俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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零れた水は救えない ③

「……ねー、トワっち。 戻って来るかなぁ」

 

「―――――私は不可能と考える」

 

さざ波が押し寄せる夜の港で、ビットに腰かけたリーダーがぼやく。

時刻の関係もあるが、街の方でお祭りが開かれている今、わざわざ港に立ち寄るやつもいない。 今この港にいるのは我々魔法少女……いや、魔女だけだ。

 

「――――しかし疑問、なぜそこまでギャラクシオンに固執する?」

 

生成した黒球体が放つ超重力による圧壊、ギャラクシオンが持つ魔法は確かに驚異的ではある。

しかし破壊力が大きい分、小回りが利かない。 ストレートに言えば大雑把な能力だ、こんなリスクを冒してまで回収するメリットがあるとは思えない。

 

「んー? そりゃ仲間なんだからさぁ、助けるのに理由要らないっしょ」

 

「――――……そう」

 

ある意味予想通りの返答だ、ヴィーラは「仲間」というものを重要視している。

時にはこのように損得を無視してまで、1人の仲間を助けようとするほどに。

 

「―――――このまま現れなければ、どうする? いつまでも待っている訳にはいかない」

 

「んー……クーちゃんが頑張ってくれてる間は大丈夫っしょ、もう少し待つよ」

 

そのクーロンからも連絡がない、おそらく向こうで何かがあったのだろう。

他者の魔法をコピーできる彼女なら隙を見て逃げる事は出来なくないと思う、しかし私の予想を上回る何かがきっとあったのだ。

だがそれを今のヴィーラには伝えない、余計な混乱と愚策を招くだけだ。

 

「―――――了解、もうしばらく付き合う」

 

「えへへ、ありがとさん。 飴舐める?」

 

「―――――いらない」

 

ヴィーラの“仲間”への甘さは弱点だ、今のようにリスクの多い状況に自ら突っ込む。

これが正義の味方なら美徳だろう、だがしかし我々は悪の魔女軍団。

……いざとなれば、彼女を見捨てる選択が必要かもしれない。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……随分と話しこんでいたみたいっすね」

 

「…………聞いていたのか、無礼者め」

 

診療室を出ると、顔色悪く脇腹を抑えるそばかすと鉢合わせる。

今さっき現れたという訳でもないだろう、別に聞かれて困る話ではないが良い気分はしない。

 

「別に、偶然っすよ偶然。 中々部屋に戻らない誰かさんを探してたら偶然話し声が聞こえてきたもので」

 

「ふん、構わぬさ。 互いに気に食わない相手であろう」

 

まあ、魔法局を襲うような人間を好き好む奴はいないだろう。

所詮どこまで行っても嫌われ者は嫌われ者か、突いて出てくる皮肉も空虚なものでしかない。

 

「……まあ、盗み聞きした件については謝るっすよ。 褒められたことじゃないっす」

 

「む……」

 

ただの口先だけの屁理屈だったつもりだが、思ったより素直に謝られて面食らう。

てっきりまた嫌味の一つや二つ飛んでくるかと身構えていたが。

 

「……それで、()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「…………我は、今から……ヴィーラたちを説得したい」

 

医者と話をし、自分なりに考えた結果だ。

私はもう戦えない、戦わない。 自分にはもう戦う意志も気力もない。

だがそれでも、取り返しのつかないところまで進もうとする“仲間”は止められるかもしれない。

 

「やっぱり、大方何処かで連絡を取って脱出の計画でも練っていたんすかね。 何か様子おかしいと思っていたんすよ」

 

「そ、そこまで分かりやすかったかぁ!? ……まあ良い、そのため一度我の逃走を見逃せ!」

 

「駄目っす」

 

「なぜぇ!?」

 

両手でバッテンを作り、私の申し出を不遜にも断るそばかす。

何故だ、ここまで譲歩しているというのに何が不服なのか。

 

「徒手でむざむざ出て行くのは危険すぎるっすよ。 それに話し合いに応じてくれるわけがないっす、誰かさんに魔法局を襲わせるような連中っすよ?」

 

「う、ぐ……そ、それはそうだが……話せば分かってくれるかもしれないだろう!」

 

「“そうだったらいいな”に掛けるにはリスクが大きすぎるんすよ。 ……最悪、あんたが死ぬかもしれないんすよ」

 

冷たいものが背筋を通り過ぎる。 死ぬ、その可能性を考えないわけではなかった。

変身できない今の私ならばヴィーラの鉄槌一つでペチャンコだ、万が一彼女を激高させるような真似をすれば命はない。

 

「第一、魔女は魔法少女の命を躊躇なく狙ってくる奴らっすよ? ……せっかく今あんたは安全圏にいるってのに、わざわざそんな危険を冒す必要があるんすか」

 

「……ヴィーラは、私に声をかけてくれた相手だ」

 

虐めに耐えかね、いっそ死んでしまおうかと迷っていた時に私は彼女に救われた。

川に身を投げる寸前、変身したヴィーラによって抱きかかえられて川のほとりに下ろされたのだ。

確かに我々は手段を間違えたのかもしれない、しかしそれでも……ヴィーラが私の命の恩人であることは事実だ。

 

「安全圏だと……お前はこんなところでぬくぬくしているというのか? お前だって本当はこんな所で傷も癒せぬまま前線に戻れず、歯がゆい思いをしているのではないか!」

 

「…………にゃろう」

 

そばかすの眉間にしわが寄る。 ここ数日の間、テレビに流れる魔法少女のニュースを悔しい表情で睨みつけていたことは知っている。

彼女も魔法少女の一人、戦えない事は精神的にかなりの苦痛のはずだ。

 

「……ちょっと待つっす。 少し脳内会議の時間を」

 

「その傷を癒せるのはトワイライトだけだ、どの道動かねばお前はずっとこのままだぞ」

 

「………………3:2で同意っす。 しっかたないっすねーもー!」

 

額に手を当ててしばらく考え込むそばかす、そして出てきた答えは私の行動に対する肯定だ。

これで協力者が1人、あと超えるべき壁はもう一つ。

 

「それでは、今から二人であの医者を説得するぞ!」

 

「ぁー……それがあったっすねぇ?」

 

「………………お前ら、全部聞こえてるぞ?」

 

今、魔法少女薬は全てあの医師が抑えている。 港に行くためにはこちらも変身手段が必要だ。

開け放たれた扉の向こうでは今なお仏頂面の医者が椅子に腰かけてこちらを睨んでいた。

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