俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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それぞれの戦果 ⑤

「あ゛ー、蕩けるヨ……」

 

『モッキュー……』

 

空調が効いたホテルのロビー、フカフカのソファに体を預けてジュースを啜る。

じっとりと汗が滲む体をタオルで拭う気力もない、午前中の特訓ですでに今日使う予定の体力をほぼ使い切ってしまった。

すでに午後からの再開が気怠い、いっそ雨でも降って中止になってくれないだろうか。

 

「……ま、その程度で取りやめになるほど甘くはないよネ」

 

『もっきゅい』

 

当たり前だろ、と言わんばかりに隣のバンクが一鳴き。

いけない、思考が後ろを向いている。 むしろ特訓なんて悪条件でこそ経験を積むべきだ。

それにあのロウゼキさんが天候程度で日和ってくれるとは思えない。

 

「あーダメダメ、シャワーでも浴びて気を取り直し……」

 

「……ふえぇ、コルト……ちゃん……」

 

「ん? おわっ、ビブリオガール。 どうしたんだヨその顔!?」

 

幽鬼のような顔をしたビブリオガールが対面の席に座り、そのままくてっと体をテーブルに投げ出す。

私と同じように、いや私以上の憔悴ぶりだ。

 

「た、助け……熱意が、すご……」

 

「どうした、どうしたんだヨビブリオガール!? 何があったヨ!?」

 

「何も、特に肉体的な負荷は与えていない。 故に休憩時間は終了」

 

「ひ、ひゃあぁ!?」

 

弾かれたように飛び起きたビブリオガールが素早い動きで私の背後に隠れる。

新たに現れたのは魔法少女ツヴァイの妹、左右田園だ。 

その眼にはよく眠れていないのか、深いクマが刻まれている。

 

「出力・汎用性の高い魔術の行使。 それを可能とする筆記と詠唱による起動条件、実に興味深い。 ぜひもっと話を聞かせてほしい」

 

「わ、わた、私も、そこまで、詳しくは……!」

 

「ならばこの機会に理解を深める事を推奨する、部屋に戻ってともに語りあうべき」

 

「た、助けてぇ~~~……!」

 

「び、ビブリオガール! 服を引っ張らないで欲しいカナ!? 伸びる伸びる!!」

 

ビブリオガールを連行しようと引っ張るツヴァイ(妹)と、それに抵抗して私の服にしがみ付くビブリオガール。

気の毒だが巻き込まれる身としてはたまったものじゃない、お気に入りのTシャツが伸び切る前に何とか引き剥がそうと四苦八苦していると。

 

「――――あなた達、ここにいましたのね!!」

 

「む? お姉……?」

 

「ふぎゃっ!?」

 

エントランスの扉を抜け、現れた姉の姿を見つけてツヴァイ(妹)の握力が緩む。

引っ張り合いの均衡が突然崩れたのだから、残された私達はもんどりうって倒れた。

 

「良かった、あなた達は無事でしたのね……!」

 

「お姉、どういう事? 状況説明を求む」

 

「あたた……何々? 何の話だヨ?」

 

「大変ですの! 魔法少女達が……攫われてしまいましたの!」

 

「………………ハァ!?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――どういう事カナ、ロウゼキさん!!」

 

「……うちの失態や、あれだけ魔物の接近を許してしまうなんてなぁ」

 

簡素なテーブルを掌で叩き、溜息を吐くロウゼキさんを問い詰める。

私たちが集められたのはホテルの上階に作られた会議室だ、扉をしっかりと閉めてしまえば声を荒げても外に漏れる事はない。

 

「魔物……ですか?」

 

「疑問、並の魔物が1匹2匹沸いたところでこの数の魔法少女が相手なら問題はないはず」

 

「それが1匹2匹で済まない話だったんよ、敵は()()や」

 

「群体……?」

 

確かに、魔物も頭数が揃ってしまえばこちらの数の利は消えてしまう。

だがそれでも腑に落ちない、負けるはずがない。 だって、攫われた魔法少女の中には……

 

「……ブルームスターが、負ける訳ないヨ……!」

 

……ブルームスターの名も含まれていたのだから。

彼が、彼女が負けるはずがない。 そんなヘマを踏むはずがない。

だって、あの人は……!

 

「せやなぁ、うちもそう思うよ。 体調が万全やったらな」

 

「…………ぁ」

 

そういえば、何だか今日のブルームスターは体調が悪そうだった。

軽い風邪のような物で、1日休めば問題ないとばかり考えていたが、そうじゃなかったら?

 

本当は戦闘に支障を来すほどに弱っていたのだとしたら……。

 

「……お姉、敵魔物の情報が欲しい。 詳細を」

 

「ええ、相手は……なんというか、人魚というか魚人というか、その、そんな感じの魔物でしたわー?」

 

「……?」

 

ツヴァイ(姉)が魔物についての詳細を語ろうとするが、なんだかしどろもどろで曖昧だ。

大群で押し寄せて来たのであればそれなりに姿も覚えているはずだが。

 

「魔物は半人半魚、特筆すべき能力は“歌”や。 それで皆攫われた」

 

「歌……催眠術? それで魔法少女を誘引……まるで人魚の歌声」

 

「そ、そそそうですわ! その通りですわ! 相手はまるで人魚のようでしたのよ園、ええ!」

 

「歌の抵抗力にも個人差があるみたいでなぁ、うちは掛からんかったけど他の皆はダメやった。 それでフラフラと海の方に近づいて、攫われて……」

 

「……み、皆は……どこに……?」

 

ビブリオガールが恐る恐る手を上げ、震えた声で質問を吐き出す。

そうだ、何故わざわざ魔物が魔法少女を攫うのだろう。 何か目的でもなければその場でとどめを刺されていたはずだ。

 

「この島の近くという事は分かってますけど、詳しくはまだですわね……」

 

「目的不明、何故この島に……? お姉、なんだか私に隠し」

 

「ほな、うちは他の魔法少女集めてくるわ。 残念やけど合宿は中止やなぁ」

 

「中止……? 待ってヨ、それなら連れ去られた魔法少女はどうなるのサ!?」

 

ロウゼキさんの話しぶりには、魔物に攫われた魔法少女についての言及がない。

まさか、見捨てるとでもいう気か?

 

「……相手の能力は驚異的、こちらの被害をこれ以上増やすわけにはいきませんわ。 救助は、最悪の場合……」

 

「もういいヨ! だったら私が行く! 他の魔法少女は任せたヨ!!」

 

「こ、コルトちゃん!?」

 

ビブリオガール達の制止を振り切り、会議室から飛び出した私は一直線に海へと向かう。

まだ被害を受けていない魔法少女達を守るのが大事、その話は分かるが納得は出来ない。

私には連れ去られたブルームスターたちを見捨てるような真似は無理だ。

 

『もっきゅい! もっきゅ!!』

 

「バンク、いくヨ! ブルームスターたちを助けに!!」

 

廊下で待っていたバンクを抱え上げ、テディの腸に手を突っ込む。

階段を下りている暇さえ惜しい、私はそのまま海を一望できる窓へとつっこみ――――

 

「―――――SCRAMBLE!!」

 

硝子を叩き割りながら、金色の粒子を身にまとった。

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