俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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なぜ彼女は一人泣いていたのか ③

「……アオは大丈夫かな」

 

《大丈夫そうですよね、晩御飯を食べたら殆どいつもの調子に戻っていたじゃないですか》

 

夕飯も終え、自室の戻って一番に吐き出した独り言にハクが応える。

確かにアオの落ち込みようは大分軽減されたように見えた、母親は強しというかなんというか……

 

「優子さんには敵わないなあ、俺にはあんな真似無理だわ」

 

《あの人以外全員無理でしょうよ、心臓に毛ぇフッサフサですよきっと》

 

「ははは、違いねえ」

 

充電コードをつないだスマホと駄弁りながら、明日の祭りに向けた仕込みを続ける。

机の引き出しにしまったカラス羽を数枚取り出し、消費した分を服の端や小物に仕込んで補充する。

暑い日が続いているせいか、街中で拾える羽の本数も減ってきたような気がする。 羽箒はかなり便利だから常に一定量を確保しておきたいが悩みどころだ。

 

「それと……これなぁ、どうする?」

 

《どうするってまあ、着るしかないんじゃないですかね!》

 

ベッド下の紙袋から取り出したのは、以前にコルトから押し付けられた着物一式だ。

最初は捨ててしまおうかと思ったが値段を聞いたせいでそれも躊躇ってしまう。 コルトの奴め、税金で支払われた給料をこんな所で消費して良いのか?

 

《ちなみに私服モードと同じく、私が中身をラーニングしているので着付けを覚える必要はないですよ。 ポンっと一発でお着替え完了です》

 

「嬉しそうだなコンチクショウ……そもそもだ、祭りだからって無理に着替える必要は無いはずだろ。 はい決まった、この話終わり! いつもの格好で行くぞ!」

 

《でも葵ちゃんたちも着物着てくるって言ってましたよねー、マスターだけいつもの服装だと逆に浮きますよ?》

 

「………………」

 

《お祭りですし、服装も場の雰囲気に合わせた方が自然だと思いますけどねー? もしかしたらマスターのせいで敵の魔女ちゃん達に勘付かれたりとか》

 

「ああもうわかったよ! お前が楽しみたいだけだろどうせ、良いよ着るよ!!」

 

《あはは、それが一番ですよマスター》

 

机の上で愉快犯が笑う。 

毎度のことだがこいつは俺のことをおもちゃか何かと思っていないだろうか。

 

《まあ変身してしまえばいつもの格好に戻りますから、どうせすぐ着替えることになりますよ》

 

「なるべく早く着替えてしまいたいな……はぁ、明日か」

 

スマートフォンに表示された時刻は23時を半ば過ぎようかという頃合いだ。

明日の今頃にはとうに祭りが終わり、余韻もそこそこに疲れた体をベッドに投げ出している……できればそれが理想だ。

 

「……ハク、お前はどう思う?」

 

《主語が抜けてますね、例の巫女ちゃんのことですか?》

 

「ああ、お前から見てあの子は魔女になり得そうか?」

 

《ないと思いますね、彼女はその辺の分別はしっかり付けられる子だと感じました。 そういうマスターは?》

 

「ああ、その言葉で安心した。 俺も同意見だよ」

 

ただ、彼女は分別というよりも親から受けた過剰な教育によってその手の悪事に強い忌避感を持っているように感じた。

魔女になる薬なんて言語道断だ、それでも一抹の不安を覚えたからこそハクに確認を取ったわけだが。

 

《つまり警戒すべきは内より外、それもこれだけ警戒を敷けばヴィーラちゃん達も簡単に侵入できっこないです! ……ない、と良いんですけどねぇ》

 

「まあ安心しきれないからこうして準備している訳だしな」

 

明日のための仕込みを終え、軽く体をほぐしてからベッドに腰かける。

さて祭りに備えて早めに寝ようか、という時に枕元に置いたスマートフォンが着信に震える。

ハクの姿を押しのけ、画面に現れたのはコルトの電話番号だ。

 

「はい、もしもし。 どうした、問題か?」

 

『ハロハロー、イヤー用事って程じゃないんだけどネ。 今ちょっと良いカナ?』

 

「構わないけど、何かあったのか?」

 

すぐに電話を取って聞こえて来たのはいつもの調子のコルトの声だ、その声色からして非常事態という訳ではないらしいが、こんな時間に何の用だろうか。

 

『祭りの帰りにちょっといつもの病院に寄ったらサ、ギャラクシオンの様子がおかしかったらしくてネ』

 

「……詳しく聞かせてくれ」

 

『とはいっても大したことじゃないヨ? なんだかネー、トイレから戻って来たと思ったらベッドに戻ってシーツ被ってずっとダンマリなんだよネ。 ご飯もろくに食べてないらしいヨ』

 

「まあほぼ軟禁状態だからな……それだけか?」

 

『あとシーツに丸まった中からすすり泣くような声が聞こえたって話をハナコガールから聞いたヨ』

 

「……なるほど、分かった。 俺も気には掛けておくよ」

 

『あいあい、けど本題は祭りの方だからネ。 一応共有しといただけ、それじゃオヤスミー』

 

伝えたいことだけ伝えると、コルトの通話はあっさりと切れた。 忙しない奴だ。

まあ夜の遅い、長話で明日に支障が出るよりはずっとマシだ。 コルトもその辺りはわきまえているのだろう。

 

「ハク、目覚まし頼む」

 

《はいはい、とは言っても大体アラーム鳴る前に起きるじゃないですかー》

 

「念のためだよ念のため、それじゃおやすみ」

 

《心配性ですね全くもー、おやすみなさい》

 

ハクにタイマーのセットを頼み、部屋の電気を消す。

しかし……バネが軋むベッドに身体を寝かせるが、どうも寝つきが悪い。 今日は色々あって疲れているはずだが、どうも頭が冴えている。

 

《……ねえマスター、まだ起きてます?》

 

「ん? 起きてるが何だ」

 

《マスターって、どう思っているんですか。 母親の事》

 

「……主語が無いな」

 

《どちらもですよ》

 

何とも大事な部分の言葉が欠けている会話だ、だがハクの言いたい事は分かる。

輝鏡ちゃんの母親と……俺の母さんについての話だろう。

 

「……俺は今回口を出す権利は持ってないよ、自分の親から逃げた人間だ」

 

顔に走る火傷の後を擦る。 痛々しい過去の傷、これは俺が背負う罪だ。

母親から逃げ、家族から逃げ、挙句の果てに忘れてしまったからはいお終いだなんて言う人間が他人の家族関係に口を出せるはずもない。

 

「そういうお前はどうなんだよ、輝鏡ちゃんの事についてさ」

 

《私は……()()()も許せません、目の前にいたらグーが先に出ると思います!》

 

画面の中でへなちょこな拳を構え、憤りをぶつける様にシャドーボクシングを始めるハク。

虫も殺せないようなそのパンチに思わず笑ってしまうと、それに気付いたハクが頬を膨らませて抗議の視線を突き刺してくる。

 

「あはは、悪い悪い……でもありがとよ、お前は俺の代わりに怒ってくれんだな」

 

《……ふーんだ、知りません。 馬鹿なマスターのことなんてもう起こしてあげませんからねーだ!》

 

言うだけ言うとスマートフォンの画面は暗転し、それからうんともすんとも言わなくなる。

怒らせてしまったか、これは明日の目覚ましは期待できないな。

 

自力で起きるしかないが、それでも何だか今日はスッキリ眠れる気がする。

輝鏡ちゃんのことも、コルトの話も一旦頭の隅に置き、俺はゆっくりと瞼を閉じた。

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