俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ドクター・ストップ ⑥

「はぁー、つっかれた……」

 

夕暮れ時の涼風を肌で感じながら、店への帰路を歩く。

通り慣れた道だが、元の身長で眺めるのは久しぶりな気がする。

……最近、ブルームスターの姿でいる事の方が長いんじゃないだろうか。 なんだか知らないが危ない傾向のように思える。

 

《お疲れ様ですねマスター、検査結果も悪くないようですし今日は帰ってゆっくり休みましょうか》

 

「ああ、そうさせてもらうよ。 次から次へと問題ばっかで魔法少女は大変だなぁ」

 

ヴィーラにパニオット、そしてトワイライト。 次から次へと厄介な魔法少女……いや、魔女が湧いてくるものだ。

 

「……流石に今日はこれ以上無い、よなぁ」

 

《薬の流通量は明らかに加速してますよね、今日は無事でも明日明後日は分かりませんよ》

 

「気が重いなぁ、まったく」

 

前にアンサーたちから聞いた話だが、錠剤の拡散方法として最も多いのが「友達から分けて貰う」というものらしい。

下駄箱に入っていた、指定の場所で拾った、もしくは知らぬ間にいつの間にか手元にあった、他にも入手経路は色々あるがそれでも人の口にはとは建てられないということか。

好奇心に身を焦がした子供たちが一番被害を被っている、近頃では無謀にも魔物と戦い大怪我を負ったなんて話もニュースで流れるものだ。

 

「……なあハク、なんでそこまで皆魔法少女になりたがるのかな」

 

《んー……男の子が日曜朝のヒーローに憧れるようなものじゃないですかね。 ましてやあり得ないとされてた力が手の届くかもしれない距離にある昨今です、もし目の前に可能性がぶら下げられたら、喰いつきたくなるのも分からなくはないですね》

 

「そんな良いものじゃないけどなぁ」

 

裏側を知っていればきっと同じような憧れは懐かないだろう、魔法少女は常に命懸けだ。

魔物との戦闘は常に常識が通用しない、最善に最善を重ねても常に一歩間違えば命を落とす危険が付きまとう。

だがメディアに映るのは華々しい勝利と、苦労を一ミリを見せずに微笑みかける魔法少女の姿だけだ。

 

《あとはまあ、元からそういった力に憧れを持つ素質があったんじゃないですかね》

 

「素質って……なんだよそれ」

 

《ヴィーラちゃんが最期に吐き捨てて行った台詞、忘れた訳じゃないでしょう?》

 

「………………」

 

世の中、人並み以上の幸せを持って生きられる連中ばかりじゃない。

虐待、事故、天運、思想、性格、子供が満足な生き方をするのは不自由が多い。

 

《魔女……というよりヴィーラちゃん達はそういう子たちの集まりなのかもしれませんね》

 

「……何とかできないもんかな」

 

《うーん、それは私には少し難しい―――――》

 

――――ガシャン!!!と、大きな音が響く。 その音に驚いたのかハクが収まる掌のスマホがぶるりと震えた。

背後から聞こえたその音に振り返ると、何やら携帯を耳に当てて肩で息をする男の後姿が見えた。

男の前には先月閉店したタバコ屋の締め切ったシャッターがぐわんぐわんと揺れている、聞こえた音からしてシャッターを殴るか蹴ったのだろうか。

 

「あぁ!? ざっけんなよお前、もう一遍言ってみろ!!」

 

猫背の男はものすごい剣幕で誰かと通話しているらしい、話しながらも何度も目の前のシャッターを蹴りつけている。

 

《び、びっくりしたぁー。 何なんですかねもうっ》

 

「まあまあ、そう怒んなって。 確かにものに当たるのは感心しないけどな」

 

無精ひげを生やし、ぼさぼさの髪は自分よりはるかに年上に見える。

大の大人が人目も憚らずになんて真似を、とは思うがああいうのは関わらないのが一番だ。

関わるとたまに腹を刺される。 昔刺された反省を生かそう。

 

「だからさぁ、やって来いっていったよなぁ僕はさぁ! あぁ!? 文句は良いんだよ文句は!!」

 

「……行くか、見ていて気分のいいもんじゃないしな」

 

《そうですね、動画撮ってSNSに上げます?》

 

「お前やめろよそういうの……」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……で、帰ってきたらこれはどういう状況なんだ」

 

「あっ、お帰りなさいお兄さん。 えっとこれはその……」

 

「なんやもぉー、花子はんもみぃんなもうちの言う事聞いてくれへんで―」

 

男を無視して店に戻ると、テーブルに上半身を投げ出して飲んだくれているロウゼキと、その横でおろおろと右往左往するアオが待っていた。

更にテーブルの上には積み重なったコップとその周囲には乱雑に開けられたドリンクボトルが転がっている。

 

「まさか酒……じゃないな、全部ジュースか」

 

「ご、ごめんなさい。 私が付いていながらこんなことに……」

 

「えっと、とりあえず何かあったか聞かせてくれるか?」

 

「お昼過ぎごろにロウゼキさんが入店して、意気消沈していたご様子だったので話を聞いたところ食事を要求して……」

 

《やけ食い、そして場酔いですかね……?》

 

「そう、なのかなぁ……」

 

テーブル下のボトルを1本拾う、輪切りにされた果実のラベルが張られたそれはやっぱりジュースだ。

そもそもこの店に酒の類はそれほど置いていないはずだ、せいぜい料理酒と優子さんの晩酌用、あと菓子の香りづけ程度にボトルが数本あるぐらいか。

 

「分かった、お疲れさまアオ。 ここから先は俺が対応するよ……」

 

「すみません……せめて後片付けは私が」

 

「んー……あらぁ、店員はーん。 なんや帰って来たのぉ?」

 

頬を高揚させたロウゼキがテーブルに突っ伏したまま顔だけこちらに向けてからからと笑う。

まるで自嘲しているかのようだ、いつもの彼女とは思えない。 さて、一体どうしたものだろうか……

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