俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ドクター・ストップ ⑤

「はぁー、しっかしこうなるとは思わなかったっす……」

 

夏の長い日差しが終わる、病室の窓から見える夕日はすでにとっぷりとその姿を隠している。

すこしごわごわするシーツの上に寝かせた体に寝返りを打たせると、向かいにベッドに横たわったギャラクシオンの姿が見える。

 

……カナさんが容赦なく倒しただけあり、そのダメージは大きい。

私達の魔力が体に残留している間は痺れも続く、回復するまでもう数日かかるはずだ。

 

「そもそも魔法局の要監視対象と同部屋って本末転倒じゃ……大丈夫なんすかね」

 

『大丈夫だと思うけど~あの先生、患者の情報は守ってくれそうだし~』

 

(おっと、今までずっと静かでしたけど何かあったんすかソウさん?)

 

『こっちも色々とゴタついてたの〜、ねえカナちゃん?』

 

『花子の傷開いたセキに折檻とタツミの励ましで時間くっとったわ。 今どないな感じや……ってなんでギャラクシー娘おるねん!』

 

『中々愉快なことになっているわね~』

 

(まあ、色々あったんすよ……)

 

ここまでの経緯を搔い摘みながら脳内の4人と共有する。

入院した事、ギャラクシオンが運び込まれたこと、今日の出来事は一日で収めるには胃もたれするほど濃密だった。

 

(……って感じっす、セキさんたちは?)

 

『明日には戻ってくるやろ、それよりどうする? 今のうちにもっと痛めつけておくか?』

 

(怖いことは言わないでほしいっす、第一彼女からは聞きたいことも多いっすから。 それに……)

 

『それに?』

 

(……お姉ちゃんならきっと、そういう真似はしないっす)

 

最愛の姉にして最も尊敬する魔法少女の顔を思い出す。

人の記憶とは薄情なもので、もはやしばらく見ていない姉の笑顔は頭の中で薄らとぼやけている。

今なお病床に伏せる姉ならば、同じ立場だとしてもそんな卑怯な真似はしない。

 

『……あら~、そうね。 それならやめておきましょうか』

 

『せやな、花子の判断に従うで。 ……全くいつになったら目ぇ覚ますんやこいつ、鍛え方が足りてへんな』

 

(やった本人がそれを言うんすか……)

 

ベッドの上に横たわったギャラクシオンも今は夢見の悪そうな顔でうんうん唸っている。

少し太めの眉を眉間に寄せ、皴が刻まれたまま器用に眠る姿は変身時とはまた違った印象だ。

あか抜けないというかあの横暴な態度からはうってかわって気弱な印象を受ける。

 

「しっかし先生戻ってこないっすね、ここテレビとか無いんすか……」

 

  ――――だヨー……

 

「……?」

 

気のせいか、既に帰ったはずのゴルドロスさんの声が聞こえた気がする。

いや、気のせいではない。 確かにあの姦しい声が廊下の向こうから聞こえて来た。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……で、結果はどうだったのカナ、先生?」

 

「………………俺に聞くな、カルテならそこにある」

 

言われて指し示された通り、デスクの上に置かれたカルテを手に取り、めくる。

それは初めに2人が書いていた分厚い問診表だ、その上に神経質な赤い字で各項目の検査結果が記されている。

身体検査の結果は2人とも良好だ、ただハナコガールは少し栄養失調で痩せ気味だが許容内だろう。

 

「んー、けどここじゃないカナ……あの項目は?」

 

「…………最後のページだ、まったく心理学は専門外だってのに無茶を言う」

 

「それでもあの短時間で用意してくれるんだから流石だネ! どれどれ……」

 

一旦カルテを閉じ、表裏をひっくり返して最後のページをめくる。

そこに書かれているのには黒いシミで作られたミミズがのたくった様な絵、他にも何枚かイラストが載っていたり、自分で絵を描くような枠もある。

イラストの下には「この絵が何に見える」だとか「どう思うか」などの抽象的な問いも載っている。

 

「ストレス過多、責任感が強い、背負いこむ性質が強い……まあ当たってるネ、そして……何か大きな隠し事をしている、カ」

 

「…………ヤブ医者の診断書だ、あまり当てにはするなよ」

 

「いいやいいや、そんなことないヨ。 頼りになる先生だネ、けどそっかぁ、なぁーんか隠し事してるネあの正義のヒーローは」

 

東京から戻ってきた辺りから、おにーさんの様子が何かおかしいような気がしていた。

以前よりも心に距離があるような違和感、検査のついでに頼んでみたがやはりビンゴだったか。

 

「ふっふっふ、私に隠し事なんて千年早いヨ、ブルーム。 今度会ったらありったけの衣装と一緒に尋問だヨ」

 

「…………そのブルームってやつだが、本当にガキか?」

 

ギクリ、とページをめくる手が止まってしまった。

 

「ど、どうしたのカナ? 急に突拍子もないこと言っちゃってー」

 

「…………診断結果もそうだが、口ぶりや振る舞いから見てガキとは思えねえ。 あいつ。一体何もんだ?」

 

……流石に深い所まで頼み過ぎたか、元から腕が立つだけあって勘が良い。

どうしたものだろうか、バカバカしいと笑い飛ばすのは簡単だが。

 

「…………まあいい、俺の関係するところじゃないからな。 ただ1つ気を付けておけよ」

 

「あはははのはー……その忠告はどういう意味カナ?」

 

「…………精神分析の結果もそうだが、あいつは結構不安定なバランスで立っている節がある。 何か強いショックを与えちまえば案外脆いかもな」

 

「強いショックって、どういう―――」

 

「…………まあ、素人診断だ。 ただの余計な世話程度に考えとけ、あとお前もそろそろ帰れ」

 

「むー! 大事なところはぐらかさないでくれるかな!? ……ん?」

 

そっけない態度の先生がイスを軋ませて座ったとき、背後から何か物音が聞こえたような気がした。

 

「…………どうかしたか?」

 

「……いや、何も。 気のせいカナ」

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