俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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それぞれの戦果 ④

「へ……へ……へっくち!!」

 

「あらはしたない、風邪ですのブルームスター?」

 

「ああ、ちょっと昨日夜更かししすぎた罰が当たったかな……」

 

あれから一晩、潮風が吹きつけるびしょ濡れの夜は夏とは思えないほど寒かった。

そのせいかどうも今日は体が怠い、ツヴァイとの打ち合いも昨日より戦績が悪くなっている。

 

「ふむ……体調管理も淑女の重要な仕事ですわよ、今日はここまでしておきましょう」

 

「何言ってんだ、俺はまだまだいけるぞ」

 

「それですわ、あなたは自分の体に無頓着すぎる節がありましてよ。 馬鹿に付ける薬はないのですからせめてしっかりおやすみなさい」

 

「ぐぅ……」

 

変身を解き、颯爽と去っていく背中には取り付く島もなかった。

もう少しで何か掴めそうなところがあったが、一人取り残されてできる事は何もない。

 

《あらら、今日の所はお終いですか。 部屋に戻って休みます?》

 

「まあなぁ、特訓が切り上げられた以上は……は……へきち!!」

 

《風邪は引き始めが肝心ですよ―、ささっと部屋に戻って休んだ休んだ。 子守歌の一つでも歌いましょうか?》

 

「いるか! ったく……ん?」

 

しょうがないからホテルにでも戻ろうかと思った矢先、顔の横が猛烈な突風が掠めていく。

いや、風ではない。 それは猛烈な速度で大地を駆ける魔法少女だった。

 

「うわっはぁー! ごめんフレンドー!! 今特訓中だから許してー!!」

 

「チャンピョン!? お前何やって……」

 

「ブルーム、退いてください!!」

 

「へむっ!?」

 

更にそのチャンピョンの背を追い掛けて、風を纏ったラピリスが俺の頭を踏みつけていく。

ああ、そう言えば2人は能力制御のための「追いかけっこ」をしてるとか言っていたっけ……。

 

《マスター? 大丈夫ですかマスター?》

 

「だい、大丈夫に見えるかこれが……?」

 

なお、頭を踏みつけられた俺はそのまま大の字になって地面に突っ伏す形となった。

……彼女達が能力を完全に制御できるのはまだ先の話になりそうだ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「うおわああああああああああああ!!! こっち来んなヨおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「いけずやなぁ、仲良くしーましょ♪」

 

『モッキュー!!』

 

フルオートで放たれる機関銃の弾幕をものともせず、ヒョイヒョイ躱して悪魔が歩みよってくる。

これにはテディの中で待機しているバンクもたじたじだ、何とか接近だけはさせようにしてはいたがやがて弾倉も空になる。

 

「はーい、困ったら乱射する癖やめようなー」

 

「あっあっあっあっ、ちょっとタンマ! ちょっと許し……ぎゃふんっ!!」

 

容赦ない手刀が頭部に振り降ろされ、勢いそのまま砂丘に顔を埋める。

特訓2日目にしてすでに18回目の敗北、しかしめげずに立たなければいけない。

でなければロウゼキさんの手によって無理矢理起こされてしまうのだから。

 

「うぐぐ……やっぱり、うまくいかないネ……」

 

『モッキュッキュ……』

 

ぬいぐるみから這い出し、その場にポテっと横たわるバンク。

中の居心地は分からないが少なくとも良くはなさそうだ、テディから取り出した皿に水を注ぐとぺろぺろと舐めだした。

 

「上手くいかんなぁ、何が悪いんやろ」

 

「それが分かったら苦労はしないんだけどネ……」

 

あの東京の時と同じように、テディの中にバンクを納めて戦闘を繰り返しているが臨んだ結果は未だ引き出せていない。

ピコピコハンマーやかんしゃく玉、その他にも色々な玩具を試してみたがどれも見た目通りの性能しか発揮できない。

東京で、あのとんがりマスクを一度倒した時とは一体何が違うのだろうか。

 

「バンクはんもお疲れみたいやな、少し休憩にしよか。 水分はしっかりとってなー」

 

「わ、私がもう無理だって言ってもまだまだいけるって……バンク贔屓だヨ……」

 

「うふふ、人間の限界って案外遠いんやでー? ほな、うちは他の様子覗いて来るわ」

 

ひらひらと片手を振って去っていくロウゼキさん。

……まあ、私が辛いと言ってもそれは所詮ロウゼキさん1人と戦って負った疲労だ。

本人は更に他の魔法少女の世話やら夜襲の警戒、その他諸々の雑務を熟して私と戦ってなお平然としている。

 

「敵わないナ、まったく……」

 

「なんだ、そっちも休憩か……か……はくっしゅん!」

 

「おっ、ブルーム。 なにカナその奇妙なクシャミ」

 

砂浜に疲れ身体を投げ出すと、箒を肩に担いだブルームスターが私の顔を覗き込む。

そっぽを向いてくしゃみをしたと思えば鼻も啜って、なんだか調子が悪そうだ。

 

「いや、色々あって風邪気味でさ……ツヴァイにも今日は帰れって言われたんだよ」

 

「ありゃー、そりゃお大事に。 でも確かに見た感じ調子悪そうだネ」

 

「そうかぁ? ……んで、そっちの調子はどうだ?」

 

「あはは、まだカナー。 バンクと調子が合わないや……」

 

目を離した隙に近くの木陰で休んでいるバンクの姿をぼうっと眺める。

運命を結ぶという規格外の能力を持ち、しかしそんなとんでもない力を縁結びにしか使わない変わった魔物だ。

そんな魔物と心を結ぶというのは難しいもので。

 

「なぁーんかこう、東京の時はピッタリ息があったんだけどナー。 何が駄目なのカナぁ……」

 

「まあ地道にやって行くしかないんじゃないか、上達の道は一歩一歩だ」

 

「そうカナ……そうかもネ……はぁ、ちょっとホテルで涼んでくるヨ。 ブルームもお大事にネ」

 

『モッキュ!』

 

バンクを抱えてホテルへの帰路を歩く。

少し頭と体を冷やそう、そして午後からまた頑張らなきゃ。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

《なんだか、あの二人も大変そうですねー》

 

「ああ、上手くいってないのはどこも一緒か……」

 

とぼとぼと歩くゴルドロスの背中を見送る。

ゴルドロスの相手はそもそもあのロウゼキ本人だ、他の魔法少女よりも負担は大きい。

だがこのままだとどこかで潰れてしまいそうで不安だ。

 

「せやなぁ、うちもそれは危惧しとるんよ」

 

「だよなぁ……ん? うん!?」

 

「うふふ、隙だらけやでー♪ なんやえろう白い肌やなぁ、日焼け止め塗ってるん?」

 

「うわひゃあ!? やめ、やめろぉ! こしょばゆい!!」

 

気づけばいつの間にか現れたロウゼキに背後を取られ、細い指先で背筋をつつつと撫でられる。

他人に肌を許すというのは嫌な感触で、しかも触り方が嫌に艶めかしいものだから余計に鳥肌が立つ。

 

「うふふ、許してぇな。 うちなぁ、ブルームはんに1つ頼みたい事あるんよ?」

 

「た、頼みたい事? なんか嫌な予感しかしないんだけど……」

 

「まあまあ、聞くだけならタダや、タダ。 それにゴルドロスはんのためやで?」

 

短い付き合いだが、口角を釣り上げるロウゼキの顔は信用ならないという信頼がある。

だがゴルドロスのため、と聞けばどうも無下にすることもできない。

 

「……まあ、話だけなら」

 

「ふふ、それじゃちょっと……耳、貸してもらおか?」

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