俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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水も滴るシンデレラ ④

「ルールは簡単! 相手の陣地にボールを落とせば1点、先に10点先取したチームの勝ちだ!」

 

「どうしてこうなったんだろな……」

 

《みんな暑さで頭がチャンピョンしちゃったんですかね……》

 

あれよあれよという間に事は運び、気づけばバレーコートと審判台、そして周囲の観客まで集まっていた。

魔法少女のパワーに耐えられる以外何の変哲もないコートらしいが……

 

「……にしてもなんでわざわざ浅瀬でやるんだよ?」

 

「ロウゼキさんに怒られたくないから足腰を鍛える特訓という名目を装うためだ!」

 

《せっっっっっこ》

 

そう、コートが建てられた場所はくるぶし位が浸かる程度の浅瀬。

足元を浸す水は程よく脚運びを邪魔してくれる、今はまだそこまで気にならないが疲労が溜まればその分脚への負荷も大きくなってくる。

 

「ルールの確認であります! 基本は3VS3のビーチバレー勝負、ただし試合中累計30秒間のみ魔法少女としての力を使う事が許可されるであります!」

 

「累計って事は途中で一度解除してもいい訳だな?」

 

「もちろん! カウントは我々主審と副審たちが計測、30秒が経過したら笛を鳴らして知らせるであります」

 

「そこから1秒超過ごとにペナルティで敵チームに1点が与えられる、まあアタシはそんなヘマしないけどな!」

 

《はーい、ハクちゃんタイマー30秒にセットしておきますね!》

 

「お前も結構乗り気だな相棒……」

 

頭の中に潜む相棒がチキチキとタイマーの針をセットする音が響く。

さてはこの状況を一番楽しんでいるのはハクじゃなかろうか。

 

「わた、私……頑張り、ます!」

 

「ああ、けど無理するなよ詩織ちゃん。 怪我だけはしないように頼む」

 

「そうそう、いざって時はうちらに任せろー!!」

 

「お前はヘマしないように頼むぞチャンピョン」

 

こちらのメンバーは俺と詩織ちゃん、そして魔法少女チャンピョンこと因幡 山兎の3名だ。

騒ぎを聞きつけいの一番にメンバーに立候補した鳥取娘だが、正直詩織ちゃん以上に不安が残るメンバーだが大丈夫だろうか。

 

《さーてやるからには勝ちますよマスター、是非ともぎゃふんと言わせて差しあげましょう!》

 

「どーしてこうなったかな本当……まあいいや、さっさと始めようぜ」

 

「へっ、強がってられるのも今のうちだ。 すぐにほえ面かかせてやる!!」

 

「神聖なジャンケンの結果先行はブルームスター殿たちのチームであります! それでは試合……はじめ!」

 

高らかにホイッスルを鳴らし、イクスの手に抱えられたビーチボールが高い放物線を描いてこちらの陣地へ投げ込まれる。

緩やかに落下するボールの行く末は詩織ちゃんの胸元だ、あれなら落ち着いて返せばまずトスは上げられる。

 

「へいパース! うちにパース! 眼鏡ちゃんパース!!」

 

「へっ? あ、あわわわ……わぁ!」

 

ボスっと気の抜けた音を立て、詩織ちゃんがボールを打ち上げる。

トスにしては少し高さが足りない気もするが、まあ上がっただけで十分だ。

チャンピョンも既に助走に入っており、海水に浸かった足場も気にせずボール目掛けて高く跳躍する。

 

≪コォング! KNOCK OUT FINISH!!!≫

 

「「えっ?」」

 

甲高く響くゴングの音、そして見事なフォームでボールを射程内に捕らえているチャンピョン。

その眼は既に相手コートで待ち構える、ジャベルの取り巻きであるうちの1人へと向けられていた。

 

「……よけろォ!!」

 

「へっ?」

 

「イエーイ、痛みは一瞬だー!!」

 

容赦なくゴリラの腕力で殴りつけられたボールは空気を割いて相手コートへ着弾。

幸い直撃は免れたようだが、水面と衝突したボールは派手な水飛沫を巻き上げ、ジャベル達3人の姿を覆い隠す。

……やがて水しぶきが晴れると、うつぶせに気絶する名も知らぬ魔法少女の姿があった。

 

「こ、コッパぁー!!?」

 

「ヨシ! まずは1人!!」

 

「よしじゃないよこのバカ!!」

 

ガッツポーズを見せるチャンピョンの頭を引っ叩く、確かに魔法少女としての力を使うのはありだと言われたがやり過ぎだ。

コッパと呼ばれた魔法少女は完全に気を失っている、点数取るだけならまだしも物理的にノックアウト狙う奴がどこにいる。

 

「ブルームスター殿チーム1点先取! ジャベりん殿チームはメンバーの補填をお願いするであります」

 

「続ける気か!? アタシの仲間がこの様だってのに続ける気なのか!?」

 

「足腰を鍛える特訓でありましょう? この程度の事故なら続行であります、今担架を出すでありますよ」

 

顔色一つ変えずに袖から救急車を模したミニカーを取り出すイクス。

放り投げられたそれは3輪車程度の大きさに膨らみ、器用に気絶した魔法少女をルーフに乗せて浜辺のパラソル下まで運んで行った。

 

……いや、本当にまだ続ける気なのかこのビーチバレー?

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……なーにやってんですかねあの2人は」

 

気絶させたコルトを始末……もとい木陰で休ませ、2人の待つ浜辺へ戻ってみると随分愉快な状況になっていた。

どうやらビーチバレーをやっているようだが、何故わざわざ浅瀬で? しかもあれは怪我人まで出ているのではないだろうか。

 

「魔法少女ジャベルが難癖、それにブルームスターが応えてビーチバレーで決着をつける事になった、実に健全」

 

「むっ、あなたは確かツヴァイの妹さん」

 

「名は園という、久しぶり」

 

コッパと呼ばれた魔法少女が運び込まれたものとは別のパラソル、その下でモクモクとパソコンに何かを打ち込む眠たげな眼をした少女の姿。

この炎天下の下で暑苦しいコートを纏った姿は間違えようがない、あの東京で共に戦ったメンバーの1人だ。

 

「見ての通り野良の癖に人気があると一部の魔法少女からはやっかみを受けている様子、まあジャベルなら問題はない。 あれはアレだが一線は弁えている」

 

「お知り合いで?」

 

「大体の魔法少女のデータはそろっている、あれもあなた達とは別県だが東北の出。 ドレッドハートたちの同僚」

 

「そうですか、それは知りませんでした」

 

そう言えば向こうの審判台に座っている消防服の魔法少女には見覚えがある、確か去年の合同訓練で見かけた顔だ。

災害特化型と自負するだけあり、市民救助数トップの成績を持ち、県から感謝状を渡されていたのを覚えている。

 

「誰かー! 誰かコッパの代わりに入ってくれる奴いないかー!?」

 

「ジャベさん、自分ももう辞退して良いすか!?」

 

「ジャベさん言うな! 大丈夫だ二度目はない、魔法少女に同じ技は通用しないんだ!」

 

「いやだー! 命が惜しいー!!」

 

どうやら先ほど運ばれたメンバーの補填が間に合っていないらしい。

それもそうか、仮にもチャンピョンは東京攻略組、加えてあれほどの威力を目の当たりにすれば委縮するのも無理はない。

ジャベルが必死に呼びかけるが、彼女達のチームに加わる魔法少女は現れない。

 

「……仮に平均的な魔法少女が1人加わっても、ブルームスターのチームに勝つのは難しい。 観客としてもそれはつまらないというもの」

 

「なるほど、そのこころは?」

 

「ラピリス、ちょうどあなたのようなタイプが加わるといい勝負になると思われる」

 

「……下手な世辞ですね」

 

それでも、乗るのは一興か。

私としても1つ気になる事がある、今のブルームスターの実力がどれほどのものなのか。

今の私と彼女の間にある、実力の差がどれほど開いているのだろうか。

 

3人がかりであしらわれたロウゼキさんを、ブルームスターは一瞬でも組み敷いたのだ。

 

「くれぐれも怪我をせず、相手にも負わせないように。 健闘を祈る」

 

「ご忠告ありがとうございます、気を付けますよ」

 

そして私は焼ける砂浜を踏みつけ、泣きそうな顔のジャベルに向かって声をかけた。

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