俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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この鼓動は止まらない ②

 

会場前に広がる石畳が敷かれた広場。

本来ならば車両は立ち入れない歩行者専用の場所ではあるが、今この一時だけは魔法局の車両が停められ、周囲には複雑な機器やらケーブルが展開されている。

その中にはこの私、槻波影一郎もいる訳だが正直周りのモニターに映される数値は殆ど分からない。

 

「局長、退いてください! ただでさえ体積が大きいんですからもっと端の方にどうぞ!」

 

「役に立たない自覚あるけどもっと歯に衣着せて良いと思うよ縁クン! ごめんなさいね!」

 

私の仕事はせいぜいメイン会場を映している監視カメラの映像を見守ることぐらいしかできない。

向こうでは今まさに、ヴァイオレットクンが連れた謎の魔法少女と激突している最中だ。

 

「ええい、何故こちらの攻撃が効かないのかね! 壊れているんじゃないかこのカメラ!?」

 

「どう壊れたらそうなるんですか。 純然たる事実です、絡繰りは分かりませんけど今のドクターにこちらの攻撃は効きません」

 

後の作業を忙しなく動く職員たちに任せ、額に汗をにじませた縁クンが私の横でカメラの映像を観察し始めた。

目をさらのようにしてその眼は真剣そのもの、いつものような気の抜けた雰囲気は微塵も感じない。

そこにいるのは第二魔力学の女傑その人だ。

 

「縁クン、なら意見を聞くが彼女の力はどう思う? 何か弱点とか見つからない?」

 

「……カメラ越しでは何とも言えませんが、少なくとも魔力を伴った干渉は全て防いでいるように見えます。 今の彼女達では太刀打ちできない」

 

「そ、そんなぁ」

 

太刀打ちできません、じゃ困る。 とても困る。

このままむざむざ幼気な少女たちを犠牲にしてはご先祖さまにも顔向けできない。

こうなったら致し方あるまい。 男槻波影一郎、今こそこっそり習っていた通信空手の力を見せる時ではないだろうか。

 

「言っておきますが無謀な突貫とか止めてくださいよ! あのヴァイオリンを聞いてしまえばそれで終わりです、中に残った職員ともまだ連絡が取れていないんですから!」

 

「ぐ、ぐぬぬ……! プロデューサークン、元魔法少女としての君の意見を聞きたい!」

 

「……失礼、少し映像の音量を上げてほしい」

 

ずっと背後で画面を睨みつけていたプロデューサークンに意見を求めると、彼女は何かに気付いたのか画面の操作を求める。

機械越しの音声なら問題はない事は既に分かっている、縁クンもすぐに承諾して音量を上げるとヴァイオリンの音色がより鮮明に響く。

 

「うーん、こんな状況じゃなかったらとってもいい演奏だと思うのになぁ……」

 

「……やはり、この音は……ありがとう、少し用事が出来た!」

 

「ふえぁ!? ちょ、ちょちょちょどこに行く気ですか!?」

 

やはり何かを確信した彼女は、弾かれたように走り出した。

腐っても元魔法少女、その足取りは素早く止める間もなく見る見るとその姿は小さくなっていく。

その背は一直線に―――――魔の音色が満ちる、会場へ向かって。

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

 

「上から来るよ! 次右! 一拍置いて……左右から来る!」

 

「あああああああもう! 厄介極まりないヨ!!」

 

キバテビの指示を受けながら、襲い掛かる不可視の攻撃を辛うじて躱し続ける。

音速で飛んでくる音の塊は予備動作の音色を聞き分ける協力がなければ到底躱しきれなかっただろう、ただ問題は回避に精いっぱいでこちらが攻めに転じる暇がないという所か。

加えて多少無理に攻撃しようとしても……

 

「こんの……! 喰らえデス!」

 

「おっと、危ない危ない」

 

これだ、幾ら飛び道具を飛ばしたところでドクターが自らの身体を差し込んで止めてくる。

俺やラピリスの炎も駄目、さきほどから撃ち込み続けている電撃も駄目。

まずいな、有効打も無いままファガリナとドクターの攻勢が続いている。

 

「あーもう! なんデスかあれ!? 反則にもほどがあるのデスよ!!」

 

「言っただろう? このカセットは無敵だ、害ある攻撃は一切通らない」

 

表情一つ変えず、ドクターは何事も無かったかのように乱れた襟を正す。

いくらか疲労の色は見えているが、それでも圧倒的にこちらの消耗が大きい。

俺たちだけじゃない、キバテビの2人もだ。

 

飛んでくる音の玉の前兆に耳を済ませるため、玉のような汗を流す彼女達は自分達の演奏に集中しきれていない。

そのせいか今までぽつぽつと正気を取り戻していた観客の数も減り、状況は振出しに戻ってしまった。

このままいけばいずれ避けきれずに被弾、全滅……いや、その前に集中力が途切れてしまえばあのヴァイオリンの虜だ。

 

「ふへー! 結構きついね、アカリ!」

 

「全くですねミミちゃん! これは終わったら鍛え直さないと駄目です!!」

 

「ふぅー……ふぅー……! 本当しんどいネ、どうしたものカナぁこれは……!」

 

「………て、手は……ない訳では、ない……」

 

汗を拭った腕でシルヴァは手に持った分厚い本の1ページを千切り取る。

内容を読み取る余裕はないが、千切った紙片にはすでに美麗な筆跡で綴られた呪文が刻まれていた。

 

「これをどうにかドクターに触れさせれば、動きを封じる算段が我にある。 ただ問題はどうやって触れさせるかだが……」

 

「相手もシルヴァの魔術は警戒しているはずだ、そう簡単に通せるものじゃない」

 

「つまり通す努力をすればいいだけの話デスね、そういうことなら私が布石を()()()おいたのデス」

 

「いいネ、一体何を仕掛け――――」

 

「金髪さん、頭狙ってくる!!」

 

当然だが相手ものんびりと相談する時間をくれるはずもない。

ゴルドロスが上体を傾けて音の玉を回避しようと試みるが、躱しきれずに見えない何かがこめかみを掠め、千切れる金の髪とともに傷口から赤い液体が噴き出す。

 

「ゴルドロス!」

 

「ッ! 大丈夫だヨ、ちょっと掠っただけ!!」

 

体勢が崩れたゴルドロスの前に立ち、好機を逃さず飛んでくる追撃をなんとか箒で防ぐ。

目視できないのは脅威だが一発一発は軽い、魔力をこめれば箒でも十分防ぐことはできる。

 

「……ふむ、見えない攻撃をここまで躱されるとは思わなかった」

 

「ごめんなさい、ヴァイオレットさん……」

 

「なに、君が謝る必要はない。 元々彼女達を倒すことが目的じゃないんだ、君は演奏に集中してくれ」

 

「くゎー! ムカつくデス、こっちはいっぱいいっぱいなのに余裕しゃくしゃくデスよアレ!」

 

「防戦一方なのは確かだからな……ドクター、俺たちが狙いじゃないってなら目的はなんだ!」

 

標的は分かっている、俺たちの背後にいるキバテビの2人だ。

けど先ほどから放たれる音の玉は俺たちだけを狙い、背後の2人を傷つけることは1度もなかった。

ならばその目的はなんだ? 観客を人質にとってまでして一体なにを望んでいる?

 

「2人とも、あのファガリナって魔法少女に何か恨まれるような覚えはあるカナ?」

 

「ないです! 見覚えもなにも!!」

 

「うーん、でもなんかこの音に聞き覚えはあるような……」

 

「顔による判別は難しいと思うぞ、それに我みたいなタイプもいるから……」

 

「ああ、見た目で判断できないってのは覚えがあるので同感デス……」

 

見た目が当てにならない魔法少女2名が気まずそうに目を逸らす。

その件については自分もだから同調したいが、そもそも魔法少女なら見かけの情報なんて元から当てにならない。

 

「あはは、君達とは面識がないのかもしれないね。 さらに言えばファガリナ自身も君達に私怨の類は無いよ」

 

「なんだと? だったらなんで……なん……で……?」

 

「――――その怨みとやらはこの男が握っているのでしょうかね」

 

ファガリナ達の背後に立つようにし、ドクターに投げ飛ばされたはずのラピリスが着地する。

それだけだったら何も言うことはなかった、むしろそのまま背後から奇襲の一つでもくらわしていたはずだ。

だが降り立ったラピリスの状態は奇襲どころではなく、それゆえに絶句した。

 

……ラピリスの傍らには、先ほど廊下でぶつかった男性が両手を縛られたまま立たせられ、その喉元に刀を突きつけられていたのだから。

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