俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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マジックタイム・ショータイム ③

「……アオになんて言うべきかな」

 

《後で謝るしかないですねー》

 

これで人生何度目の生身フライトだろうか、オレンジ色の陽ざしはそろそろ闇に染まり始める。

地表は遥か下、もし目の前の少女が気紛れにこの空飛ぶ魔法を解けば助かる高さではない。

 

「なぁ、ダークネス……長いな、シルヴァで良いか?」

 

「ふふっ、通り名か……構わぬさ、我構わぬ」

 

「じゃあシルヴァ、一体どこに向かっているんだ?」

 

「焦れるな我が弟子、究明はすぐそこに……ふむ、今宵の邂逅はやや早いな」

 

シルヴァが器用に飛んだまま、手元の本に素早く何かを書き出す。

書いた紙を破り、クシャクシャに丸めて放り投げると紙の周囲の空間の明度が下がり……ほんの一瞬だが何も無いはずの空間に何かが映し出された。

 

「ん……んんっ!?」

 

「ほう、あれが見えたか我が弟子。 あれこそがこの街に現れた新たな怪物(フリークス)よ、悍ましきその体は夕闇の中でしか目視が叶わぬ」

 

「透明の魔物……そんなの被害が広がり放題じゃねえか!」

 

一瞬だけ映し出されたのは半月に触手がくっついた、例えるならクラゲのようなシルエット。

透明で飛行する生物、そんなものが人を襲えば対処のしようも、下手をすれば逃げる暇さえも無い。

 

「あれは尖晶石(スピネ)が闘争の跡に遺した置き土産……巧妙に隠された魔石から生まれし忌子ぞ」

 

「スピネが? あんのやろ……!」

 

いや、気づかなかった俺の失態だ。 己の無能に腹が立つ。

狛犬を追いかける前に気付けていたのならこんな被害は出なかった。

 

「暗がりの中でならその姿を捉えられるとはいえそれでも薄っすらとしたものよ、諸人を呼べば余計に被害が広がる。 故に貴公にのみ声をかけたのだ、我が弟子よ」

 

「俺にだけ……?」

 

「うむ! 貴公はあの魔法局のものであろう? であらば何か奴の討伐出来る知恵もあろう!」

 

「……いや、俺は魔法局の人間じゃないけど」

 

「えっ」

 

……なにやら間抜けなすれ違いがあったらしい、あの職員たちの中から俺だけを連れてくるとはなんというかなんという感じの子だ。

仕方ないのでこちらの事情をかくかくしかじかで説明する、無論アオの存在は隠したうえで。

 

「……我そんな稀少場面(レアケース)知らぬもん!」

 

「ああうん……しゃーない、誰にだって間違いはあるさ」

 

そもそもあの場で意味深な行動をせずに協力を求めていれば……いや、俺があの時にしっかり説明していればよかったんだ、俺にも責任はある。

 

「ううぅぅうぅ……常人(ただびと)を巻き込んでしまった……弟子よゴメン……」

 

「いいさ、分かったら降ろしてくれないかな」

 

「うう、分かっ……」

 

シルヴァが本を開いた瞬間、その真後ろの空間が僅かに揺らめいた。

 

「――――シルヴァ、後ろだ!!」

 

俺が声をかけるよりも速く、シルヴァは身を沈ませて背後からの攻撃をかわす。

しかし右手に抱えた書物だけがわずかに逃げ遅れ、見えない触手に弾かれた。

 

その瞬間、この身を覆っていた浮力がプツリと途絶える。

 

「我が弟子!」

 

「構うな! お前は目の前の敵に集中しろ!」

 

重力に従い地表へと引き寄せられる体、伸ばされた腕を拒絶して急速に落下する。

落ちれば助からない高さ……しかしそれは常人の話。

 

「ハク、準備はいいか!?」

 

《ほい来た! いつでも良いですよ!》

 

≪Are You "LADY"!?≫

 

「―――――変身!!」

 

高らかな電子音と共に、黒炎を纏った身体が地面にたたきつけられた。

 

「っ――――スリルあるなぁ、魔法少女!」

 

《ええ、もう一回どうですか?》

 

「遠慮する!」

 

非魔力ダメージ耐性に助けられるのも何度目だろうか、辛うじて変身が間に合ったおかげで落下によるダメージは殆どない。

見上げた空には空を踊るように飛び回る魔法少女と、だんだんと夕闇にその輪郭を現すクラゲが浮かんでいた。

 

《あの高さじゃ手が出せません、この前みたいに羽箒でもあれば……》

 

「無いものねだりはしても仕方ない、代わりになるものを探すんだよ!」

 

カラスの羽でも落ちていたのなら都合が良かったがそうそう落ちているものじゃない。

辺りを見渡すとシルヴァが抱えていた本が落ちていた、そういえば一緒に弾かれて落ちたっけ……

 

《マスター、あの本見てください!》

 

「……あいつこんな物まで持ってたのか」

 

落下の衝撃で無造作に開かれた本。 そのそばには栞がわりに挟んでいたのだろうか、鳥の羽が一枚落ちていた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「もー、しつこいの我嫌い!!」

 

地上のブルームスターとは打って変わって、上空では激しい戦いが繰り広げられている。

夕闇の中におぼろげな輪郭が辛うじて見える触手を掻い潜るその顔には焦りが滲んでいた。

本を叩き落された程度で集中力を乱し、同行人に掛けていた()()を解いてしまった自分の失態が憎いのか。

早く助けに行かなければと少女は焦る、しかし見えない触手が行く手を阻む。

 

「……んむーっ!!」

 

憤りのまま片手に巻いた包帯の端を噛み、引っ張り出したその布地へ羽ペンで文字を綴る。

流れる様に美しく綴られた文字列は銀色の光を帯びる、それは魔力が放つ光。

 

彼女のペンで彩られた文字は魔術となって敵を撃つ、それこそがダークネスシルヴァリアⅲ世が魔法少女として持つ力。

包帯に綴られた文字も例に漏れず、その布地は銀鎖へと姿を変えて、襲い掛かる触手へと巻き付いた。

 

「―――綴るは銀、我が真名なり! 刻むは汝が闇を暴く光! 不浄なるものよ、運命(さだめ)の鎖に……ひょわわわわ!?」

 

巻きつけたまでは良い、ただ悲しきは膂力の差か。

触手に絡まっただけの鎖は逆に利用され、クラゲは鎖ごと少女の体を振り回す。

激しい回転に三半規管を揺さぶられ、鎖を握る手がわずかに緩んでいき……

 

「も、もうだめぇ……」

 

「――――よく耐えた、シルヴァ!」

 

鎖から完全に両手を離し、空中に放り投げられたシルヴァの体を回り込んで受け止める。

2人分の体重が掛かっても足に敷いた箒はびくともしない、頑丈な箒になってくれて助かった。

 

「う、うぅぅうぅ……ぶ、ブルームスター!?」

 

「……っと、そうだそうだ。 安心しな、落っこちた男はちゃんと安全な場所に避難させたぜ!」

 

シルヴァの驚いた顔にそういえばと変身しているという事を思い出す。

駄目だな、ついつい姿が違う事を忘れてしまう。

 

「そ、そうか! よかったぁ……はっ! い、いやよくぞ参ったほうき星の姫よ! 其方も政府の鎖に縛られぬものならば……」

 

「ああ分かってる、共闘だシルヴァ。 さっさと厄介なあいつを倒して……あれ?」

 

用心深く周囲を見渡す……既に空はだいぶ日が傾き、オレンジ色だった空の殆どは黒に塗り替わっている。

闇の中をどれ程見渡しても肝心なクラゲの姿が見当たらない。

 

《……多分逃げましたね、撤退の判断が速い。 おそらく手の内もまだ隠していますよ》

 

「賢いな、今までの奴とは別の意味で厄介だ」

 

「ふっ、臆病風に吹かれたか浮き海月め……」

 

追うのは危険か、視覚外からあの透けた体で奇襲されれば一網打尽だ。

……自分だけなら追う事も考えたが、彼女を連れて無理は出来ない。

 

「シルヴァ、一度退こう。 分が悪い」

 

「うぅ、歯痒いが致し方あるまい……助太刀感謝するぞ、ブルームスター」

 

彼女も渋々と言った顔だが一応納得はしたようだ、すると左手を手持ち無沙汰な様子で……ああそうだ。

 

「これ、シルヴァの本だろ? 落ちた衝撃で背表紙が傷んじまったけど……」

 

「……! おお、我が魔本(アルバテル)! まさか再び相まみえようとは……恩に着るぞブルームスター!」

 

抱き着くように受け取り、ページをぱらぱらめくって中身の無事を確認すると器用に空中で跳ねて喜ぶ。

しかし外装が痛むということはあの本は杖ではないというだろうか。

 

《恐らく本は彼女が自作で用意したものでしょうね、形から入るタイプと見ました》

 

「そうか、杖とは別に用意が必要とは少し面倒だな」

 

ならば杖はあの羽ペンか、今までを見るに文字を書くことで効力を発揮する魔法なのだろう。

文字を書く媒体として本を用意するのは理に適っている、ただあそこまで分厚いものよりノートやメモ帳でも良い気もするが。

 

《ところでマスター、もう一つ問題がある事に気づいていますか?》

 

「なんだ? まさかあのクラゲが何か……」

 

《いいえ、先ほどから葵ちゃんからの着信が止まりません。 早く出て安心させたほうが良いかと》

 

「…………あ゛っ」

 

しまった、完全に忘れていた。

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