俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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それぞれの戦果 ①

「……お兄さん?」

 

「ん? ……おおアオ、お疲れさん。 肉も焼けているから食っていけよ」

 

辺りも見えなくなるほど日が沈んだころ、漸く今日の区切りがついたところでホテルまでの帰路を歩いていると、炎の明かりに照らされて賑やかにBBQを囲む集団を見つけた。

正直疲れ切ったこの身体を泥のように眠らせようと考えてはいたが、見覚えのある後ろ姿を見つけてすぐにそんな愚考は投げ出した。

熱に当てられて滲む汗を首に掛けたタオルで拭い、掛けられた声に応じてこちらに振りかえると炎の明かりに照らされて輝く汗が眩しい。 カッコイイ。

 

「BBQですか、いいですね。 頂きます」

 

「おう、どんどん焼き上がるからじゃんじゃん喰え。 米が欲しければ今飯盒も焚きあがるからさ」

 

数台並んだコンロの横では石で囲まれて作られた焚火の中に吊られた飯盒や、ホイルに包まれた食材も並んでいる。

さらにお兄さんの手元は慣れた手つきで熱した鉄板の上の焼きそばを仕立てていた。

職業病か、折角のリゾートなのにまた調理場に立っている。

 

「不器用ね、私が代わるって言っているのに」

 

「やめてくださいよお母さん、しかもお酒まで入った状態で」

 

すっと隣に現れた母の裾を掴んで制止する、我が親ゆえこの人の腕前というものは身に染みるほど理解しているつもりだ。

それとも既にやらかした後なのか、母が動くと同時に周囲の大人たちにも一瞬緊張が走ったように見える。

 

「これでも昔よりはマシになったのだけど」

 

「せめて±0になってから言ってください。 ……お兄さん、無理してないですかね」

 

次々と出来上がった料理を周囲に提供していくお兄さんの背中は、なんだか無理矢理明るく振る舞っているような気がする。

まるで思い出したくない何かを誤魔化しているかのように。

 

「何かやったんですか、お母さん」

 

「したけど謝らないわ。 ……馬鹿ね、何時までも無視はできないでしょうに」

 

「誤魔化さないでください、一体何をしたんですか。 幾ら我が母とはいえ内容次第では許せないですよ」

 

「そんなことより、それ放っておいていいの? あなたのお友達でしょう」

 

「ん? ……ほわぁー!?」

 

母に指示され、腰かけた折り畳み椅子の足元を見ればぐったりと横たわる少女の体が合った。

綺麗だった金髪は見るも無残にぼさぼさのまま投げ出され、細かい痙攣を繰り返す体は生きているようだがまともな状態ではない。

 

「かふっ……ロウゼキさ……が……やられ、わた、がんば……ヨ……」

 

「こ、コルトー!! 衛生兵、誰か衛生兵ー!!」

 

 

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……はっ!? 私は一体なにをしていたのカナ……?」

 

「戻ってきましたか……ありがとうございますイクスさん、もう結構です」

 

「尊き人命が守られたのは喜ばしいことであります! それでは某はこれにて!」

 

ブツブツとうわごとを繰り返していたコルトがようやく正気を取り戻し、治療を手伝ってもらったイクスがその場を後にする。

コルトに外傷は少なくはないがどれもこれも軽い擦り傷や打撲程度だ、一体何があったのか。

 

「ほら、水持ってきたぞ。 大丈夫か?」

 

「ありがとうございますお兄さん。 まったく、一体何をやっていたんですかコルト」

 

「わ、分からないヨ……私の、特訓相手が……ロウゼキさん、で……」

 

「あっ、分かりました結構ですそれ以上思い出さない方が良いですゆっくり休んでください」

 

「米炊けてるぞ、肉もある。 パンもあるからな、何でもいいから喰え、英気を養え」

 

コルトに起きた悲劇を察し、悪夢が想起される前に労いの言葉をかけてお兄さんから受け取った紙皿を渡す。

そしてされるがままにもそもそと肉を咀嚼するコルトの瞳からは涙がこぼれ始めた。

 

「美味しい……美味しいヨ……生きてるんだネ私……」

 

「そうですよ、よく生き残りました。 お疲れ様です」

 

「まあ、また明日も同じ特訓でしょうけどね」

 

魔法少女達が和気あいあいと囲む輪の中から、ツヴァイ(姉)がバーベキュー串を片手にこちらへとやって来る。

両手に串を抱えて、クールビューティの割には随分と豪快な食べ方だ。

 

「ツヴァイ(姉)さん、彼女の心は今脆い状態なのです。 あまり酷な言葉を掛けないでください」

 

「美礼ですわ! とは言っても贅沢ですわよ、間違いなく我々の中でトップのお方に稽古をつけて頂いているのですから」

 

「まあそれは……そうですけど」

 

正直、コルトについては気の毒だが同時に少し羨ましくもある。

魔法少女の最強角にマンツーマンで指導してもらえる機会なんてそうそうない、内容は見ての通りかなり厳しいもののようだが、受けたくないと言えば嘘になる。

 

「あ、あうあうあうあう……」

 

「それだけ期待されているということですわねー、まあしっかり堪えられるように頑張りなさい。 オホホホ!」

 

「そう、ですね……そういえば、詩織さんは見かけませんでしたか?」

 

「ああ、彼女なら私の妹と共に室内で魔術についての研究を行っていますわ。 多分食事もホテルで済ませているかと……そうですわ、ブルームスターがどこか知らなくて?」

 

「ブルームスター? そういえば……」

 

周囲を見渡してみるが、彼女の姿は見当たらない。

まあ元よりこのような集まりに参加するような性質とも思えないが、ホテルに部屋も無い彼女はこの島でどう過ごしているのだろう?

 

「やっぱり逃げましたわね……折角こちらもコスメを色々用意しましたのに」

 

「――――ほう、詳しく聞かせてくれるカナ?」

 

「コルト、急に正気に戻りましたね」

 

腰に掛けたポーチから大量の化粧品を取り出すツヴァイを見て、焦点の合っていなかったコルトが急に目を輝かせて覚醒する。

あれは新しいおもちゃを見つけた時の顔だ、たまにウインドウショッピングに付き合わされる時によくあの目を見る。

 

「でもサムライガールも見たいんじゃないカナ、ブルームスターが本気でコーデしたらどうなるか!」

 

「それはまあ……気にはなりますけど」

 

「そうですわそうですわ、あの子は美に無頓着すぎましてよ! 所作振る舞いから化粧の手順に至るまで徹底的に指導いたしませんと!」

 

熱く語る2人の熱量は高い、それぞれ別々の方向を向いているような気もするがこれに巻き込まれるブルームスターは溜まったものではないだろう。

少し気の毒に思う、止めるべきかとも悩んだが……

 

「……まあ、私も見たいというのは事実ですし」

 

「………………」

 

ぼそりと呟いた後ろで、お兄さんの肩が小さく震えたような気がした。

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