俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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茹だるような暑い日の話 ②

「代わってください……」

 

「断るヨ」

 

午前10時、ビブリオガールの家でいくらか時間を潰した後にいつもの店に顔を出すと、少しやつれた顔つきのサムライガールが顔を出した。

見るからにお疲れの様子だ、邪魔をしては悪いから今日はこのまま帰る事にしよう。

 

「まあまあまあそう言わずに、折角来たんだからお茶でもどうですか奢りますよ今日は特別に全品私のおごりですから存分に店の収益に貢献してください」

 

「いやー私たちこの後用事がって力強いなァー! ちょっとー、服皴になっちゃうヨー!」

 

「あ、あわわわわ……けけケンカは駄目、だよ……!」

 

後衛で機銃を振り回す私と、前衛でガシガシ切った張ったするサムライガール。

力比べとなると勝てるはずもなく店内に引きずり込まれ、そのまま強引に席に座らせられる。

エアコンが効いた店内は相変わらず閑古鳥が鳴いている……が、1人だけ客がいるようだ。

 

「あらぁ、2人ともおはようさん。 なんや遅めの朝食? お休みやからって気ぃ抜いたらあかんよー」

 

客席を隔てるカウンターの向こうで食器を拭きながら、心なしかいつもより機嫌がよさそうな笑顔を振りまくその姿は間違いない。

あの合宿中に悪夢で見たほどの大魔法少女、ロウゼキその人だ。

 

「写真で見た顔と大違いだネむぐぅッ」

 

「コルト、それ絶対本人に言わないでくださいね。 私の命がないです」

 

「ぷはぁ! だったらあんなの送ってこないでほしいんだけどネ!?」

 

「まぁまぁ……」

 

「なんや騒がしいなぁ、どないしたん?」

 

女3人で姦しく騒いでいると、調理場から当の本人が現れる。

いい意味で似合わない猫柄のエプロンで手を拭きながら登場するその姿は妙にこの店に慣れた様子だ、何年も住み込みで働いていたような風格がある。

 

「ど、どうもー……お邪魔してるヨ、ロウゼキさん」

 

「うふふ、うちもお邪魔虫やけどなぁ。 昨日はごめんなぁ葵はん」

 

「いえ、お気になさらず……はぁ、あいにくお兄さんは今留守ですけど、簡単に用意出来るものなら出せますよ」

 

「あれ、おにーさんいないノ?」

 

「ええ、調味料を切らしたみたいで買いに出かけてます。 すぐに帰ってきますよ」

 

「ふーん、ソッカ。 少し時間かかると思うけどネ」

 

「……?」

 

手元のスマホに視線を落とす、載っているのはつい先ほど投稿されたばかりの写真だ。

そこには箒の上に立ち、街の空を旋回するブルームスターの姿が映っている。

私達がこうして集まっている間に朝一で街のパトロールとは、魔法局よりも真面目な魔法少女だ。

 

「めいゆ……ブルームスター、だね」

 

「むっ、警邏中ですか。 流石ですね」

 

「流石に敵さんもこんな朝からは動かんと思うけどなぁ、相手かて人間やから休みは必要やろ」

 

「もー、ぞろぞろ人のスマホ覗かないで自分の見てほしいカナ!」

 

画面を覗き込もうと集まって来た3人をひっぺがし、スマホを仕舞う。

こうも密集されるといくらエアコンが効いていても暑くて仕方ない。

 

「Hey店員、とりあえず朝食頼むヨ! 朝はパンぐらいしか食べてなかったからネ!」

 

「ちゃんと食べないと体に毒ですよ……まったく、詩織さんは何か食べますか?」

 

「い、いや……わたしは、その……!」

 

すると、両手をブンブン振って遠慮するビブリオガールの腹がキュルルと音を立てた。

まあ、夜更かしして遅く目を覚ましたところに私がやって来たのだ。 朝飯を食べる暇はなかったはずだ。

 

「2人ともですね、分かりました。 えーと今残ってるのは……」

 

「とりあえずご飯は炊けてるなぁ、あと冷蔵庫の中に昨日の余りと、ハムカツとクリームシチュー仕込んでたらしいから……」

 

「なんでロウゼキさんの方が台所事情詳しいんですか……」

 

「昨日チラッと見たからなぁ、何となくは覚えとるよ」

 

「そんな一瞬で人の家の台所把握されるのはホラーだヨ……」

 

おにーさんがいない今、台所というテリトリーを侵略されて言い知れぬ敗北感を覚えているサムライガール。

昨日からこんな調子だったと考えれば、疲労もやむなしだろう。 気分は分からないでもない。

そして、席についてなんともなしに待っていると、クリームシチューの良い匂いが漂ってきた。

 

「いいネェ……私付け合わせはパンで頼むヨ!」

 

「わ、私はご飯で……」

 

「みそ汁はつけます?」

 

「……シチューに味噌汁ってどうなのカナ?」

 

「い、意外と合う、かも……?」

 

確かに、調理場に見えるくつくつと煮える鍋は2台ある。 一つは味噌汁でもう一つはシチューだろうか。

どうなのだろう、食べ合わせは少し気にならないといえば嘘になるが……

 

「そういえば、2人揃って何の用だったんですか?」

 

「ああそうだヨ、えっと……」

 

……って、しまった。 サムライガールはハナコガールたちの事を知らない。

しかもロウゼキさんの前でべらべらと話すのもどうなんだろうか、幾ら本部長代理とはいえ他所の魔法少女に情報を流すのも少し迷う。

 

「えー、えーとその……なんだったカナ?」

 

「むぅ、なんか怪しいですねコルト。 何か隠しごとですか?」

 

「い、いや違うんだヨ! ねえビブリオガール!?」

 

「ふぇっ!? こ、こっちに振るの!?」

 

そのままわたわたと誤魔化していると、不意にカランカランとドアベルが鳴り扉が開く。

 

「ただいまーっと……ってあれ? 3人ともそろってどうしたんだ?」

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