俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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水も滴るシンデレラ ②

「報酬も求めず、闇紛れて世を救う!」

 

「東京攻略作戦でも要として活躍した!」

 

「魔法局の必死の追跡も涼しい顔で掻い潜り!」

 

「その素性は未だ一切不明!!」

 

「「「「「あのブルームスターさんですか!!?」」」」」

 

「え、えーと……」

 

いつの間にか俺の周りには魔法少女たちが集まり、輪を作っていた。

随分と尾ひれがついたもんだ、噂が独り歩きして憧れの的になっているようだが本物はそんなに格好いいものじゃない。

しかしこの年の子供なら義賊のようなヒーロー像に憧れるのも無理はないが、ここはしっかり否定しておかないと。

 

公的な魔法少女が野良に憧れるなんて大問題だ、羨望が先走って無茶をすることだってあり得る。

恰好つかないが訂正しておかないと後々痛い目を見る事になりそうだ。

 

「あー、ちょっと良いか?」

 

「喋った! 灰被り姫が喋ったわ!」

 

「心なしか声もカッコいいわ!」

 

「あの、ロウゼキさんから一本取ったって本当ですか!?」

 

「東京でのご活躍をお聞かせください!」

 

「箒が杖だとお聞きしましたけど良く見せてもらってもよろしいですか!?」

 

「いや、あの、その……」

 

ダメだ、喋ろうとしても言葉の濁流に飲み込まれる。

若さゆえの活力が眩しい、これに対抗するにはこちらを頭数を揃えるべきだ。

 

「そこの3人、見てないで助けてくれよ!」

 

「いえ、随分と楽しそうですね私がお邪魔するのは悪いかと」

 

「済まぬ盟友、我に救いを差し伸べられる力はない……」

 

「うぷぷ……いいじゃーんブルームー、むしろ女の子に囲まれて幸せじゃないカナー?」

 

「馬鹿言え! ……あっ、ほら! 東京について聞きたいならあの3人の方が詳しいぞ!?」

 

コンチクショウ、薄情にも俺を見捨てるってなら巻き込むまでだ。

お前たちもこの魔法少女たちに呑まれるが良い。

 

「……いや、あっちはちょっと」

 

「いや……流石にUSAの狂犬に話しかける度胸は……」

 

「蒼き辻斬りさんに私のような塵芥が話しかけるなどとてもとても……」

 

「シルヴァちゃんを見てるとなんか背筋の辺りがむずむずして枕に顔を埋めてじたばたしたくなる」

 

「「「なんでぇ(ですか)!!?」」」

 

「嫌われてんなぁ……」

 

どうやら魔法少女の中でも3人の名前は広まっているようだが、どちらかというと悪名の方が強いらしい。

俺に比べると3人はどうにも距離が置かれている。

 

「ってかゴルドロス、お前USAの狂犬って何やってたんだよ」

 

「あ、あはは……ちょっと流れ弾でホワイトハウス半壊させたりとか……」

 

「何してんだお前!?」

 

アメリカ時代でのゴルドロスの活躍も気になるが、今はそれどころじゃない。

というかそりゃ他の魔法少女達からも距離を置かれるに決まっている、いや本当に何してんだお前。

 

「という訳でお話聞かせてください!」

 

「ほ、他にもいただろ! それこそロウゼキとか、あとチャンピョン! ツヴァイの2人は!?」

 

「ロウゼキさんは論外として……ほかの方も話を聞こうとすると逃げるばかりで」

 

「だから色々教えてください! 色々と! 何処に住んでいるんですか!? どうやって魔法少女に目覚めたんですか!? トレーニングとかいつもどうやって……」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……ひ、酷い目にあった……!」

 

「あはははははは! お、お疲れ様だヨブルームスター……ぷぷっ」

 

それから魔法少女達の質問攻めから解放されたのはどれ程後だったか。

かなり精神を摩耗し、適当な木陰に腰を下ろすと片手にかき氷を携えたゴルドロスが半笑いを浮かべて現れた。

 

「誰のせいだ誰の、俺はもう疲れたよ……あの東京で起きた事件って、そこまで大きく見られていたのか?」

 

「そうだネ、東京開放なんていつか成し遂げなければいけない悲願。 それが10年を超えてようやくなされたんだから相当なもんだヨ、そりゃ他の魔法少女も皆憧れるよネ」

 

「そっか……随分と有名人になっちまったな、お互い」

 

「あはは、私達は悪名つきすぎて敬遠されているけどネー。 サムライガールにはもっとコアなファンが張り付いてるしサ」

 

言われてゴルドロスが指さす方を見れば、シルヴァと何やら話し合っているラピリスの姿をぎらついた視線で眺めている魔法少女の一団がいる。

その一団も各々刀剣類の杖を携えた魔法少女、なるほど同じ武器を扱うものとして東京を乗り越えたラピリスは憧れの存在という訳か。

 

「中には腕試しとばかりに手合わせしたいと考えている奴も少なくないネ、まあサムライガールが早々負けるとは思わないけどさ」

 

「いや待て待て、手合わせとか物騒だな。 止めなくていいのか?」

 

「むしろロウゼキさんの様子からすると推奨されるだろうネ、模擬戦を積むのは悪いことじゃないよ」

 

「そりゃそっか……しっかしなぁ、一撃当てろって言われたけど何か策はあるか?」

 

「…………例え寝込みを襲っても軽くあしらわれる未来しか見えないネ」

 

ふと、木陰から見上げたゴルドロスの頬には一筋の汗が伝っていた。

それは暑さからか、それとも恐怖から来るものか。 

 

《マスターはどうなんでしょう、肩を抱えて押し倒したわけですがあれは一撃判定にならないでしょうか?》

 

「人聞きの悪い事を言うな、それにあんな不意打ちみたいなマネじゃノーカンだろ」

 

「ん? なになに、何の話カナ?」

 

「何でもないよ、さて俺はそろそろ戻らないと……」

 

七篠陽彩として少し姿を隠し過ぎた、一度戻らないと優子さんに怪しまれるかもしれない。

そう思い木陰から腰を上げると、ゴルドロスがそっと俺の方に手を置く。

 

「おっと、どこに行くつもりカナ? ここは海、だったらやる事は一つだよネー?」

 

「……ゴルドロス? 分かっているとは思うがこれは特訓だ、遊びじゃない。 そういう浮ついた心はロウゼキに叩き直されたと思ったんだが?」

 

「それとこれとは話が別だよネ! ロウゼキさんも自由時間って言ってたんだから今のうちの思う存分羽を伸ばさないとネェ?」

 

「いやそんなに浮かれてるのお前だけだってきっとははは」

 

「ブルームぅ? 周りが見えてないのカナー?」

 

照り付ける日差しが反射する海にはすでに何名もの魔法少女が変身を解き、水着姿でバシャバシャと水飛沫を上げて夏を満喫している。

それはただ能天気なだけか、それともこの後待ち構える現実から逃げる為か。

少なくとも海を楽しむ少女の数は次第に増えている。

 

「……ちょっとお腹痛いんで早退します」

 

「サムライガール!! シルヴァ―ガール!! ちょっとこっちきて手伝ってヨー!!」

 

「おい馬鹿やめろ! ハク、黒だ! 黒衣使うぞ!!」

 

《こんな所で貴重な強化を使わないでください、それにさっきの戦闘でタイマー切れでーす》

 

「ハクうううううううううううううううう!!!!」

 

力じゃそこまで負けていないはずなのに振りほどけないゴルドロスの腕、嬉々として駆け寄るラピリス達の影。

何が灰被りだ、何が東京攻略の英雄だ、かくも1人の人間が持つ力など儚く脆い。

俺はこれから起きる悲劇を黙って受け入れる事しかできなかった。

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