俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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鏡映しの双竜 ⑤

「本当は顔を見せるつもりはなかったのだけど……まさかロウゼキが現れるなんて想定外だったから、ねえ?」

 

まるで世間話でもするかのように喪服の女性は語る。

薄いベールに隔てられた彼女の表情は読めないが、その声色には僅かな怯えも恐れも無い。

私達の前にいるロウゼキさんの名を知らないわけではないだろう、それでもなおこの不遜な態度は何か企みがあっての事か。

 

「……あなた、一体何者ですか?」

 

「あら、ただの通りすがりのお姉さんよ?」

 

「とぼけないでください、そしてその人を今すぐ解放しなさい。 さもなくば……」

 

「斬る、とでもいうのかしら?」

 

鯉口を鳴らして威嚇するが、相手はベールを揺らして薄く笑うばかりだ。

私やロウゼキさんでは威力が高すぎる、どちらもこの距離で人質を奪い返せるほど精密な動きが出来ない。

こちらから手出しが出来ない事を知っての余裕か、だとすれば余計に性格が悪い。

 

「でも、とぼけたのは謝ろうかしら。 私はローレル、あなたの予想通りただの美人なお姉さんではないわ」

 

「冗談きついわなぁおばはん、暑さで脳までやられたんか?」

 

「ふふふ、稀代の若作りから見れば誰も彼も年寄りに見えるのかしら?」

 

「「あっはっはっはっは」」

 

ローレルとロウゼキさんが互いに笑っていない笑みを浮かべる、互いに殺気がビンビンだ。

額に青筋を立てているロウゼキさんは特に今すぐにでも飛び掛かりそうな気迫を感じる、人質のお蔭で何とか堪えてはいるが。

 

「……あの、ロウゼキさん」

 

「分かってとるよ、いきなり襲い掛かったりせぇへん。 向こうもこうして姿晒しとるわけないしなぁ」

 

「あらあら、腹が立つほど察しが良いわね。 ただ利口で助かるわ」

 

ローレルが片手に持った輝鏡さんの母親をぷらぷらと乱暴に振り回す。

血色は良く、呼吸の気配は見受けられるから死んではいないだろう。 ただ気絶しているだけだ。

 

「この母親を生かすも殺すも私次第、そこから一歩でも動かない事をお勧めするわ。 その瞬間、この人は死んじゃうでしょうから」

 

「殺ってみいや、その瞬間あんたの頭が吹き飛ぶで」

 

「怖い怖い。 交換条件と行きましょう、クーロンの持つ小瓶を渡しなさい」

 

「……そういう事ですか」

 

小瓶、というのは魔女化の錠剤が詰まっているあの小瓶だろう。

戦闘中に隠すような余裕はなかった、錠剤は今もクーロンが持っているはず。

ただ、ここでその交換条件を出してくるという事は彼女が使っていた錠剤は普通のものと違うのか?

 

「……お前か、京都に保管してあった9人の杖を盗んだんは」

 

「へぇ、そこまで発想が回るのね。 そうよ、一番どうしようもない奴が東京まで出向いてくれたから良い機会だったわ」

 

「東京事変……!」

 

スピネとオーキス、あの2人もまたローレルの被害者だ。

スピネに至ってはその命すら落としている、もしも全てが目の前にいる彼女の計画だったとするなら……あまりにも惨すぎる。

 

「……どうしてですか、ローレル。 あなたはなぜこのような真似を……!」

 

「益のない質問ね、ラピリス。 スピネやオーキスの様にお涙頂戴な理由を語ればいいのかしら? それであなたは満足?」

 

「っ……! だったら、何の理由があるというんですッ!!」

 

「私利私欲のためよ、青二才。 覚えておくと良いわ」

 

「ローレル、あなたは……!」

 

「――――ラピリスはん、下!!」

 

激昂し、意識がローレルに向いたその時だった。 地面の下から直情に伸びた何かが私の頬を掠める。

それは細い木の根だった。 ロウゼキさんの掛け声が無ければ直撃してかもしれない。

 

「いじめ、虐待、事故、不幸、孤独、病気……あなた達がいくら善意を説いても救われない“悪い子”はいるわ。 そしてそういった子供たちはね、もっと悪い大人たちによって利用されてしまうのよ」

 

見れば、ローレルの手元からは私の頬を掠めたものと同じ根が伸び、地中に突き刺さっている。

地中から伸ばした木の根で私を攻撃したのか? だとしたら人間業ではない、彼女は一体……

 

「そしてあなたのような良い子はもっと簡単に利用されるの。 こんな風にね」

 

地中に伸ばした根を引き戻すと、ローレルの手元にはクーロンが持っていたはずの小瓶が握られていた。

そして後ろを見てみれば、クーロンが倒れていた地面の近くには小さな穴が開いている。

 

「楽な物よね、ラピリスにちょっかいを掛けるだけでロウゼキの気が逸らせるのだから」

 

「盗人芸だけは達者やなぁ……返せや、それはお前のものとちゃうで」

 

「あら、私が作ったのだから私のものよ? そうね、代わりにこっちの方は返してあげる……わっ」

 

小瓶を回収したローレルは用済みとばかりに、片手で担いでいた輝鏡さんの母親を軽々と放り投げる。

地面に落ちれば危険な勢いだ、慌てて両手で受け止めるが、その隙にローレルは逃げの構えを取っている。

 

「それではさようなら、最低限の仕事は果たせたから今日はおめおめと逃げかえる事にするわ」

 

「くっ……待ちなさい!!」

 

「待てと言われて待つバカが――――」

 

「――――居ないわなぁ、()()()()()()()()()?」

 

怒りをあらわにした表情から一転し、ロウゼキさんがいつもの意地悪な笑顔を浮かべると同時に、空から落ちて来た何かが小瓶を握ったローレルの腕を弾いた。

 

「っ――――!? ブルーム、スター……!!」

 

「――――状況はよく分からないが、こいつがろくでもない奴だって事は分かるよ」

 

不意の攻撃で掌から離れ、宙を舞った小瓶を箒に乗ったブルームが掴み取る。

彼女には倒した竜の事を任せていたはずだが、異変に気付いてすぐに駆け付けたのか。 ロウゼキさんは上空で待機する彼女に気付いていたらしい。

 

「随分と大事な物らしいが、悪いがこいつは返してもらうぜ。 本来の持ち主がいるみたいだしな」

 

「本っ当に……可愛くない子供たちね……!」

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