫!? 今すぐに局員が駆け付けて……』

 

「縁、やっぱり駄目、作戦変更! 変なヴァイオリンのせいで皆動けなくなってるヨ!」

 

『んー……!? わかった、状況を詳しく伝えて頂戴!』

 

「えーと、今は……」

 

ミイラ取りがミイラになる前に局員の投入を止めたはいいが、この状況をどうしたものか。

観客全員を人質に取られたようなものだ、3人だけでカバーは……

 

「……あれ、そういえばあのムラサキガールは?」

 

「おーい、金ぴかさん! こっち、こっちデス!!」

 

不意に自分を呼ぶ声が聞こえる。

自然とそちらの方へ目を向けてみれば、この会場と外を繋ぐ扉の一つに取りついた二人の魔法少女の姿が見えた。

 

ムラサキガールの頭にはカウボーイハットが被り、ウエスタンを思わせるベストとジーンズにはガンベルトと、腰から伸びた布地がふわりと広がっている。

拍車のついた靴で先ほどから固く閉ざされた扉を蹴り破ろうとしているようだが、魔法少女の脚力でも扉はビクともしないようだ。

 

「こんにゃろー! パワーが足りんデス! こうなった吹き飛ばして……」

 

「ま、待て! こんな所で魔法など振り回すな!?」

 

「二人とも! そんな所で何やってるのサ!」

 

「見てわからんのデスか! さっきからこの扉が開かんのデスよ!」

 

拳銃のような形に固まった雷の塊を2丁握って振り回し、乱暴に扉を蹴りつけるムラサキガール。

よく見れば扉の取っ手の部分には、四角いブロックを組み合わせて作られたような角々しい南京錠が掛けられている。

16bitのゲーム機に使われるような、その錠前のデザインには見覚えがある。

 

「……ドクターの仕業カナ、これは」

 

「知っているのかゴルドロスよ、ならばこれはどうすれば良い!?」

 

「いやー、私も詳しい仕組みまではちょっと知らないんだよネ……」

 

「ひとしきり見て回ったのデスが、全部の扉がこの調子で閉じられていたデス。 ついでに壁を壊すのも無理デスよ」

 

「まいったネ、これじゃ皆を逃がせない……ヨッ!」

 

試しに私も飛び蹴りを叩きこんでみるが、アルミで作られた薄っぺらいはずの扉はミシリともしない。

これがドクターの魔法で保護されているというのなら、こちらも魔法で対抗するしかない。

だがここで私の銃やシルヴァ―ガールの魔術を振り回せば、跳弾や余波で観客に危害が及ぶ可能性が高い。

 

せめて全員を安全な距離まで退避させればいいのだが、ヴァイオリンの音色に微睡んでいる観客たちは自分の意思ではその場を動こうともしないだろう。

音の主を探すか? いや、サムライガールの加勢、それとも観客の保護が優先?

3人で手分けして行動を……ああダメだ、さっきから聞こえる旋律のせいで集中できない。

 

『――――おい、そこに誰かいるのか!?』

 

頭を抱えていると扉の向こうからくぐもった声が聞こえてくる。

その声はおにーさん……いや、ブルームスターのものだ。

 

「その声、盟友か! そうか、先ほど席を立っていたから……」

 

「デスデス、ブルームさん! そっちから扉は開かんデスか?」

 

『多少ガタつくけど開かないんだ、そっちは今どうなってる!?』

 

向こうからこじ開けようと無理矢理に引っ張っているのか、南京錠の掛けられた扉はガタガタと震えている。

こちらからではビクともしなかったが、どうやら内側より外から加わる力には弱いらしい。

 

「こっちは色々あって大変だヨ、観客は動かせないしドクターが現れた!」

 

『ドクターが……! 分かった、あとはこの扉が……』

 

「ちょっとやそっとじゃ壊れないから全力で壊していいヨ! シルヴァ―ガール!」

 

「ああ! こちらは周囲に被害が及ばない様に防壁を備える、気にせずやるが良い!」

 

「うちは後ろから応援してるデス!」

 

『うん、危ないから下がっててな! それじゃ行くぞ!!』

 

 

≪――――BURNING STAKE!!≫

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……キバテビの2人とも、下がっていてください。 可能な限り私から離れない様に」

 

ギターとドラムスティックを抱えた2人を背後に庇い、大剣を構えて目の前のドクターと対峙する。

護衛なら大剣(こちら)の方が都合がいい、2人を置き去りにしてしまうような速度は出せない。

 

「……手、怪我をしているね。 大方“ファガリナ”の支配から逃れるためなのだろうけど、相変わらず無茶をする」

 

「人の心配ですか、余裕ですね。 ファガリナというのはこのヴァイオリンを演奏している魔法少女ですか?」

 

「ノーコメントで、答え合わせが簡単だとつまらないだろう?」

 

「減らず口を……」

 

ドクターと対峙しながら、周囲に気を配るが他の魔法少女の気配は感じられない。

こうも会場中に反響しては音の発生源も特定が難しい、せめてドクターが居なければじっくりと探せるのだが。

 

「さて、一応聞いておくが大人しく引く気はないかな? 用があるのはそちらの2人なのでね」

 

「お断りします、そちらこそ大人しく身柄を拘束されるつもりは?」

 

「無いね、残念ながら交渉は決裂したようだ。 悪いがちょっと怪我をするぞ」

 

「それはドクターが、ですか? 私と戦って、あなたが勝てると」

 

ドクターが扱う魔法は知っている。

自身の杖となるゲーム機にカセットを挿入し、対応するキャラクターを呼び出す。

それ自体は汎用性が高いが、特化した能力に欠ける分どちらかといえばサポートに回る事が多い魔法だ。

 

貴重な回復能力と言う事もあり、彼女自体が表舞台に回ることは少ない。

逆に戦闘能力に特化した私に対し、1vs1での勝機は薄いはずだが。

 

「……まさか、ボクが無策で現れたなんて思ってないよね?」

 

「で、しょうね――――」

 

彼女が初めから我々を裏切る気なら、手の内を全て見せるはずがない。

何かしら隠した手段はあると考えていたが、ドクターが白衣のポケットから取り出したそれは想像以上のものだった。

 

「……黄金色の、カセット?」

 

「ああ、君が本当にボクを止める気なら、人質をかなぐり捨てて双刀を使うべきだったよ」

 

 

 

≪―――――超・無敵大戦!!≫

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