俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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マジックタイム・ショータイム ④

「おにいさん! 無事ですか、五体満足ですか、意識ははっきりしてますか!?」

 

「あ、あはは……だいじょぶだいじょぶ……」

 

完全に日が落ちた頃になってようやく喫茶店へと戻る。

店の前では出かけたままの恰好でアオが待っていた、握ったその手は酷く冷たい。

 

「散々探し回ってあんたの帰りを待ってたんだよ、何か言う事は?」

 

「優子さん……ごめんな、アオ」

 

「いえ、良いんです……良いんですっ、無事でいてくれればそれで……!」

 

抱き寄せた体は震えていた、寒さからか、いいや違う。 俺のせいだ。

 

「それで、うちの子を泣かした以上は何があったかくらい話してくれるんでしょうね?」

 

「……は、話せば長くなるのですが」

 

悪い、シルヴァ。 お前の存在を隠し通すのは無理がある。

店の中へと入り、俺は交差点で起きた出来事をかいつまんで二人に話した。

 

「殺しましょう」

 

「アオさん!?」

 

「2割冗談です。 そうですか、よりによって彼女ですか……」

 

なんだ冗談か、まるで本物のような殺気を放つもんだから驚いた。

砂糖を大目に入れたミルクコーヒーを啜り、アオが息を吐く、その面持ちは実に神妙なものだ。

 

「……ダークネスシルヴァリアⅲ世、本人はそう名乗っています。 彼女と話したのなら……その、私が話したことが分かったでしょうか」

 

「ああ、何というか……仰々しい喋り方の子だった」

 

「そうです、言動は怪しげですが“魔術”を使わせたら右に出るものがいない魔法少女です」

 

「魔術って……」

 

その先を言い掛けたところで口を紡ぐ。

危ない、アオに火の魔術を見せてもらったのは俺ではなくブルームスターだ。

こんなところでうっかりボロが出すわけにはいかない。

 

「魔法少女が持つ固有の魔法を汎用的に、かつスケールダウンしたものだと思ってください。 彼女はそれを特殊な詩を綴る事で大規模かつ連発して扱う事が出来ます」

 

「そうか、アオ達がシルヴァを認識できなかったのも、俺を浮かばせたのもこれで納得がいった」

 

「あ、あだ名……いえなんでもないです、そのすべては彼女の魔術によるものでしょう。 発動に隙とムラがありますが彼女の魔術はほぼ万能と思っていい」

 

「なるほど、当たり前だが正体は分かっていないんだよな?」

 

「ええ、魔法少女が纏う濃い魔力は周囲の認識を歪めます。 現状彼女の正体は掴めていません」

 

「そうか……」

 

ブルームスターはその性質上正体が暴かれるわけにはいかない、故に野良の魔法少女として活動している。

ならシルヴァは何故野良で活動しているのか……魔物と戦うのが恐ろしいから隠していた、とは思えない。 彼女には彼女なりの理由があるのだろうか。

 

「……お兄さんが目撃した魔物の情報は縁さんから聞いたものと一致します、十中八九同一のものと思っていいでしょう」

 

「と、なれば狙いは同じか。 またシルヴァとかち合う可能性は高いって事だな」

 

「ええ、そして私は飛行手段を持っていません……“跳ぶ”ことはできますが浮遊している魔物相手では流石に分が悪いです」

 

魔法少女ラピリスは活動時間が短いうえ得物のリーチが短い、奥の手の「飛ぶ斬撃」もあるがあれは一発撃つだけでも魔力の殆どを消費する。 見えない相手には少々リスクの高い切り札だ。

 

「お兄さんの話を聞く限り、彼女は安定した飛行手段を持ちます。 加えて周囲の明度を落とす術もある、今回の魔物へ対処するには適任だ」

 

「……協力を仰ぐ必要がある、か」

 

俺の回答にアオが黙って頷く、確かにシルヴァがいればあのクラゲを倒す可能性はぐっと上がる。

だがそれは公的に魔法局が野良の魔法少女に助けを求めると言うことだ。

アオとしては、いや政府としては避けたい方針に違いない。

 

「……俺としてはアオにもシルヴァにも戦ってほしくないんだけどな」

 

「ごめんなさい、お兄さんの頼みでもそれは聞けません」

 

「分かってるさ、忘れてくれ」

 

無茶を言っていることは分かっている、それでもたまに……いや、ハクが現れてからは殊更に思う。

魔法少女は戦わなくていい、そんなことは自分(ブルームスター)がやるから良いじゃないかと。

 

「……縁さんに連絡を取ってきます、お兄さんも今日はもう疲れたでしょう。 早く休んだほうが良いです」

 

「ああ、そうするよ」

 

アオに促され、二階の自室へと戻る。 締め切った部屋は嫌に冷えていた。

冷たいベッドの上にスマホを投げると、バウンドした画面が点灯する。

 

《……それで、どうしますマスター? あのクラゲは一筋縄じゃ倒せそうもないですよ》

 

「だよなぁ、俺だけで何とか出来れば良いんだが透明なのが厄介過ぎる」

 

あの魔物がもつ透明の体は光のある場所では風景に完全に溶け込んでしまう。

目視できるのは闇の中、かと言って完全に暗くなってしまうとそれはそれで見えない。

奴を倒すなら丁度その境界、今日と同じく夕暮れの短い時間帯が狙い目になる。

 

「……シルヴァの術があればもう少し早い時間帯からでもクラゲを見つけ出せる、やっぱり今回の攻略に彼女は必須だ」

 

《同意です、流石のマスターも今回は人の手を借りますか》

 

「まあそれはそれとして飛行手段は俺も持っているんだ、独りで倒す方法も考えておこう」

 

《このソロプレイヤーめ……》

 

どうにかする手段があればシルヴァやアオを危険にさらす必要はなくなる、問題は肝心の手段が思いつかない事だ。

タイムリミットは明日の夕方まで、それまでにまずやるべき事は……

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「街の掃除だ!」

 

《なんで……?》

 

翌早朝。 寝静まった店を抜け出し、ブルームスター(日常モード)の姿で軍手とゴミ袋を装備して街へ躍り出る。

片手には落ちていた木の枝から作った箒が一本、そういえば真面目な用途で箒を振るうのは初めてか。

 

「鳥の羽が欲しいんだよ、できれば複数。 飛べる箒にはあれが必要だからな」

 

《ああなるほど、ただ探すだけじゃ不審ですから掃除しながら探すと。 ですが変身状態ですと目立ちません?》

 

「火傷面の不審者よりはマシかなって……」

 

《ああ……》

 

朝早くから街の清掃に精を出す少女ならまだ風体も良い、元の格好だと何やっても悪目立ちしすぎる。

いちいち通報&職質を受けているような暇もないからな……

 

「ええい傷心は後だ、羽を探すぞハク!」

 

《マスター……私はマスターの味方ですからね》

 

「やかましいわ!」

 

ちょちょ切れる涙をハンカチで拭うハクにデコピンをかまし、羽を探す。

ゴミ捨て場の裏、自販機の周り、電線の上にたむろするカラスを脅かして、探してみればあるわあるわ。

掃除の片手間に行う30分ほどの捜索で5枚のカラス羽を手に入れた。

 

「案外探せば見つかるもんだな、全部カラスだけど」

 

《暇があれば鳥ごとの性能比較とかしたいですねー、タカやワシだとすごそうです》

 

「どこで手に入るんだよそんなもん……ん?」

 

ふと、静かな街中に似合わない、誰が怒鳴るような声が聞こえてきた。

道の先に目を向けてみれば、店前に置かれたタバコ自販機のそばで身長差のある2人の人物が言い争っている。

 

「ち、ちが……私じゃ、な……!」

 

「嘘つくなこンのあおたれが!! おどれが()ったんじゃろ!!」

 

震える声で今にも泣きそうな少女と、それを怒鳴り立てるジャージを身に纏った初老の男性。

……前髪で瞳を隠したその少女には見覚えがあった。

 

「あれは……ハク、変身解除だ」

 

《んー? 構いませんけど急にどうしたんです?》

 

辺りに人がいないことを確認し、適当な物陰に隠れて変身を解いて急いで駆け寄る。

事態はまさに青筋を浮かべた男がその拳を振り上げた所だった。

 

「―――何やってやがる!!」

 

「ああ゛!? なんじゃぁおめ(おまえ)は!!」

 

「この子の知り合いだよ! ……大丈夫か、詩織ちゃん?」

 

「な、七篠……さん……っ!」

 

慌てて2人の間に割って入り、男の拳を止める。 振り返った後ろでは怯えた表情の少女が1人。

昨日と変わらぬ格好の白銀宮詩織が震えていた。

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