俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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あとの祭り ②

「……ということが昨日あったっす」

 

「そ、そっか……大変だな……」

 

携帯の向こうからブルームさんの困惑した様子がありありと伝わって来る。

当たり前だろう、「調子はどうだ?」と聞いたつもりがまさかこんな話を聞かせられるなんて。

 

一晩過ぎた今でも頭にはカルテではたかれた痛みが残っているような気がする。

腹の傷を心配する割にこういう所は容赦がない、割り切りの良い医者だ。

 

「で、実際問題大丈夫なのか? ギャラクシオンはまだ隣にいるんだろ」

 

「自分ら停戦協定を組んだっすから、互いの領土に侵入したら即ナースコールから怒りのカルテが飛んでくるっす」

 

昨日の諍いから互いのベッドは少し距離が空き、その間には赤いテープで線引きされた“目印”がある。

昨日のようにこのラインを超え、私のベッドで何かしようものなら容赦なくその頭部に分厚いカルテが振り下ろされることだろう。

 

「そっか……まあ、先生には迷惑を掛けないようにな?」

 

「肝に銘じておくっす、そちらもお祭り楽しんできてください……はぁ」

 

一先ずの通話を終え、喉につっかえていた緊張を溜息にして吐き出す。

ブルームさんは自分の事を翌期に掛けてくれる、そんなこうして余計な心労を掛けてしまうのは大変申し訳なく思う。

 

「……それもこれも、あんたが悪いっすよギャラクシオン」

 

「…………悪くないもん」

 

テープで敷かれた国境の向こうでは、広げたシーツで扇風機の風を集めて涼を取っているギャラクシオンがふくれっ面を見せる。

扇風機の配置はギャラクシオンが居座るベッドの向こうだ、こうして独占されるとこっちは碌に涼しくない。

 

「ちょっと、独り占めは無しっすよ! 大体なんすかその態度、昨日の件といい言いたいことは山ほど」

 

「あーあーあー! ワレワレハウチュウジンダー!!」

 

「扇風機に向かって叫んで誤魔化すなっす! 良いんすかァ、こちとらビリリとやればそんなオンボロ扇風機いつでも止められるっすよ!?」

 

「…………止められちゃ困るわけだが」

 

「あひっ」

 

反射的に頭を庇い、振り返る。

いつの間にそこに立っていたのか、そこには少し疲労の色が見える先生がカルテ片手に立っていた。

 

「ご、ごめんなさいっす……」

 

「ふん…………悪かったな、配置に気が回らなかった」

 

そういうと先生は片手で扇風機の首根っこを掴み、コードが届くギリギリ、赤いテープのちょうど境目に扇風機を設置した。

これなら扇風機が首を振れば風は2人平等に届く。

 

「ぎゃらくしぃ……」

 

「へへ、、ザマァみろっす……あいたっ」

 

「くだらないことで喧嘩はするなよ、どの道“これ”は没収してんだからお前たちが争う意味がねえ」

 

先生がポケットから取り出したのは私のペンダント……もとい、変身錠剤が詰まった小瓶だ。

昨日の騒ぎを聞き質されたあと、争いの火種となった錠剤は一粒残らず没収されてしまった。

服の端々に隠していたものもすべてだ、これでは私達はただの少女同然だ。

 

「わかってるっすよぉ……自分だって傷を開きたいわけじゃないっすから」

 

「……なら大人しくしてろよ、いい加減にしないと次は角で殴る」

 

「「ひぇぇ……」」

 

威嚇するかのようにカルテの角を振り上げる姿に、思わず二人揃って声が漏れた。

その姿を確認して満足したのか、すぐに先生は部屋を後にする。

 

「はぁー……しくったっす、どうしてこうなったんすか」

 

「…………ふん」

 

ベッドにうつぶせに倒れた私を横目に、露骨に不機嫌そうなギャラクシオンがスリッパを履いて部屋の扉へ向かい歩き出す。

その歩みはやや緩慢なものの、転んだりふらついたりといった危うさは感じさせない。

やはり、昨日までの痺れは自分を欺くための演技だったのか。

 

「ちょっと、どこ行く気っすか」

 

「ト・イ・レ!」

 

「ああ、そう……って、逃げる気じゃないっすよね?」

 

「……どうせ、すぐ魔法局に見つかる。 それに……カルテが怖い……」

 

「ああ、そう……」

 

どうやら互いにあのカルテの一撃は深いトラウマとして刻まれたらしい。

どの道今のままでは彼女は逃げられないだろう……逃げ帰った先、彼女を待つのは今までと変わらない日常なのだから。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ブルーム、なんの電話だったのカナ?」

 

「いや、花子ちゃんの調子どうかなって思ったら……向こうもなかなか大変だったらしい」

 

「ふーん、まあこっちも面倒っぷりじゃ負けてないけどネー」

 

「ちょっと、遊んでないで手伝ってくださいよゴルドロス。 魔法少女に暇はないんですよ」

 

石段の上からラピリスの声が飛んでくる。

見上げれば鳥居の下で資材を担ぎ、こちらを睨みつけるラピリスの姿が見えた

日輪をバッグに仁王立ちするその姿は実に様になる、作業中に駄弁っていたこちらに非はあるし思わず姿勢を正してしまった。

 

「あいあいさー、全く魔法少女使いが荒いよネー」

 

「口より先に手を動かす、ブルームもいるなら手伝ってください。 魔法少女のイメージ回復作戦なんですから、あなたも手伝わないと他の魔女と同格に見られてしまいますよ」

 

「へぇ、俺が手伝ってもいいのか? てっきり野良が手を出すなと怒られるかと思ったんだが」

 

「ふん……敵対している状況なら切り捨てるのもやぶさかではありませんが、今はそんな状況ではありませんから」

 

「そりゃ助かるね、それじゃその分はしっかりと働いて……うっ」

 

「……? ブルーム、どうかしたカナ?」

 

「いや、何か耳鳴りがキーンって……聞こえなかったか?」

 

石段を駆けあがろうとしたその時、一瞬だが酷く耳障りな音が聞こえたような気がした。

隣にいたゴルドロスに同意を求めるが、きょとんとした顔をしている。

 

「いや、何も? 大丈夫かヨ、ブルームー、年なんじゃないのカナー?」

 

「なんだとぉ……ふん、いいから行くぞ!」

 

「あーもー待った待った、いじけないでヨー!」

 

ゴルドロスを置き、耳鳴りのことなど忘れて足早に階段を駆け上がる。

 

……思えば、このときに俺はもっと注意を払っておくべきだったんだ。

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