俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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この鼓動は止まらない ④

きっと私は酷い事をしている。

大好きだったヴァイオリンで、何の罪もない人を傷つけようとしているのだから。

 

……うん、好き“だった”。 私が楽器を鳴らすと、お父さんは何でも喜んでくれた。

それがいつからか怖い顔になって、怒って、泣きじゃくって、私を叩くようになったのはいつからだったろう。

もう覚えてないや、お母さんとも離婚してからお父さんは更に怒るようになった。

神様の音楽なんて分からない、聞いた事も無い音なんて引けるわけがない。 だけど、出来ないと怒るんだ。

何時からか大好きだったお父さんが好きじゃなくなった、ただどうやったら怒られないかだけを考えるようになった。

 

そんな事ばかり考えている自分も好きじゃなくなってしまった、どうしてこんな事になってしまったんだろう。

……その原因が今、目の前にいる。

 

「ゴルドロス!! ファガリナを止め――――」

 

五月蠅い、もう間に合わないのに大声を出さないで欲しい。

うるさい、うるさいうるさい、うるさい、お父さんもこの子たちも皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆皆。

お父さんもヴァイオリンも魔法少女も音も光も何もかも皆――――

 

「――――静かにしてよッ!!」

 

先端から根本まで、ピンと張った弦が全て羽型の意匠を通過して荒々しい音を掻き立てる。

旋律やら音色なんて到底言えないただの雑音、それが魔力を伴って全方位に放たれた。

強烈な音の波、それは周りの魔法少女を全て巻き込んでなぎ倒す衝撃だ。

 

鼓膜を震わせる悲鳴と苦悶の声がうるさい、浮いた身体が地面とぶつかる肉質な音がうるさい。

ただ独り、ヴァイオレットさんを除いた全員が見えない壁にぶつかったかのようにその場から弾き飛ばされる。

ラピリスと言う名前だったか、刀を持つ物騒な魔法少女に抱えられたお父さんももちろんその中に含まれていた。

 

「グ……はは、は! 愚にもつかない雑音だ、乙音! 神の音色には程遠い、お前にはその程度か! お前も、そこの2人も神の領域には程遠い!!」

 

「ヅぁ……! 本当に何ですか、この人……!?」

 

音の塊で殴られたというのに元気な人だ、自分の父親だけどはっきりとおかしいと思う。

脳を揺さぶられる衝撃で、お父さんを拘束していた魔法少女は痛む頭を抱えて膝をついているというのに。

 

「なら、もういい……音羽君、君もだ。 神の才能を放棄したのはその2人のためか?」

 

焦点の合っていないお父さんの視線が、衝撃波で吹き飛んだ2人の少女へと向けられる。

五月蠅いけど心地の悪くなかった音色を奏でた、あの2人へ。

 

「っ……! やめろ! みーたんもあかりんも関係ない、あなたの狙いは私だろう!?」

 

「だが、君の才能を阻む枷がある! ならば私がそれを砕こう、偽りの歌姫を壊して神の音色を再編するために!!」

 

五月蠅い、甲高く叫ぶその声が耳障りだ。

逆らうと余計にうるさいから、私はふらつく足取りで標的の2人の下へと歩いて行く。

……この弓の射程に入ったら、私は人を殺さないと駄目なのだろうか?

 

「いてて……うえぇ頭痛くて気持ち悪……あっ、ファガリナちゃんだっけ? おいっすー……」

 

「同じく頭が痛いです……! お尻もとても痛いです……!」

 

この2人は、お父さんたちの物騒な会話を聞いていなかったのだろうか。

先ほどまでと変わらない調子で、座り込んだまま敵であるはずの私に対してにこやかな挨拶を向けてくる。

脳が揺すられて立ち上がるのも難しいはずだ、逃げる事も出来ない状況で何でここまで平然としていられるのだろう。

 

「……怖く、ないの?」

 

余りにも平然としているので、つい口から疑問が零れていた。

はっとして口を塞ぐがもう遅い、流石に音楽家だけあって2人は私の呟きを聞き逃してなんかくれなかった。

 

「別に? 今あったばっかりの子を怖がれって言われてもさ」

 

「……私はあなたたちを殺そうとしている」

 

「でも演奏とても上手でした! だから大丈夫です!!」

 

…………どうしよう、お父さんとは違う形で話が通じない人たちだ。

いや、話す必要なんてそもそもなかったんだ。

でも、でもちょっとだけ――――ヴァイオリンの事を褒められてちょっとだけ胸がほわっとした。

 

「そうだ、今度一緒にライブ……」

 

「乙音、何をしている愚図め! 殺せ、音羽君の枷となる2人を!!」

 

……雑音がうるさい、怒らないで欲しい、喚かないで欲しい。

私はまだ、この2人の声を聴いていたいのに。

 

「……ファガリナ、ごめんね。 ちょっとボクの後ろに」

 

「え……きゃっ!」

 

突然横に現れたヴァイオレットさんに肩を掴まれ、後ろに引かれる。

そしていきなり引っ張られてよろめいた私の髪を掠めて、雷の球が鼻先を通過していった。

 

「チッ! 惜しいデス……!」

 

「無粋な真似をするね、人の話を遮るなんて」

 

球が飛んで来た方向を見れば、うつぶせのまま忌々しそうに舌打ちする紫色の女の子が居た。

その腹の下には煙をくゆらせる銃口が見える、ヴァイオレットさんが助けてくれなければ当たっていた所だろう。

 

「いい加減無駄だと気付いてほしいな、電気だろうと炎だろうとボクには……」

 

「あー……その件デスが、1つ誤解があるようなので言っておくデス」

 

「……なに?」

 

≪――――Quattro Charge!!≫

 

倒れ込んだまま、犬歯をむき出しにして紫色の女の子が笑うと、やけにテンションが高い音声が鳴り響く。

それと同時に、銃の形を作っていた電気エネルギーが霧散し、その下に隠れていた携帯電話をむき出しにする。

 

「アンタらが電気だと思ってた弾丸デスけど―――――これ、どっちかというと“磁力”に近いデス」

 

「磁……っ!! ファガリナ、ボクから離れ―――!」

 

「さて、あなたは()()()()()()()()デスかねぇドクターさん!」

 

ヴァイオレットさんが何かに気付いたが、その時にはもうすでに遅かった。

私達の足元に、どこからか一本の細長いネジが転がってくる。

それはコロコロとヴァイオレットさんの方へ導かれる様に転がって……

 

……そのネジの根元には、器用に折りたたまれた紙片が結ばれていた。

 

 

「遅いぞドクター、そこはもう我の射程内だ」

 

銀髪が綺麗な少女がその手に持った分厚い本を閉じると、ネジに結ばれた紙片が光り輝き始めた。

 

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