俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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これがラピリスだ! ④

あくる日の朝、あくびをかみ殺して階段を降りると既にアオが起きていた。

 

「おはようアオ……今日はやけに早いな、今朝食を……」

 

「お兄さん、このニュースを見てください」

 

まだ眠そうな気力の欠けた顔のアオに促され、壁に立てかけられたTVへ目を向ける。

いつもは常連が野球中継などを眺めているTVでは、アナウンサーが現場の様子を中継していた。

 

『――――……町の交差点です。 見てください、アスファルトには巨大な爪痕が残され信号機は薙ぎ倒されています! 周辺住民の目撃証言によりますと……』

 

「これは……近いな、魔物か?」

 

「恐らくは。 すみませんお兄さん、今日は早めに出ます」

 

「待てよ、飯は食べていけ。 すぐに軽いもの用意するからさ」

 

「ですが……はい、分かりました」

 

口では納得してもその表情には焦りが見える、場所が近い事もあってポン吉が心配なのだろう。

だがこういう時こそ落ち着くことが大切だ。 クロワッサンをトースターに突っ込んで割った卵とハムをフライパンへと落とす。

そして食器棚から取り出したグラスにオレンジジュースを注いでアオの座るテーブルへと置いた。

 

「いざという時力が出なけりゃ論外だ、まずは寝ぼけ眼に一杯どうぞ」

 

「ありがとうございます……はふぅ」

 

朝起きてから何も飲んでいなかったか、アオは一気にオレンジジュースを飲み干し息を吐く。

その様子を見て二杯目を注ぐとアオが何か思いつめたような顔で話しかけてきた。

 

「……気が利きますね、お兄さんはいつも」

 

「そりゃありがとう、いきなりどうした?」

 

「いえ……私は昨日、気が利かず一人の友達を怒らせてしまったもので」

 

……ブルームスターとのやり取りか。

 

「へー、アオでもそういう事はあるんだな」

 

「ありますよ、いつも失敗ばかりです。 ……また、学校で顔を合わせたときにはなんて言えばいいんでしょうか」

 

「大丈夫さ、喧嘩の原因だってアオが一方的に悪い訳じゃないんだろ? 向こうだって同じように考えてる、互いに歩み寄ろうとしてるならきっと上手く行くよ」

 

チン、と景気のいい音を立ててクロワッサンがカリッカリに焼き上がる。

一欠けらのバターを添えてハムとスクランブルエッグ、小鉢に盛ったポテトサラダも添えればご機嫌な朝食だ。

 

「まずは食べな、仲直りってのは体力が必要だ。 残しても良いから万遍なく食え」

 

「ええ……いただきます」

 

その顔つきは既にいつもの鳴神葵がもつ力強い顔つきに変わっていた。

こちらの心配はなさそうだ、それじゃ後は……

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……こっちの問題だな」

 

ブルームスター(日常スタイル)の姿でTVに映された交差点へ来てみれば、すでにそこは近づく隙間もないほど野次馬にまみれていた。

現場の惨状はTVに映された以上のものだ、辺り一面に巨大な爪痕が刻まれあらゆるものがなぎ倒されている。

警察の手によって黄色いテープが張られた向こう側はまるで台風が通り過ぎたかのようだ。

 

《どう見たって魔物の仕業ですね……しかもかなり狂暴ですよこれは》

 

「だろうな、爪痕って事は動物か。 今度はクマかトラかそれとも別のトンデモか……」

 

爪痕のサイズを考えると今度の敵も相当巨大だ、今までの例から考えると砲台や火球のような大道芸を仕込んでいるかも分からない。 想像するだけでげんなりする。

 

「あれ、おにーさん? どったノ、そんな姿デ」

 

「ん? コルトか、お前も来てたんだな」

 

聞き覚えのある声に振り替えると、いつもどおりのゴスロリに身を包んだコルトが立っていた。

 

「魔物絡み臭いから派遣されたんだヨ、そんでもってこれはドンピシャだネ。 サムライガールは?」

 

「学校行ったよ、ここから近いし心配なんだろ」

 

「ソッカ、友達は大事だからネ」

 

コルトも思う所があるのだろう、それ以上は何も聞いてこなかった。

 

「けどここからじゃよく分からないネ、もっと近づければ……」

 

「―――あのぅ、ちょっといいですかぁ」

 

ふと、二人して人ごみから離れて現場の様子を窺っていると後ろから声を掛けられる。

振り返るとそこにはくたびれたフードを目深に被った、コルトと同年代くらいの少女が立っていた。

 

目元を隠すように伸びた不揃いな髪の毛の下からはらんらんと輝く赤い光がこちらを見つめていた。

 

「つかぬ事を窺いますが、お二人ともぉ……魔法少女ですよね?」

 

「「なんのことかな(カナ)?」」

 

ニタニタと……言っては何だが薄気味悪い笑みを張り付けた少女は正直かなり怪しい。

コルトに至ってはすでにぬいぐるみへ手を伸ばして臨戦状態だ。

 

「ひひ……ひひひ、キヒヒヒヒ! んなわけないじゃぁん! 見たよ、私見たよォ変身する所!」

 

「人違いじゃないカナ、それにこんな野次馬の近くでそういう言動をするってどういう事か分かってやってル?」

 

魔法少女の正体はトップシークレット、だというのにフードの少女は知った事かという態度だ。

 

「だいじょぶだいじょぶ、誰も聞いちゃいないってー……それより魔物、探してんでしょ? 知ってるよォ、酷いよねこんなグチャグチャにしちゃってさー」

 

「……これの犯人を知ってるのか?」

 

「知ってるよ、私が(けしか)けたんだもん」

 

「それは冗談じゃ済まないヨ、悪戯にしちゃ性質が悪すぎるネ」

 

「あはは、こっわーい♪ でも冗談じゃないよ、ねえコマちゃん?」

 

遠い空から狼のような遠吠えが聞こえた。

腹の底を揺らすような恐ろしい遠吠え、それは次第に近づき―――フードを被った少女の後ろへ着弾した。

 

『―――ゴアアアアアアアアアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』

 

それは狛犬だ、少女の倍はあろうかという体躯の狛犬がフードを被った少女の背に立つ。

「魔物だ」と、誰かが呟いた瞬間群衆のパニックが一気に弾けた。

 

「キヒヒッ! 皆酷いなー、こんなに可愛いのにー」

 

少女は手が触れるような距離だというのに狛犬に襲われることは無い、逆に獰猛な唸り声を上げる喉へ手を伸ばして撫でるほどだ。

 

「ブルームスター、お前には怨みがあるんだ。 クモちゃんとニワトリ君の恨みー」

 

「怨み……? ってことはあれもお前の仕業か!?」

 

「そうそう。 酷いよねー、人の大事なものぶっ殺してくれちゃってさ」

 

フードの奥に隠れた瞳は理不尽な怒りに燃える。

聞き分けの無い子供のように、こちらの言い分を聞く気は一切ないようだ。

 

「だからアタシもお前の大事なものぶっ壊そうと思って、あのガッコとかさ!」

 

「学校……? っ! やめろ、あの小学校は関係ないだろ!!」

 

「キヒヒッ! ほらぁ、やっぱり大事そうじゃん♪」

 

俺たちの背後を真っ直ぐ突っ切ればアオが通う小学校に突きあたる。

奴は本気だ、ここで抑えないとクモやニワトリの比じゃない被害が出る。

 

「おにーさん、構えテ。 話し合いはあいつを拘束してカラ」

 

「……ああ、分かった。 ハク!」

 

《アイアイサー!》

 

皆避難を終え、既に周囲には人っ子一人いない。

つまり誰も巻き込む事も、目撃される心配はないってことだ――――虚空から取り出したスマホを構える。

 

≪トランスシフター!!≫

 

「行くヨ、テディ」

 

「おー、かっこいー♪ そんじゃアタシもぉ……」

 

こちらが構えると同時に、相手もどこからか拳銃のようなものを取り出す。

黒光りするバレルに透き通った水晶玉の様なものがはめ込まれたそれは禍々しい気配を放っている。

そして少女はその拳銃を自分のこめかみへと押し当てた。

 

≪Are You “LADY”!?≫

 

「――――変身ッ!!」

 

「Scramble!」

 

変臨(へんりぃん)……♪」

 

人気のない交差点で、黒炎と金粉と鮮血が飛び散った。

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