俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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狼藉 ②

「ふぅ、ここなら誰もおらんやろー」

 

「まあ……こんな夜更けに近寄る物好きはいないわな」

 

ロウゼキに連れてこられたのは海岸を見下ろせる崖の上、切り立った岩肌には荒れ狂う波が叩きつけられている。

これが火曜のサスペンスなら今から始まるのは犯人の独白だ、しかし今から始まるのも同じようなものか。

 

「で、話ってなんだ? こんな所にまで連れ回して」

 

「せやなぁ、ブルームはんは聞きたない? 魔法少女ロウゼキの話」

 

その言葉につい動揺してしまったのが伝わったのか、ロウゼキの笑みがよりにんまりとしたものになる。

魔法少女ロウゼキ、始まりの10人にして未だなお現役の魔法少女。

その実力は間違いなく最強、本人が語る話となれば興味がないというのは嘘になる。 そんな俺の僅かな反応を同意と見たか、ロウゼキは目を細めてぽつぽつと語り始めた。

 

「うちな、始めの頃は本当弱かったんよ。 何でも壊す力言うても初めの頃はまるで使いこなせへんかったし、皆には迷惑かけたわぁ」

 

「今となっちゃ信じられない話だな」

 

「ふふ、せやろ? これもまあ、日々の鍛錬の成果やなぁ」

 

「それで、その弱小魔法少女様がどうやって今の地位に? いや……そもそも何故、魔法少女ロウゼキは今だ現役なんだ?」

 

魔法少女が持つ魔力は成長とともに減衰していく、完全に失う訳ではないが20歳を超えれば魔法少女への変身や戦闘はほぼ不可能になる。

大人になるにつれて可能性を信じる心を失うだとか、色々な理屈こそ考えられてはいるがそれはある一名を除き例外のない摂理。

そしてその例外こそが今目の前にいる魔法少女ロウゼキ、10年を超えてなお力も見た目も衰えることなく活躍を続ける唯一の魔法少女だ。

 

「教えてくれよ、なんであんたは成長もせず、今も魔法少女でいられる?」

 

「……ちょっと長くなるけど、ええかな?」

 

「そのためにここまで連れてきたんだろ」

 

「まぁ、な。 まずうちが持っとる魔法はこの破壊する力の他にもあるんよ」

 

言いながらロウゼキは懐から呪符のようなものを取り出すと、それは青い炎に包まれ、燃えるカブトムシのような輪郭を生みだす。

この夜闇の中、太陽のような光を纏いながらロウゼキの周囲を旋回するその姿はある種幻想的だ。

 

「破壊と再生は表裏一体、なんでも壊す力と一緒に、うちは魔法少女の力を引き継ぐ力がある」

 

「……どういう意味だ?」

 

「聞いての通り、うちが今まで見せた魔法の9割は人からの借り物、うちの力じゃないんよ」

 

確かに自分が戦った時や、あとでアオたちから聞いたロウゼキの魔法は一貫性のないものだった。

チャンピョンのように複数の能力を切り替えられる魔法少女もいる、だがそれでもどこか一貫する特徴はある。

しかしロウゼキの場合は1つ1つ、あるいは同時に繰り出される魔法はまるで別物。 それこそ別人と戦っているような……

 

「始まりの10人、そこからうちを抜いて9人。 うちはその全ての力が使える」

 

「……それ、は、なんとまぁ……」

 

デタラメな話だが、今まで見てきたロウゼキのデタラメな実力を考えればむしろ合点が行く。

そもそもこんなところまで引っ張り出して冗談を言う理由もない、おふざけにしては手が混みすぎる。 ゆえに突拍子もない話もすんなり飲みこむことができた。

 

「条件は魔法少女の要たる杖を譲り受けること、両者の同意を得られたその瞬間に杖の魔力がうちの呪符に込められ譲渡完了、代わりに相手は殆どの魔力を失ってしまうんよ」

 

説明を挟みながらロウゼキが広げて見せた札は9枚、今飛び回ってるカブトムシも含めれば10枚か。

つまり本人含めて10人分の魔力、それも10年以上前の最前線に立ち続けていたベテラン中のベテランだ。

 

「……いや、待ってくれ。 それだとあんたが10年以上魔魔法少女を続けられる理由の説明になってないぞ」

 

「それはなぁんでやろなぁ? まあうち破壊者やから、その辺のルールも全部破壊してもうたんかな」

 

「もうたんかなって」

 

「ふふふ……理由があるとするなら、うちが引き継ぐのは魔法少女の歴史そのもの。 そう簡単に退場するのは許さへんって事かなぁ」

 

微笑みを崩さぬまま、海の方へ振り返ったロウゼキの背中はどこか寂しげに思える。

10年という月日は短いものではない、その間をずっと最前線で戦い続け、多くの戦友を見送ってきた背中だ。

見た目こそ少女ではあるが、その背に負った歴史の重みは大人でも押し潰されておかしくはないというのに、一体何が彼女をそこまで突き動かすのだろうか。

 

「せやけど、うちの力も大分弱くなってきとる。 今はもう全盛期の半分ぐらいしか残ってへんかなぁ」

 

「……は!? 待て、そりゃ一体何で!?」

 

「いったやろ、うちが魔法少女から力を引き継ぐには相手の杖が必要。 けどそれが盗まれたんよ、それから段々とうちの魔力も少なくなってきた」

 

「いや、それお前……話して、良いことなのか?」

 

「ほんまは駄目やなぁ、魔法局のトップが弱くなって来とるなんて話聞かれたらどこぞの誰が悪さ始めてもなーんもおかしくないもん」

 

今なおこちらに背を向けながらロウゼキは語る。

当たり前だ、魔法少女の敵は魔物だけではない。 世の中には魔法少女を敵視する人間や利用を考える奴だって少なくない。

そんな話を公表してしまえば、格好の機会を与える事になる。

 

「……盗んだ犯人は分かってるのか?」

 

「ドクターはんの協力者、って線で睨んどる。 けど手口が巧み過ぎて確証があらへんわ」

 

「なんで、俺にそんな話を?」

 

「期待しとるから」

 

振り返り、月をバックにこちらを見つめるロウゼキの瞳は血のように赤く輝いていた。

まるで化生の類かのように、吸い込まれるその瞳から目を逸らす事が出来ない。

 

「ブルームはん、あんたの過去を洗ってみても何も出てこぉへんの。 けど危険分子かと思たらむしろ協力的、ころころ姿換えたり杖の形質もなんもかんも異常(イレギュラー)の塊」

 

特に魔法的な拘束を施されている訳でもないのに、動けない。

つかつかと歩み寄り、下から俺を覗き込むロウゼキの顔が近い、唇が触れてしまいそうなほどに。

 

「挙句の果てに東京攻略の功労者、目ぇ付けるなと言われる方が無茶やわ」

 

「東京の功労者はシルヴァたちだろ、俺は成り行きで……」

 

「最後のデカブツ転がしといてそれはないわ、それに東北さんはブルームはんが出て来てからなんもかんも変わり始めた……せやから、期待しとるんよ」

 

「…………何を?」

 

「魔法少女なんて馬鹿げた存在を終わらせてくれるって」

 

気まずく逸らしていた視線を戻すと、そこには当たり前だが至近距離のロウゼキの顔がある。

幼い少女でありながら、どこか大人びた印象を受ける不思議な顔つき。

 

「……うちはもう、疲れたんよ」

 

一瞬だけ、泣き出しそうに眉を下げた彼女の顔からはいつもの笑みが消えていた。

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