俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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サマーウェイブ・バケーション? ①

『……というのがあの会場で起きたことの全てだ、まったく何もできないというのは歯痒いな』

 

「そんな事あらへんよ、あとはうちに任せときぃや」

 

受話器の向こうで臍を噛む友人の声を聞きながら、手元の書類にペンを走らせる。

格式ばった書類の上に走るペンは、積み上げられた報告書に「確認済み」のサインを書き上げていく。

 

「……それと音羽はん、分かっとるとは思うけどあの薬には」

 

『ああ、手は出さないさ。 君やみーたん達に口を酸っぱくして言われているからね、頼まれたって飲む気は失せたよ』

 

「そりゃよろしゅう、何か情報があったらうちに教えてぇな」

 

『……それと、良子の容態についてだけど』

 

「うん、進展なしや。 そのファガリナいう子とほとんど同じ、あんじょう眠っとる」

 

筆記を一度止め、机の脇に置かれた写真立てに視線を移す。

かつての仲間たちと撮った数少ない全員が揃った写真、端の方で控えめにピースサインを取る良子と、その肩を組む若い日の音羽の姿が写っている。

 

『そうか……馬鹿な真似を、十中八九ウィッチクラフトとやらが関わっているんだろうな』

 

「せやなぁ、それは間違いないと思うで。 目ぇさましたら怒らんとなぁ」

 

山田 良子。 元始まりの10人の1人で今は魔法局が抱える病院で昏睡状態に陥っている。

百歩譲って自分の身だけならまだしも、自分の妹まで巻き込んでしまうなんて論外だ。

第一こんな怪しいものに頼るなんて……いや、そこまで切羽詰っていたということか。

 

「なんでやろなぁ……そこまでうちは頼りないやろか?」

 

『そういう訳ではないよ、ただ君だけを置いて行くことに負い目を感じていただけさ』

 

「……阿呆、みんなみんな阿呆ばっか」

 

『そうだね、目を覚ましたら目一杯馬鹿にしてやろう。 ……そろそろ切ろう、次は直接会おうじゃないか』

 

『ねープロデューサー! 何話してるの!? てか次のライブいつー!!』

 

『プロデューサーさん! ファガリナさんが復活した時のトリオライブの件考えt』

 

後ろから聞こえる賑やかな声を遮り、通話が切られる。

向こうは向こうで大変なようだ、次に顔を合わせるのはまたしばらく先の話になるだろう。

 

「ん……んん~……! ふぅ、頭が痛くなる話ばかりやなぁ」

 

長いデスクワークに背伸びをしてみるが、目の前に積まれたウィッチクラフトが原因とされる事件の報告書の量は変わらない。

目を通すだけでも徹夜の作業だ、もしかしたら局長と言う仕事は魔法少女よりも激務なのかもしれない。

だが私が投げ出したらその分だけ今の魔法少女達にしわ寄せが来る、仕方なくため息を零してまた1枚1枚と書類に目を通す作業へと戻った。

 

「…………こっちも考えんとなぁ」

 

作業の中で積み上げられた報告書のうち、1枚の書類に目が留まる。

そこには折れ線で記された右肩下がりのグラフと、年々魔法少女全体の質が低下している事を嘆く研究員のレポートが纏められている。

 

ウィッチクラフトの問題が重なっている今、確かに魔法少女のレベルの引き上げは問題だ。

だがそうはいってもどうするか……

 

「…………特訓、やな」

 

ふと、鬼のように鍛える事が趣味だった同期の台詞が頭をよぎった。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

 

『それでは次のニュースです、“魔法少女事変”の続報ですが……』

 

「…………」

 

TVの向こうでベテランのニュースキャスターが読み上げる原稿はまた昨日と変わりがない内容だ。

場面が切り替わって映し出される映像はやはりこの前のライブ会場。

もはや見飽きた映像の下には予想通りのテロップと、ファガリナの父親の顔写真が映し出される。

 

誰が名付けたか“魔法少女事変”、その名は広く知れ渡り、こうしてニュースとしても報じられるまでに至った。

 

《なーに仏頂面ぶっこいてんですかマスター、ただでさえ少ない客足が余計に逃げてしまいますよ》

 

「余計なお世話だよ、そっちはどうだ?」

 

《相も変わらずといった調子ですね。 例の魔法少女……インスタントとでも呼びましょうか、その目撃証言は日に日に増えていきます》

 

「そのインスタントが関わった事故や事件は?」

 

《……こちらも順調に増えてますね、魔物を倒そうとして余計な被害を出したりとか負傷したとかならまだかわいいものですが。 明確な犯罪行為も増えています》

 

ネット上の情報を収集していたハクが、サイトからコピーした画像を画面に張り付ける。

そこには小銭がジャラジャラと覗く大きなカバンを抱え、コンビニから飛び出す魔法少女の集団がばっちりと写されていた。

 

《彼女達はこの後キッチリ純魔法少女に捕まったようですね、錠剤については友達から貰ったとのことで。 流通ルートも目下調べられている所です》

 

「やっぱりそういう奴は出てくるよな……子供とはいえなぁ」

 

《子供だからこそある種残酷になれるのかもしれないですよ、皆が皆、良い子ちゃんではないという訳です》

 

ハクの言い分も分かる、中にはこの前のファガリナのように何か理由があって魔法少女となっているものもいるのだろう。

だとしてもだ、その後に起きるリスクを考えればいかなる理由があろうと勧められるものではない。

 

「……ファガリナは、大丈夫なのかな」

 

《目が覚めたという情報は今のところ入ってないですね、ただ目が覚めたとしてもどうなるか……》

 

未成年ということもあり、TVでも彼女の実名は報道されていない。

ただそれでも起こした事態の大きさを考えれば、目が覚めたので今まで通りの生活に戻りますとはいかないだろう。

なにせ彼女は自らの父親を傷つけてしまった、目を覚ましたとしても幼い彼女がその事実をどう受け止めるのか。

 

《いっそ、全部忘れてしまえば楽かもしれませんね》

 

「2人揃って忘れられたら、また親子の仲を取り戻せるのかな……」

 

そんな調子で物思いにふけっていると、閑古鳥の鳴く店内に入店を知らせるドアベルが響く。

ゆっくりと扉を閉めて入って来たのは3人、お馴染み魔法局お抱えの魔法少女トリオだ。

 

「ふぃー、外は地獄の熱気だヨー……おにーさん、ドリンク1つ!」

 

「な、七篠さんこんにちはぁ……」

 

「こんにちは詩織ちゃん。 ちょっと待ってろコルト、今飲み物出すから。 けど3人揃ってどうしたんだ?」

 

「それがですね……お兄さん、母は今どこに?」

 

「今は出かけてるよ、酒類の仕入れついでに買い物済ませてくるってさ。 何か用事か?」

 

アオが周囲を見渡して優子さんの姿を探すが、当人はこの炎天下の中買い出しに出かけたばかりだ。

おそらく帰りは遅くなるだろう、適当な店で涼みついでに茶でもシバきながら。

しかし3人揃って優子さんに用事とは、ますます内容が読めない。

 

「ええ、実はですね……保護者同伴でいろいろ頼みたい事が」

 

「うん、私もちょっと両親が海外にいるから……」

 

「そうそう、ビッグニュースだヨおにーさん! 突然だけど海は好きカナ!?」

 

「…………海?」

 

3人の中で一番はしゃいでいるコルトが唐突な質問を切り出してきた。

海、夏真っ盛りなこの時期はまさにピッタリだ。 好きか嫌いかで言えば嫌いではない。

ああ、話は大体読めて来たけど……良いのだろうか? 

 

すると、コルトはこちらの疑問を読み取ったのか眩しいばかりの笑顔を浮かべて見せる。

 

「良いんだヨ! なんてったって今回は本部公認―――――魔法少女強化合宿なんだからネ!」

 

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