俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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茹だるような暑い日の話 ⑧

「やぁ桜、そちらは今元気かい、ボクは君がいなくて寂しい毎日だよ。 君の放浪癖はいつものことさ、何も気にすることはない、けど戻ってくるのはいつぐらいに帰ってくるんだい? なぁに京都のことなら心配しないでくれたまえ君に鍛えられた子たちは柔じゃないああそれよりも元気がないようだけどそちらでは満足な衣食住はあるかい? ナマコは食べられるようになったかい? なに、お節介だって? はははこれは手厳しいねボクは君が心配なだけなんだぜそろそろ声の一つでも聞かせてくれても良いんじゃないk」

 

放っておけばいつでもしゃべり続けそうな通信を遮り、耐えかねたロウゼキさんが通信機のスイッチを叩いた。

その表情にはいつものような笑みはなく、ただただ能面の様な“無”が張り付いていた。

 

「……あの、ロウゼキs」

 

「気にしないで、ただの不審者やから」

 

「本部に連絡を取って不審者が受話するほうが問題では……?」

 

「…………まあ、そういう事もあるんよ」

 

傍受防止用の機器などが壁一面に取り付けられた通信室の中には重苦しい空気が流れている。

精密機器が置かれたこの部屋には冷房が強めに効いている、だからこの背筋の寒さも冷房のせいだろう。

 

「はぁー……ごめんなぁ、折角通信室貸してもらったのに。 またあとで掛け直すわ」

 

「いえ、お気になさらず……その、京都も色々と大変ですね」

 

「そう言ってもらえると助かるわ……」

 

額を抑えてため息を零すロウゼキさん、あれだけの会話でここまで深いダメージを刻むとは、電話向こうの相手は一体何者なんだろうか。

 

「……せや、局長さんはどこにおるん? 帰る前にちと話したい事があるんやけど」

 

「局長ですか? それなら今は資料室にいるかと……大事な話なら縁さんに通した方が早いと思われますよ?」

 

「ええのええの、資料室やな? ほんなら寄って行くわ、場所はどこなん?」

 

「案内しますよ、途中通れない道も多いですからね」

 

魔法局の中は案外複雑だ、おまけに今は崩壊して通れない通路も多い。

勝手を知らないロウゼキさんが資料室にたどり着くのは困難だろう、到着する前に局長が移動してしまう可能性が高い。

 

「そりゃおおきに、けど独りでうちの相手なんてしててええの? お二人はどこか行ってもうたけど」

 

「良いんですよ、最近あの二人は私に何か隠し事をしているようですし、もう知りません」

 

「あらあら、仲良うせんとあかんよ、せっかくのお祭りも待っとるしなぁ」

 

「……そうですね」

 

作戦室での話を思い出す。

夏祭りの決行は明後日だ、魔法少女のイメージアップとして、私たちも途中から変身状態で顔を見せる段取りになっている。

愛想……愛想か、私はちゃんと愛想を振りまけるだろうか。

 

「なんや小難しいこと考えてる顔してるなぁ、もっと気軽に楽しんでもええんやない?」

 

「いえ、魔法少女の印象を回復させるためにも努力は必要かと思うと……」

 

「素材の味を活かしてええよ、世の中には蔑まれて喜ぶ大人も多いやさかい」

 

「それは色々とダメな大人では……?」

 

「ふふふ、それでも好いてくれるならええことよ……あら、あれが資料室なん?」

 

ロウゼキさんが指し示した先には資料室と書かれたプレートを貼り付けた大仰な扉が見える。

この魔法局で扱う低~中程度の情報を収めた部屋だ、魔法少女の個人情報など重要機密はまた別で保管されている。

局長は確かこの部屋で資料の整理をいしていると言っていた、今の時間ならまだいるはずだろう。

 

「しかし、局長に話とは一体何なんですか?」

 

「んー、内緒や内緒。 ここまで案内してもらったのにごめんな」

 

「いえ、お気になさらず。 それと、ナマコ食べられないんですか?」

 

「…………内緒や、内緒」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「…………一応傷は塞がってるが、無茶はするなよ。 どうせまだ傷口は緩いんだ」

 

「申し訳ないっす……」

 

ブルームさん達が去った後、頃合いを見てやって来た先生が傷口の様子を調べ、溜息を零す。

こうもパカパカ傷口が開くと、担当医としても気が気ではないだろう。 自分の落ち度もある分こちらも心が痛い。

 

「…………本当は縫ってしまえりゃいいんだがな、こうも開きやすいとそれも難しい」

 

「ううぅ、本当厄介な傷っす」

 

「……血も足りねえだろ、飯食っとけ。 そっちのお前もだ、夕方からは気温も落ち着くが水分はしっかりとれ」

 

「ぎ、ぎゃらくしぃ……」

 

そしてやせ我慢のせいで危うく熱中症になりかけたギャラクシオンもこっぴどく絞られ、今となっては大人しく先生の言う事を聞いている。

額に冷えピタを張られ、脇の下には保冷剤を挟み込んで厳重な看護体制だ。

 

「……暫くしたらまた様子見に来る、安静にしてろよ。 次に傷口開きやがったらもう知らん」

 

「重々気を付けるっす……」

 

最後に一言釘を刺し、先生が病室を後にする。

次に同じ事をやらかせば、ギャラクシオンより酷く絞られるのだろうか。

 

「はぁー……この傷がしっかり治ってくれればそれで良いんすけど」

 

「…………ふん、トワイライトに付けられた傷はそうそう癒えにゅ」

 

腹の傷を擦ってぼやくと、それに答えてギャラクシオンがぽつりと言葉を零した。

 

「ほう、何か知っているようっすね。 あの魔女の扱う魔法について」

 

「知っていてもしょうしょう(はにゃ)すとでも? 仲間(にゃかま)を売るほど安くはにゃいぞ」

 

「まあまあそう言わずに、プリン食べるっすか?」

 

「いらにゅ……」

 

とっておきのデザートを差し出すが、痺れる身体をもぞもぞと動かしてギャラクシオンが再度こちらに背を向ける。

だめだ、何か喋ってくれたと思ったらまた振出しに戻ってしまった。

 

「……夏祭(にゃつまつ)りか、ヴィーラたちにゃらにゃにかやるぞ……お前は、黙ってそこで指を咥えている事しかできにゃい」

 

「…………知ってるすよ、悔しいっすけど」

 

ベッドこそ前より近づいたが、その距離は以前よりも遠く感じられた。

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