俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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祭りの場所はここか ⑤

「……不思議なものね」

 

「ん?」

 

コルトとアオの勝負を後ろから眺めていると、唐突に縁さんが呟く。

色とりどりの輪投げを構え、競い合う二人の姿は五分五分だ。 そんな姿をほほえましく眺めている最中だった。

 

「本当は敵対する同士なのに、こんなに仲睦まじくお祭り騒ぎなんて、はじめはちょっと自分の目を疑っちゃったわ」

 

「……まあ、自分からすりゃ敵対する理由がないからな。 魔法局(そちら)からすりゃ気が気でないんだろうけど」

 

「そうね、正直目の上のたんこぶみたいなものだったわ。 それなのに魔女騒動でこんなに手のひらを返しちゃってごめんなさいね?」

 

「ははは、別に気にしてないすよ」

 

そもそも俺の存在がイレギュラーすぎるのだ、野良の魔法少女なんてものは皆何かしら脛に傷を持つ者。

本来ならこうして、魔法局と協力関係にあること自体がありえない。

 

「……ねえ、箒ちゃん? よかったらでいいんだけどそのぅ」

 

「あっ、スカウトならお断りです」

 

「ふえぇ……今なら洗剤とタオルもセットで……」

 

「庶民的だなぁ釣り餌が」

 

どこから取り出したのか、その両手には店でも良く使う食器用洗剤と白いタオルのセットが握られていた。

露骨に落胆する縁さん、しかしこちらも魔法局には加入しないと初めから決めていたことだ。

確かにこれから先もアオたちとぶつかるリスクがあるが、俺の正体がばれるリスクを考えると釣り合わない。

 

所属した際には個人情報を一切隠したままというのも難しい話だろう、化けの皮が剥がされてしまえばきっとハクも取り上げられる。 

俺がこの先戦い続けるのは不可能だ、どの道魔法局に捕まるのはブルームスターにとって詰みに等しい。

 

「……けど箒ちゃん、あなたは興味深い距離の詰め方をするのね。 まるでずっと前から知っていた知り合いみたいな感覚だわ」

 

「き、気のせいじゃないっすかねー? 自分コミュ力だけは高いんで……」

 

「うーん、でも合宿の時は……」

 

「そこの2人ー! 勝負の判定頼むヨ、成功数なら私の方が上なのにサムライガールがごねるんだヨ!」

 

「何言っているんですか、総合点なら私の方が上ですよ! ほら見てください!」

 

「はいはい、もー喧嘩しないの。 仲間同士で争うなんて醜いだけよ?」

 

「「ぐぬぬぬぬ……」」

 

コルトたちによって逸れた話題にほっと胸を撫で下ろす。

危なかった、あのまま縁さんに訝しまれていたらボロが出たかもしれない。

忘れがちだがあの人は魔力学の権威、心理学にも精通している才女だ。 アオたちとの距離間で怪しまれるのは想定外だ。

 

「……盟友、汗、すごいよ……?」

 

「うん、大丈夫。 ただの冷や汗だ」

 

合宿の時は結局そこまで接触する機会がなかったが、今回はもしかすると今までで一番、縁さんとの距離が近いかもしれない。

午後はもっと気を引き締めて行かねば、どこから気づかれるかわかった物じゃない。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

祭囃子の音色が聞こえる。

ふすまの向こうから聞こえてくるのは大人も子供も関係なく、賑わう声だ。 いかにも平和に祭りを楽しむその姿は少しばかり微笑ましく思うが、それ以上に妬ましい。

 

何故自分たちはこんなところに居るのだろう、何故普通の子供のような娯楽を享受できないのだろう、ふつふつと胸にこみ上げてくるのは不条理に対する怒りだ。

 

「……だが、それももうじき終わりだね」

 

せいぜい束の間の平穏を楽しむといい、その方がこちらも壊しがいがある。

手のひらの錠剤を転がし、弄び、ふっと笑みが溢れる。

さて、これから先に起きる惨状を見れば、あの人はどんな顔をするのだろうか。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……ウゥン?」

 

「ゴルドロス、どうしました?」

 

「いや、なんか嫌な予感がビビっと来たんだヨ。 私の勘は当たるからネ」

 

「さいですか、その予感というのは目の前の“これ”ではないですかね」

 

重い気持ちを引きずり、視線を前方に戻す。

待っているのは多くの歓声と私達3人を取り囲む人、人、人。 予定通りのイベントだが、予想以上の賑わいだ。

 

「ラピリスちゃーん! こっちみてー!」

 

「シルヴァさまー! サインくださーい!!」

 

「ゴルドロスー!! バーンしてー!」

 

「ハイハーイ、いっくヨー! バァーン!」

 

「ヴッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ハートマークのうちわを構えた男性に向け、ゴルドロスが指で作った銃を打つそぶりを見せると、ノリのいい男性が心臓を抑えて倒れたふりをする。

……いや、本当に興奮して倒れたのか。 すぐさまサングラスをかけたスタッフが駆け寄り、男性の身体を担架に乗せて運んで行った。

 

「駄目だヨー、二人とも。 ちゃんとファンサふりまかないとランキングに響くヨ?」

 

「知りませんよ、なんのランキングですか。 というよりブルームスターはどこに行ったんですか!」

 

「わわわわ我もこのようなサバトは初めてでどうすればよいのか……!」

 

緊張して固まってしまったシルヴァと、ノリノリで魔法少女衣装を翻しながらポージングを決めるゴルドロス。

私一人では収拾がつかない、こんなときにブルームスターはどこで油を売っているのやら。 一人だけ逃げるとはなんと卑怯な。

 

「ラピリスちゃん、しゃしんとってくれますか!」

 

「え? あ、写真ですか。 別に構いませんが……」

 

頭痛を感じる頭を抱えていると、少女が一人、人ごみをかき分けて話しかけて来た。

まだ5歳ぐらいだろうか。 目をキラキラと輝かせ、その手にはよく見るインスタントカメラも握られている。 

すると、すぐに彼女を追いかけてきた両親らしい2人組が人ごみをかき分けやって来た。

 

「す、すみません! こら、魔法少女の邪魔しちゃ駄目じゃないか!」

 

「いえ、構いませんよ。 1枚で良いですか?」

 

「うん!!」

 

満面の笑みを浮かべる少女と共に、渡されたインスタントカメラでツーショットを取る。

……大丈夫だろうか。 私はちゃんと笑えていただろうか。

 

「はい、あとはお店の人に頼んで現像してくださいね」

 

「ありがとー! あのね、いっつもおうえんしてます! まちをね、まもってくれてありがとー!」

 

「はい、応援ありがとうございます。 その子も悪気が無いので、あまり怒らないでくださいね?」

 

ペコペコと頭を下げる両親に抱えられ、少女が人ごみの外へ連れていかれる。

なんとも微笑ましいものだ、萎えかけていたやる気がみるみる復活してくる。 愛想を振りまくのは苦手だが、これならもう少し頑張ってみよう。

 

「あーあ、やっちゃったネーサムライガール」

 

「む、何がですか。 ファンサービスをしろと言ったのはあなたでしょう」

 

「そうだけどネ、限度があるカナ。 ほら見てみなヨ」

 

やれやれといった表情でゴルドロスが人ごみに指を指す。

そこにはものの数秒で整列を終え、先ほどの幼女に負けずとも劣らぬほどに目を輝かせた老若男女が並んでいた。

……そして、各々の手にはスマホから一眼レフまで幅広いカメラが握られている。

 

「…………ゴルドロス、代わりません?」

 

「無理だネ、ありゃ全員サムライガールのファンだヨ。 私じゃちょっと掻っ攫えないカナー?」

 

「………………」

 

みなぎっていたやる気が再度萎えかける。

私の表情筋は今日、千切れて砕けてしまうのではないだろうか。

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