俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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茹だるような暑い日の話 ④

《いやぁ楽しみですねえ、お祭り!》

 

「どこがだ!」

 

客の居なくなった卓上を拭きながら、一人悪態を吐く。

カウンターに立て掛けられたスマホの中、無邪気な相棒はこっちの気苦労も知らぬままに画面内を飛び回ってはしゃいでいた。

 

「コルトの野郎……あいつ、またブルームを着せ替え人形にする気か」

 

祭りに浴衣とくればあいつの考えていそうなことはわかる。

大方値段の張る浴衣を押し付けて断れない空気を作り、俺に着せる気だろう。

気が滅入る……だが祭りの警備もあるんだ、あいつらもそこまで暇じゃない。 だから俺に構う余裕なんて無いはずと思いたい。

 

《いいじゃないですかー、私がコピー取れば浴衣なんていつでも着替えられますよ?》

 

「誰が好き好んで女物の服着たがるかよ、いつもの格好だって恥ずかしいんだぞ!」

 

《えー、似合ってますよ。 マスターってばどっちの姿でも背格好は良いんですからもっとオシャレしましょうよ》

 

「断る!!」

 

《BOOOOOO!! ……そういえばコルトちゃん達は何の用だったんでしょうかね、朝ごはん食べに来ただけではなさそうですけど》

 

「あー……そうだな」

 

大方用事の想像はつく、そして魔法局からの呼び出しで潰されたことも。

時刻は丁度正午を少し過ぎた頃、ならば後で少し様子見に行くか。

 

「ハク、後で午後の気温調べといてくれ。 30度下回るか?」

 

《夕方になってようやく20度台らしいですよー、バッテリーが暑くてかないませんね》

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「あつぅいっす……」

 

寝苦しい夜を超え、ベッドの上で何度寝返りを打っただろうか。

一応エアコンは効いてはいるが空気は生ぬるい、おまけに湿気が多い。 肌に張り付くしっとりとした感じが一層不快感を際立たせる。

 

「病院ってなんでこうも温いんすかねぇ……」

 

『冷房で風邪をひかないようにじゃないかしら〜』

 

『ここはただオンボロなだけじゃねえのか?』

 

「こらこら、失礼っすよセキさん……」

 

確かに闇病院ではあるが、それでもここの設備は充実している。

患者の体調を左右する空調管理を怠るとは考えにくい。

 

「……悪い、空調が壊れた」

 

「オンボロだったっすー!」

 

汗をにじませた先生が現れたのはそれから10分後の話だった。

現在病室には、どこから引っ張り出したのかもわからない古びた扇風機が懸命に首を振っている。

だがそれも生温い空気をかき混ぜているだけだ、気休め程度の効果しかない。

 

「……一応動いてはいるが、温度操作を受け付けないでいる。 ちゃんと水分は取っておけよ」

 

「ういっす、ちなみにいつになったら直るとか……」

 

「…………善処はする」

 

「ふ、不幸っす……」

 

まあ文句を言っても涼しくなるわけでもなく、逃げ場のない熱気を受け入れるほかない。

言われた通り水分補給にだけ気をつけよう、熱中症で倒れましたじゃお笑い種だ。

 

「あんたも気をつけたほうがいいっすよー、この暑さは命に関わるっす」

 

「…………」

 

反対側のベッドに眠るギャラクシオンに話しかけるが、当然返事はない。

まあ互いに火花を散らした相手と呑気に会話できる奴なんてそうそういない。 それともまだ痺れが抜けないか。

 

「宇宙のエニェルギーは無限大……太陽如き矮小な存在でどうにかなるもにょきゃ」

 

「あっ、喋った。 けどやっぱりまだ痺れてるっすね」

 

「うるひゃぁい……」

 

どこか締まりのない口から零れる言葉は舌足らずなものだ。

まあやったのは私達なのだが。

 

『けどまあ昨日よりマシやろ、これならすぐ回復するんとちゃうか』

 

「是非とも早く治ってほしいものっすけどね、この後取り調べもあるんすし」

 

取り調べ、という言葉にギャラクシオンの肩がビクリと震える。

取り調べにはまたアンサーが出てくるのだろうか、彼女の能力は戦闘向きではないが恐ろしい。

魔法少女の力もなしには彼女の詰問には耐えられない、それに一度は命を奪おうとした相手なら尚更恐ろしいだろう。

 

『ま、自業自得だな。 せいぜい自分のやったこと悔やみやがれってんだ』

 

「………………」

 

『せやな、幾ら子供でも限度があるわ。 流石に未成年でも魔法局壊して何にもなしって事はないやろなぁ』

 

「………………」

 

(ちょっと、言い過ぎっすよ2人とも。 幾ら聞こえてないからって……)

 

『待って、花子。 なんだか様子がおかしくないかしら~?』

 

「へっ?」

 

ギャラクシオンは未だこちらに背を向けたままだ、薄いシーツを体に巻き付けて対話を拒むように向こうの壁を見つめて微動だにしない。

……いや、流石に動きがなさすぎじゃないだろうか。 なんというかぐったりしているというか。

 

「……ぎゃ、ぎゃらくしぃ……」

 

「わー、熱中症っす! だからもー水分取れって言ったのにー!?」

 

『な、ナースコールナースコール! 医者を呼べ!』

 

『落ち着かんかい! 花子、そんなに暴れたらまた腹の傷が開くで!』

 

「よう、ちょっと顔見に来たぜー……って、1人で何の騒ぎだ花子ちゃん?」

 

「あぁ、ブルームさん! 丁度良か……うわー!?」

 

『わぁー! 花子がベッドから落ちたぁ!?』

 

ずっと横になった体をいきなり起こしてはいけない。

ベッドから降りようとしたところ、焦りからシーツに手を滑らせてしまい、堅い床に尻を叩きつけることになるからだ。

 

「だ、誰かー! シル……ヴァはいないし、先生ー! せんせぇー!!」

 

「う、うぐぐ……一生の失態っす……」

 

「ほっとぎゃらくしぃ……」

 

当然、尻餅をついた衝撃で腹の傷はまたぱっくりと開く。

この混沌とした現場に先生が駆け付けるまでの数分間、私は腹部と臀部からそれぞれ込み上げてくる痛みに悶えていた。

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