俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ドクター・ストップ ⑦

それから酩酊(した気分になっている)ロウゼキから話を聞き出すのには結構な時間がかかった。

花子ちゃんの家出を知ってから探していたこと、ついこの前再会してからようやく改めて対面出来た事、そしていくらか会話を交わした末に拒絶されてしまったこと。

 

「……で、ショックで荒れてこの店に来たってわけかぁ」

 

「はぁ、ロウゼキさんでもそういう事はあるんですね」

 

「誰だって親しい仲で拒絶されたら悲しいものよ。 そういう時は呑みなさい」

 

「ちょっと、酒勧めないでくださいよ優子さん」

 

すでにとっぷり日が暮れて時計の針は20時を少し過ぎたくらいだろうか。

とっくに閉店した店内では、全員集結してテーブルを囲んでロウゼキの話を聞くあーでもないこーでもないと聞いていた。

 

「まあ、その花子ちゃんっていう子も理由があるんだろ? だったらそこまで深く事情に関わる必要はないんじゃないか?」

 

「……山田 良子。 花子ちゃんのお姉さんなんやけどな、うちはその人から“自分に何かあったら妹は頼む”と言われてたんよ」

 

「……それで、今回は実際に何かがあったわけね」

 

テーブルに突っ伏したまま、優子さんの言葉にロウゼキが頷く。

ここまで意気消沈している彼女を見るのは初めてだ、それとも本来はこちらの方が素なのだろうか。

 

《始まりの10人さん達が関わるとメッキが剥がれちゃうのかもしれませんね、ロウゼキさんは10人の中で最年少って話でしたし》

 

「なるほど……まあ難しい問題だ、一朝一夕でどうにかなると思えないけど、いつまでもこっちに居ていいのか?」

 

「…………本当は合宿終わったら昨日には帰る予定やったんよ」

 

相変わらず突っ伏したまま、ロウゼキが器用に操作したスマホをテーブルの上に置く。

そこには大量の着信履歴と怒涛のSNS爆撃を示す数字が3桁表示されている、ちょっと背筋が冷える量だ。

 

「あの、京都の方は大丈夫なんですか……?」

 

「京都もうちだけのシマやないで、暫く抜けただけでそう簡単に何か起きるほど柔な鍛え方はしとらんよ」

 

「そうですか……そうなんですか……」

 

「まあ最高戦力がいざって時動けないと困るわな」

 

東京の時がいい例だ、ロウゼキのフットワークがもう少し重ければ全滅もあったかもしれない。

それはそうと、生まれながら鬼教官にしごかれる運命を背負った京都の魔法少女達にはご冥福を祈っておこう。

 

 

「だったら折角だ、ちょっと遅いけど夕飯食べていくか? 夜も遅いしどうせこのまま帰る気も無いんだろ?」

 

「……店員さん、ええのん?」

 

「一応聞くけど優子さん、良いですかね?」

 

「構わないわ、こういう夜はアルコールで忘れるのが一番よ」

 

「飲ますな!」

 

……いや、見た目はともかく年齢を考えれば問題はない、のか?

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

 

既に周囲は泥のような夜に染まっている。

チカチカと不確かに点滅する電灯を頼りに重い足取りを運べば、いつの間にか見慣れたアパートの前にたどり着いていた。

本当は二度と帰りたくなかったが、万が一失踪したことが大きな騒ぎになると困る。

 

「……ま、ありえないとは思うけど」

 

誰に向かって言うでもない独り言をぼやきながら、錆び付いた階段を登る。

ネジが緩んだ音を立てる階段を上り切ると、各部屋を繋ぐ廊下の一番奥が一応私の帰る場所だ。

 

押し込められたチラシの山を引き抜き、ポストの底から合鍵を引っ張り出して扉を開く。

油の切れたノブを回して引っ張ると、部屋からは香水とアルコールが混ざった嫌な臭いが漂ってくる。

この臭いが私を魔女ヴィーラから現実に引き戻す。

 

「……ただいま」

 

当然返事は返ってこない、この時間ならあの人も仕事の真っ最中だろう。

今頃また馬鹿な男たちをひっかけて酒でも飲ませている頃合いか。

薄暗い廊下の向かいにある扉を開くと、床一面に広がるコンビニ弁当の山とビール缶が転がっている。

 

「片付けていってほしいんだけどなぁー……」

 

「まったくだ、衛生面でも栄養面でも最低レベルだね。 早急な掃除を勧めるよ」

 

「……ふほーしんにゅーなんですけど、お医者さんが何か用?」

 

確かに鍵は掛かっていたはずだが、どこから入ったのだろう。

いや、本物の魔法少女ならこの程度造作もないと言う事か。

 

「なに、失敗して気分が落ち込んでいるんじゃないかと思ってね。 ……さて、実際戦ってみてどうだった?」

 

手探りで壁に張り付いたスイッチを押し、部屋の電灯をつける。

そこには白衣を身に纏う眼鏡の少女……ドクターが立っていた。

 

「……どうって、何が?」

 

「ブルームスター、あれは不思議な相手だ。 何度か会話も交わしていたようだからかどわかされたんじゃないかとね」

 

「はっ? そんなわけないでしょ、むしろ大っ嫌いだってのあのタイプ」

 

真っ当にキラキラして、正しくて、皆から応援される正義のヒーロー。

いやだいやだ、虫唾が走る。 そうやって踏みにじられる奴らの気持ちなんて全く分からないくせに。

 

「……そうかい、なら良いんだ。 それとギャラクシオンについてはまた後で情報を送るよ、次は戸締りをしっかりしておくといい」

 

少し目を細めて私の顔を見つめると、ドクターはすぐに部屋を立ち去る。

壁の一部がブロック状に解けたと思うと、その向こうに彼女の姿が消えていった。

 

「普通に帰れないのかっての、まったく何の用だったんだか……」

 

改めて部屋の中央を見ると、ゴミに埋もれたテーブルの上には見慣れた諭吉が1人、メモと一緒に置いてあることに気付く。

我が母親ながら、毎度毎度代わり映えのしない献立だ。

 

「…………唐揚げ弁当、飽きたんだけどなぁ」

 

部屋の壁に掛かった時計は20時過ぎくらいを指している。

……人間、食べなければ動けない。 仕方なく私は万札を片手にコンビニへと歩を進めた。

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