俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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祭りの場所はここか ⑥

《あーららー、皆囲まれちゃってますよマスター?》

 

「あっはっは、気の毒だが公式の魔法少女は大変だねぇ?」

 

羽箒の上から見下ろした舞台の上では、魔法少女3人組が人ごみに囲まれててんやわんやになっている。

ゴルドロスはまだ慣れた調子で捌いてはいるが、残り二人は悲惨なもんだ。

特に不用意なファンサービスを見せてしまったラピリスの前にはカメラマンたちが長蛇の列を作っている、あれはしばらく解放されないだろう。 いや本当に一足先に逃げて良かった。

 

《でも良いんですかマスター、魔法少女イメージアップキャンペーンなんですよ?》

 

「だったらなおさら野良混ざる方が印象悪いだろ。 ……ん?」

 

《どうかしました?》

 

「いや、なんだか今声が……あっ、通信機か」

 

マフラーの奥からくぐもった音声を発し続ける通信機を取り出し、襟に刺し直す。

通信機から聞こえる来る声は確か局長さんだったか。

 

『あーあーもしもし、聞こえているかねブルームクン?』

 

「はいはい聞こえてますよ、局長さん。 ごめん、もしかしてずっと喋ってた?」

 

『いや、そういう訳ではないがね。 悪いけど君もこっちに降りてくれないかねぇ……』

 

「いやー、そうしたいんだけどさ。 俺もこういうのは苦手だから」

 

『降りてこないとそろそろ撃ち(斬り)墜とすとラピリスクンとゴルドロスクンが脅迫しているのだが』

 

「何考えてんだあの二人!!」

 

あの2人なら十分やりかねない、この距離ならどちらも十分射程内だ。

あわてて箒の高度を落とし、観客を挟んでラピリス達が登る壇上の向かいに降り立つ。

 

「あっ、やっと降りてきたヨ。 ロケランの出番はないカナ」

 

「こちらも刀を抜かずに済みそうです」

 

「魔法を変な所で無駄遣いするんじゃない!!」

 

「済まぬ、我は止めたのだ……!」

 

舞台の上では半べそを掻いたシルヴァがゴルドロスの脚に縋りついてロケットランチャーの発射を止めていた。

もう少し降りるのが遅れていたらきっとあの引鉄は引かれていたのだろう、シルヴァの努力を誰が責められるだろうか。

 

「いや、よく止めてくれたよシルヴァ……おいゴルドロス、一般人もいるのにそんなもん振り回すなよ!」

 

「あはは、本気でぶっ放す気は3割ぐらいしかなかったヨ」

 

「懸念材料としちゃ十分すぎるわ!!」

 

「それよりサー、もたもたしてると囲まれちゃうヨ?」

 

「……へっ?」

 

ゴルドロスに警告され、改めて周囲を見渡すと俺の周りには人、人、人。

いつのまにか先ほどまでラピリス達3人に向けられていた意識が、全て自分の方へと向けられていた。

 

「……ブルームだ! 本物のブルームスターだぁ!」

 

「可愛い……ちっちゃ、ほっそ、箒でっか!」

 

「ほうきがもふもふだー!」

 

「ン我が魔法少女……本日も麗しい……」

 

「握手、握手してください!」

 

「えっえっえっ?」

 

《あらー、大人気ですねマスター?》

 

そして席を切ったように溢れ出す黄色い歓声と伸ばされる腕、点滅するフラッシュとシャッター音。

真正面から当てられる大人数にエネルギーに思わず面食らって硬直してしまったが最期、なすすべもなく俺は人の波に飲み込まれた。

 

「もぎゃー!? ちょ、ま……あっ、マフラー引っ張るなって!? ちょ、おま服を……服を剥く気かぁ!?」

 

「あーあ、だから言ったのにネ」

 

「わざわざ警備員のいない反対方向に降りましたからね」

 

「あわわわわ、盟友がもみくちゃに……」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「酷い目にあった!!」

 

「お疲れ様です、しかしまだまだイベントは続きますよ」

 

「まだ!? 一生分触れあったぞ俺!!」

 

なんとか人ごみをかき分け、壇上にいるラピリス達に引っ張り上げられて俺はその宣告に絶望した。

後ろを振り返れば未だこちらに声援を送る老若男女、さっきのように押し寄せてこない分まだマシか。

 

「なにせ謎の大人気野良魔法少女と魔法局夢のコラボだからネ、県外から駆け付けたって人もいるくらいだヨ」

 

「ヒーローショーか何かと勘違いしてんじゃ……いや、似たようなもんか」

 

俺とゴルドロスのやり取りに、観客から笑いの声が零れる。

気分としてはデパートの屋上で見るようなヒーローショーそのものだろう、ただし役者が全員本物という豪華仕様だ。 一人は非公式だが。

 

「シルヴァも今回のようなイベントは初めてですよね、この後の流れは分かりますか?」

 

「「全然」」

 

「流石元野良コンビ、息はバッチリだネ。 この後はお客さんの方から飛んでくる質問に答えるコーナーだヨ」

 

「質問? いうて俺たちに何の質問が……」

 

あるのか、という言葉を遮って観客の中からビッと上げられた腕が並ぶ。

……俺が分からないだけで魔法少女に聞きたい事は山ほどあるようだ。

 

「ブルームに質問できる数少ないチャンスですからね、では手前のお面を付けた男の子からどうぞ」

 

「なんでブルームさんはまほーきょくに入らないんですかー!」

 

「おおっと直球なのが来たネ」

 

「秘密で」

 

「そして盟友の返しも端的だな……」

 

悪いがそれしか返す言葉が無い。 まさかこの場で明かすことなんてできない秘密だ。

折角質問してくれた少年には悪いが、なんとか誤魔化そうとしたら少年の瞳にウルウルと涙が溜まって待った待った待った。

 

「い、良いか少年! 魔法少女にはな、決して人に語れない秘密が1つや2つあるもんだ! その方がカッコいいだろう!?」

 

「わぁー……うん!!」

 

慌てて補足した内容はどうやら彼の男の子心にドストライクだったようで、一転して瞳を輝かせて納得してくれた。

それはそうと、後ろで盛大に噴き出して笑っているゴルドロスには後で舞台裏に来てもらって話し合いの必要があるな。

 

「はーい! シルヴァちゃんに質問です、その本は杖なんですかー?」

 

「ふぇ、我!? え、えーとこの本はそのぅ……」

 

「シルヴァ、気張るぞ。 多分俺たちに集中して質問が飛んでくるはずだ」

 

「そ、そうだな盟友……我頑張る……!」

 

シルヴァがグッとガッツポーズを取り、気合いを入れ直すと、心臓を抑えて失神する男性客が数名担架で運ばれた。

色々な意味で大丈夫だろうか、このふれあいイベント。

 

「ちなみにこのイベントが終わったら本堂の方で神楽の披露式と、夜になったら打ち上げ花火もあるヨー、皆それまで帰らないでネー!」

 

「それと、テレビ局の取材も来ているのでくれぐれも変な真似はしないでくださいね。 特にゴルドロス」

 

「おっ??? なんで私だけ厳重注意なのカナ????」

 

2人のコントに再度観客からドっと笑いの波が起きる。

……通信機の向こうで、一緒になって笑っている局長さんが後々銃殺死体で見つからない事を祈ろう。

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