俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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それぞれの戦果 ⑥

「……上手くいったなぁ」

 

「行きましたわね、やれやれ……」

 

「やはり何か隠してる、お姉」

 

「えっ? えっえっ?」

 

魔法少女達が攫われ、そしてコルトちゃんが飛び出して行ったというのに室内に張り詰めた空気は一瞬にして解けてしまった。

そんな事している場合ではないはずなのに、こうしている間にも攫われた魔法少女達の身は危険なはず。

それに1人で飛び出したコルトちゃんも無謀だ、早く止めないと。

 

「わた、わたし……お、追いかけてきます!」

 

「ああ、ちょっと待ちぃや白銀宮はん。仲間想いなのはええことやけど、それについてちょっとお話ししよか」

 

「……ふぇっ?」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「だぁーもう! 勢いだけでどうにかなるものじゃないネ!」

 

『もっきゅ!!』

 

ホテルの窓を突き破り、海岸まで辿り着いたはいいもののここから先のプランは一切考えていなかった。

なにせ魔物の痕跡を辿ろうにも場所すら聞き忘れていたのだから、かといって今更戻って聞きに行く時間すら惜しい。

 

それでも相手は大群、海岸に着けば何か手掛かりの一つぐらい見つかるだろうと思ったが魔力の痕跡もほとんど残っていない。

いや、違う。 他の魔法少女達の気配に紛れて何もわからないんだ。 

何せ今こうしている間にも他の魔法少女達は特訓に励んでいる、至る所に魔力を散らしながらだ。

 

「これじゃ私も鼻が利かないヨ! どうすれば……!?」

 

『モッキュ、モッキュッキュー!』

 

焦るな、思考が鈍る。 そもそもなんでここまで綺麗に何も痕跡がない? いや違う、今考えるべきはどうやって追跡するかだ。

頭を抱える私の横で、ズボンの裾を噛んでバンクが何かを訴える。

 

「ちょっと待ってヨ、今は私忙し……そうか!」

 

『もっきゅ!!』

 

バンクが何を訴えていたのか、ようやく理解した私はその毛むくじゃらの前でしゃがみこみ、右手の人差し指を差し出した。

 

「バンク、頼むヨ! 私とブルームスターの縁を結んで!」

 

『モッキュキュ』

 

景気良くバンクが指に噛み付くが、痛みはほぼない。

こそばゆさが残る感触が離れると、私の人差し指には赤いリング状の痕だけが残っていた。

 

「……今回も頼むヨ、ブルームの所まで連れて行って!」

 

『モキュッキュ!』

 

バンクの能力を信じ、先導する四つ足を追いかける。

いつでも銃だけは取り出せるようにだけ備えてあくまで慎重に、だ。

武器を取り出す隙は最小限に、これは何度もロウゼキさんに言われたことだから。

 

「……流石に痛い目見ただけあって身に染みてるネ、私……っ!?」

 

直前に感じた違和感、咄嗟にバンクを摘まみ上げて身を伏せる。

その瞬間に真正面から飛んで来たのは突風、いやそんなチャチなもんじゃない。

極小範囲に圧縮した嵐のような風の塊が私達の頭上を掠め、砂丘を抉って行った。

 

「ぷ……はぁ!? 何だヨ今の!? バンク、大丈夫!?」

 

『も、もっきゅっきゅ……!』

 

圧倒的な暴威が通り過ぎたのち、無事を確かめ合う。

どうやらお互いに対した被害は出ていないようだ、しかし今のは魔物の攻撃か?

いや、それにしては何だか既視感が……

 

「――――へぇ、避けられンじゃん!」

 

風邪のかたまりが飛んで来た方角から、少女の声が聞こえる。

天狗衣装と、身の丈に余る長身の槍を担ぐその姿は知っている。

いや、正確には手に持つ槍に見覚えがあるというべきか。

 

「お前……その槍、マン太郎に刺さってた奴だネ」

 

「あー、その節は悪かっ……いや違う違う、今は操られてんだから謝らない謝らない……ヨシッ!」

 

『モッキュー?』

 

こちらに聞こえない音量で何事かを呟いたのち、少女は槍を構え直す。

肌に感じるのはこれまで幾度となく魔物たちに向けられてきたものと同じ、敵意。

いくらなんでも魔法少女同士がこの状況で争う理由は何もない、だとすれば……

 

「これは……魔物に操られてるってことなのカナ?」

 

『モッキュッキュ!!』

 

「そうだぜェ! 癪な事にこのジャベル様は今魔物の(しもべ)として操られてんだ! 近づく魔法少女は皆追い返せってなぁ!!」

 

「……? でもなんだか、操られている割にはやけに意識がはっきりしているような……」

 

「……アー、ウァー、オレ、マホウショウジョ、オイカエス……チクショウナンデコンナマネヲシナクチャ……」

 

何だか操られているにしても様子がおかしい気はするが、敵対する意思があるのは間違いない。

それにこの調子だと攫われた魔法少女も1人や2人で利く数字じゃなさそうだ。

 

「魔法少女を追い返せネぇ……魔物がどうしてそんな真似をするのカナ?」

 

「オレ、リユウ、シラナイ! タダ、オマエ、タオス!!」

 

彼女が手に持つ槍を中心に、砂を巻き上げて旋風が渦巻き始める。

風を操る魔法、シンプルな分厄介だ。 あれでは迂闊に踏み込めば吹き飛ばされる。

 

「だったら……私の間合いで勝負だヨ!!」

 

テディからサブマシンガンを取り出し、間髪入れずにトリガーを引く。

近寄らせないし踏み込ませない、いつもと同じやり方だ。

銃の射程を押し付けて一方的に撃ち続ければ……

 

「―――――効くかッ!!」

 

「What's!?」

 

気合い一閃、振り抜かれた槍がジャベルを包み込むように竜巻を生み出し、マシンガンの弾丸を周囲へと逸らして行く。

撃てども撃てども風に遮られ、弾丸は一発も届かない。

 

そして躍起になってトリガーを引いたままでいれば、カートリッジ一本分の弾丸などすぐにはきつくしてしまう。

カチ、カチ、と空虚な音を立て、鉛弾の幕は唐突に途切れてしまう。

 

「あっ、しま――――!」

 

「ヨォシ、隙見ィつけた!!」

 

こちらの弾切れを狙い、今度は風を推進力に一気に距離を詰めてくるジャベル。

回避は間に合わない―――――代わりに、私はテディから引き抜いた“それ”を勢いよく放り投げた。

 

急に目の前に投げつけられた障害物、ジャベルも叩き切ろうとしたのは反射的な物だろう。

ピンを抜かれ、強い衝撃を受けたフラッシュバンはそのまま轟音と強烈な光をまき散らして炸裂した。

 

「アアアァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!? み、耳が……このぉ!!」

 

「ッ……!」

 

怯んだ隙に、と上手く行けば話が速かったのだが相手も歴戦の魔法少女。

見えないまま出鱈目に振り回した槍に合わせて吹き荒れる突風が私の体を軽く突き飛ばす。

流石に相手も一筋縄じゃ行かない、近づけば槍の餌食になるし遠ざかれば銃が届かない。

 

「強敵だネ、バンク……バンク?」

 

緊張を紛らわせようと、先程まで傍らにいたはずの小動物に話しかけるが返事がない。

ふと、隣を見ればあの暑苦しい毛むくじゃらの姿がどこにでもないではないか。

 

『モッキキュボボバガボボボゴボボボボボ!!!!』

 

「ば、バンクー!?」

 

そうだ、私の体が飛ばされるぐらいの風でバンクが飛ばないわけがない。

気が付けばバンクは穏やかな海の中へ水しぶきを上げながら落下していた所だった。

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