俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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狼藉 ③

先に逝く者から託された。

 

腹に風穴を開け、傷口は黒く炭化して肉の焼ける嫌な臭いが立ち上る。

それでも子供を庇い、最期まで立派に魔法少女として戦った先輩を看取った。

 

「―――――生きなさい……」

 

蚊の鳴くような声で、生き残れと呪われた。

 

衰えたものから託された。

魔力を失ってしまう前に、時には無理やり奪い取るようにして。

 

「ごめんね……ごめんね……っ」

 

だと言うのに、誰一人として恨むこともなく泣いてばかりで困った。

恨んでくれていい、憎んでくれていい、未練など残さずに先のある未来を歩んで欲しい。

そう願うことすら許されないのか。

 

そしてかつて始まりの10人と呼ばれた魔法少女はぽつぽつ、最後には自分だけが残された。

人の身に余る魔力はこの身体の成長を止め、いつまでも魔法少女として戦える力を与えた。

 

いくつの命を看取っただろう、いくつの未来を見捨てただろう。

強くなった分だけ責任が背にのしかかった、どれほど強くなろうとも掌から溢れる命があった。

くだらない利益のために唾を飛ばして怒鳴りあう大人たちを見た、いつしか私は少女ではいられなくなった。

 

強くなればきっとなんでもできると思ってた、なんとかなると思ってた。

魔物も魔力もなにもかもなくなるものだと思ってた、けど現実は10年すぎてもなにも変わらない。

 

魔法少女は減らない、むしろ増える一方で過ぎた力は管理されなければいけない。

当時の自分より幼い子を相手に死地へ向かってくれと言わねばならない。

自分一人の手では届かないから、仕方ないからと言い聞かせるなにかが胸の中にいた。

 

毎日、鏡の前で作る仮面みたいな笑顔だけが日に日に上手くなっていた。

この平穏を護るために、魔法少女を守るために、人の扱い方ばかりを覚えていた。

腐れ果てた京都本部長を蹴落とした時にはもう、この腕は見るに堪えないほど汚れていた。

 

それでも私は最強の魔法少女だから、今さら降りるような真似は許されない。

この世界から魔法少女が必要なくなるその時まで、私は戦い続けなければいけないのだから。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

《……で、どうする気ですかマスター?》

 

「どうする気って、何がだ?」

 

なんとなく、それ以上会話をする気にもなれずにロウゼキと別れた後、俺は何となく何かをするでもなく海沿いを散歩していた。

自主練という気分にもなれず、かと言ってこのまま帰っても寝付けるような気がしない。

拾い上げた流木を箒に変え、適当に振り回しながら見上げた星は、それぞれの歴史を語るかのように輝いていた。

 

《何って、さっきのロウゼキさんの話ですよ。 あんな話をマスターだけに話すなんておかしいです、何か企んでいるのでは?》

 

「いや、そういう事じゃないと思うけどな」

 

《むー、それならマスターはなんだと思っているんですか?》

 

「そうだな……ただ吐き出したかっただけじゃないのか?」

 

魔法局京都本部長代理にして魔法局最高戦力、並びたてられた肩書は本人にとっても軽いものではない。

息が詰まり、愚痴を吐き出した日もある。 たまたま今日がそんな日で、話せる相手が自分だけだったというだけの話だ。

 

《だとしても……自分が弱くなってるなんて話、野良の魔法少女に話しますかね》

 

「それだけ信用してくれてるって事……いや、話したからには逃がさないって事だろうな」

 

《うへー、弱体化しているのに逃げ切れる気がしませんね》

 

「だよなぁ、あれで半分なら全盛期はどんなものだったんだよ……」

 

今でさえ髪の毛の先にさえ触れる事すら難しいのに、ここから倍強くなると言われたらもうお手上げだ。

東京の時に変身できたあの紅い姿になっても勝てるビジョンが浮かばない。

 

……それが本来、彼女が背負っていた10年という歴史か。

先達の死を看取り、後続の道を慣らし、去り行く友を見送る瞳は何を映していたのだろう。

だからこそ、「終わりにしたい」という言葉に重みを感じたのだ。

 

「……なあハク、本当に出来ると思うか? この世から魔物が、魔法少女がいなくなるなんて」

 

《具体的なプランを上げろと言われたら不可能です。 ですが、マスターがやるというなら付き合いますよ》

 

「言うねェ、だったら地獄の底まで相乗りしてくれよ」

 

《と、言う事はやっぱりマスターは彼女の言う事に付き合う気ですね》

 

「……誘導尋問だな今のは?」

 

《マスターが分かりやすすぎるだけですよ。 それにマスターの理想だって同じ事でしょう》

 

少女が戦わなくていい世界、そんな世界があるとするならやはり魔力が根絶された未来だろう。

結局、俺もロウゼキも掲げた理想の行く先は同じなんだ。

 

「ハク、俺はロウゼキに協力したい」

 

《はい》

 

「そのためにもまずロウゼキを倒さないといけない」

 

《はいはい……おかしな話ですがまあそうですね》

 

まずはロウゼキが出した試験を乗り越え、話はそれからだ。

ロウゼキに協力するためには今のロウゼキより強くなければならない。

 

ロウゼキの話を信じるなら、彼女はこれからもどんどん力が弱まって行く。

時間がたてばたつほど、彼女が理想を叶える可能性は遠くなる。

 

「……ラピリス達との共闘も視野に入れる、明日はいつもより早めに起こしてくれ」

 

《あらら、こんな夜更かししてるのに良いんですかねー》

 

ハクと軽口を叩きながら、さざ波が押し寄せる砂浜を歩く。

結局ロウゼキに合格を貰えたのは、それから3日後の話だった。

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