俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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茹だるような暑い日の話 ⑥

暑い、今日はやけに暑い。

締め切っていたはずの倉庫の中、コンクリートの床でさえ何処か生ぬるい。

こうも暑いと無性にイライラも募る、綺麗に舐め切ったアイスの棒に刻まれた「当たり」の文字も私の気を宥めるようで腹立たしい。

 

「……ヴィーラ、建物は壊さないように」

 

「わかってますよぉーだ、ただ折角手に入れた新しいアジトなのにさー、今までと変わり映えない倉庫って酷くない? エアコンの一つぐらい付けてくれたって良いんじゃないかって思うんだけどー」

 

「難しい話、電気を引くと足が付く恐れがある」

 

「むー! ……だったらこう、ヒエッヒエな魔法を使える魔法少女とかさ! 仲間に出来ないかなーって!」

 

「そう都合よくは見つからない、我慢すべき」

 

「そういってるけどさー、パニパニもそれ何やってんの?」

 

アイスの棒を振りかざし、彼女の手元を指摘する。

本人としては、自分の魔法の要である媒体の手入れをしていたつもりなのかもしれないが、手元に握られているのは空き缶と割りばしというよく分からない組み合わせだ。

 

「だいじょーぶ? 頭冷やしとく? アイスならあるけど」

 

「不覚……遠慮しておく、それに必要なのは私より彼女」

 

「あー……そりゃそうか」

 

すると、丁度良く思い鉄扉を押し開ける音が倉庫内に木霊する。

開けた扉から容赦なく差し込む日光を背に、庫内に入って来たのは予想通りの人物だ。

雪のように白い肌をたなびく黒マントで隠し、燃えるような青い光を瞳に宿した魔法少女。

 

その名は魔女トワイライト……彼女の頬は痛々しいほどに赤く腫れ、口の端からは血が滲んでいた。

 

「うっわキッツ、大丈夫トワっち? アイスならあるけど冷やす?」

 

「――――いらない、私の不手際。 正当な罰」

 

「あー……そういうの、まあ本人が良いなら良いけどさ。 なんかあったらアタシらに言いなよ、そしたらあのクズすぐにぺちゃんこに……」

 

「―――――やめて」

 

背筋が凍るような声で私の発言を遮り、トワっちがナイフを引き抜く。

脅しではないだろう、もし私がこのままかまわず喋り続ければ、私の首元を狙ってあのナイフが飛んでくる。

熱気が籠る倉庫内の気温が3度は下がった様な気がした、傍らのパニパニもトワっちに対して臨戦態勢を取っている。

 

「……はぁー、分かった分かったごめんごめん。 あたしら仲間じゃん? やめよーよ同士討ちとかさー」

 

「――――――冗談としても、笑えない。 二度とやめて――――」

 

両手を上げて降参の構えを見せると、トワっちもゆっくりとナイフを納める。

公式の魔法少女ならともかく私達が争う旨味は一切ない、彼女の境遇には不満があるが、こうも拒絶されては口の出しようがない。

 

「うん、でも今日は休んでなって。 足もフラフラじゃーん、そんなんじゃまともに戦えないっしょ」

 

「―――――問題ない」

 

「問題ありよりのありっしょ、ホラホラいいから今日は帰……んなくてもいいけど、ちゃんと休んどきな」

 

「――――――――……」

 

トワっちは珍しく文句ありげに表情を歪ませるが、それ以上は何も言わず踵を返して倉庫を後にした。

ふらふらとした足取りは危なっかしい、先に聞いていた魔法少女との戦闘で負ったダメージが問題ではないだろう。

 

「尖ったナイフみたいなトワっちに一番ダメージ与えてんのが実の父親ってねー、救えないよねぇパニパニ?」

 

「……今話しかけないでほしい、寿命が3年ぐらい縮んだ」

 

やるせなさを隣のパニパニにぶつけてみるがこちらはこちらで冷や汗を拭ってへたり込んでいる。

パニパニも前回の陽動でかなり()()を消耗している、もしトワっちと戦う事にでもなればと気が気じゃなかったのだろう。

私もトワっちと戦うのはごめんだ、負ける気はないが勝てるかと聞かれれば自信がない。 どちらが勝つにしても互いの被害は大きなものとなるだろう。

 

「内輪揉めするために魔女になったわけじゃないしねー。 それとパニパニ、これ知ってる?」

 

「……? なに、それ?」

 

「ふっへへ、ここに来る途中で見つけちゃったんだよねー?」

 

ポケットから取り出したチラシをひらひら振ってみるが、パニパニはまだ知らなかったようだ。

私もついさっき知ったばかりだ、まさかまぁ魔女のいる間にこんな楽しい催しを開くだなんて誘っているとしか思えない。

 

「夏祭り、だってさぁ? これ滅茶苦茶にしたらさぁ、きっと困るよねぇ魔法少女」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「死ぬかと思ったっす……」

 

「こんな所で死なないでくれ……」

 

腹にデカいガーゼを張り付け、点滴台に繋がれた花子ちゃんが弱々しい声でつぶやく。

先生が急いで駆け付けて処置してくれたが鬼のような形相だった、まさかこんなことで死にかけるとは思わなかっただろう。

 

「ぎゃらくしぃ……まだまだ、キバって……」

 

「こっちもこっちでまったくもう、今度から水分はちゃんととっておけよ」

 

そして花子ちゃんが寝る横にはギャラクシオンのベッドが移動されて隣接している。

この方がお互い監視しやすいだろうという担当医からの判断だ、次に同じような事が起きてもこれならすぐに気づけるだろうしベッドから落ちるリスクも減った。

 

「面目ねえっす……にしてもやっぱり治らないっすねこの傷」

 

「ああ、先生が言うには縫っても効果は薄いって話だしな。 やっぱり魔法でつけられた傷か……」

 

花子ちゃんが服の上から傷のある位置を擦る、痛むのだろうか。

シルヴァの治癒魔法があれば外見上は塞がるがやはり尻餅をつく程度の衝撃で再度開いてしまう。

この危うさでは退院はまだまだ先だ、それに……

 

「……これじゃあお祭りもまだ難しいよな」

 

「えっ、何か言ったっすか?」

 

「あっ、いやなんでもない」

 

今の花子ちゃんにお祭りの話をするのは少し無神経か。

今の状態じゃとてもじゃないが歯がゆい思いをするだけだ、それに魔女が絡むかもしれないと言えば無理に体を動かすかもしれない。

だとすれば黙っておくのが無難だろう……と、口にきつめのチャックを閉めた時、廊下の方からどたどたと駆け寄る足音が聞こえて来た。

 

「ヤッホー、お見舞いに来たヨ! あっ、ブルームもいるネ! 今度の祭りについて何だけどサー!」

 

「こ、コルトちゃん……声大きい、ここ病院……」

 

「コルト……お前なぁ」

 

まあ、俺の余計な気遣いはその足音の主によって崩されてしまったわけだが。

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