俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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零れた水は救えない ④

「………………そもそもな、俺がそんな真似許すと思うか?」

 

「「ですよねー……」」

 

こちらがいくら意気込もうと、医者と患者の関係性は崩せない。

しかし黙って出て行ったところで変身用の錠剤がなければ話にならない、ただの少女のままでヴィーラはともかく……ともにいる可能性が高い、トワイライトたちに出会うのは危険だ。

 

「そ、そこをなんとか」

 

「………………なるわけねえだろ、第一そんな情報を持ってるならさっさと魔法局に」

 

「間に合わぬ、今は恐らく街の方で祭り会場の騒ぎに釣られているはずだ。 いるかも分からぬ港に割ける人員などはない」

 

「…………なんだと?」

 

訝しむ医者が胸ポケットから携帯を取り出し、ついついとその画面に指を滑らせる。

ネットニュースを調べているのだろうか、しかし出てくるのは私が喋った内容と相違ない自室だけだ。

小さな舌打ちを鳴らし、医者はすぐに携帯をポケットへと戻した。

 

「…………だからなんだ、お前たちは患者だ。 勝手な行動は許さん」

 

「今ここでヴィーラたちを見逃せばまた被害が広がるかもしれないっすよ」

 

「そ、そうだ! 我のように魔女になるものが増えるかもしれない、お前はそれを医者として見逃して良いのか!?」

 

「…………だからってお前らが首を突っ込む理由が」

 

「「ある!!」」

 

医者の言葉に2人の反論が重なる。 そして予想外の力強さに医者は少し気圧され、言葉に詰まったようだ。

 

「我元関係者ぞ? むしろ責任というものがあろう、だから大いに首を突っ込むぞ!!」

 

「自分も、この魔女事件は解決しなきゃ理由があるんすよ。 お姉ちゃんを助けるためにも」

 

「お、お前……そんな理由があったのか」

 

「あったんすよ!!」

 

まあ、でも無ければわざわざ錠剤で変身してまで私達の邪魔などするわけがないか。

 

「重ねて言うが犠牲は増えるぞ、魔法局は今動けぬ、他所から救援を読んでも間に合わぬ、可能なのは我々だけだ」

 

「…………その言葉が本当か分からねえ、適当なごまかしで逃げる魂胆じゃねえのか」

 

「心配ご無用、そのために自分が監視するっすよ」

 

「…………腹の傷も治ってねえくせにか?」

 

「その点は気合でどうにかするっす!」

 

「ほざけ。 …………チッ、しかも冗談じゃねえときてる」

 

医者が頭を抱える。 私たちが相当な無茶を言っていることはわかっている。

だが焦燥感が募るのだ、たしかに危険を考えれば我々が動く必要はない。 しかし……ここでヴィーラたちと話をしなければ取り返しがつかなくなるような悪寒がする。

 

「…………馬鹿に付ける薬はないな」

 

「代わりの処方箋貰えなければここで飛んで跳ねて傷開くっす」

 

「やめろ。 …………クソ、やっぱり俺は魔法少女が嫌いだ」

 

そばかすの捨て身の脅しに観念し、医者は白衣の内ポケットから見覚えのある小瓶を取り出す。

バカにつける薬ではないが、今の私たちにとっては最高の特効薬だ。

 

「…………無理だと思ったら必ず逃げろ、あのデブ局長に連絡は入れておく。 傷広げて帰ってきたら今度こそ縫うからな」

 

「分かっているっす。 くれぐれも気を付けるっすよ」

 

渋々といった様子の医者からそばかすに薬を託される、これで一応変身は可能だ。

 

「いくぞそばかす、遅れるなよ!」

 

「もちr……うぐっ、傷口が……」

 

「………………やっぱりお前はここで待ってたらどうだ?」

 

「嫌っす!!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「けぇーっきょくこうなるのか! 不遜にもほどがあるわ!!」

 

「仕方ねえんすよ!! 仕方ねえんすよこれは!! 元々あんたの仲間がつけた傷でしょうが!」

 

ギャラクシオンへと変身した我がそばかすを抱え、街のライトに照らされた闇夜を飛ぶ。

体が軽い、軽くコンクリを蹴るだけで羽のように飛び上がる。 ああそうだ、これが魔法少女の快感だ。

 

「……ちょっと、悦に浸ってるところ悪いっすけど安全走行で頼むっすよ」

 

「う、うむ! 苦しゅうないぞ!?」

 

いけない、少し気分がハイになっていた。 これから修羅場になるかもしれないのに気を抜いている暇などない。

まったく、こんなだからこのそばかすにも後れを取ってしまったのだ。

 

「……今何か失礼な事考えてなかったっすか?」

 

「そ、そんな事はないぞ? それよりお前はそのような有様で戦えるのか、おそらくその傷をつけた仇も待っているぞ」

 

「戦らなきゃ一生このままだって言ったのはあんたっすよ。 ……それに相手の魔法については見当がついているっす、次は負けない」

 

「そうか……一応の答え合わせだが、トワイライトの魔法は“停止”の力だ」

 

ナイフを媒介に振れたもののエネルギーを半永久的に止める、トワイライトが解除しない限りそのままだ。

運動エネルギーを止めれば空中で停止、傷口を治すためのエネルギーを止めれば治癒の妨害、悪用だけでも相当えげつない真似ができる。

 

「まあ大方想定通りっすね。 ……そろそろ港っすよ」

 

「ああ、分かっている」

 

ビルの屋根を跳んで跳ねて移動すればあっという間に港まで辿り着く。

祭りの方に引き寄せられ、人気のない夜の港は何とも言い難い不気味さがある。

しかし躊躇っている暇はない、積み上げられたコンテナの上に降り立ち、辺りを見渡す。

 

「……ヴィーラ、我だ! 来たぞ、どこにいる!?」

 

闇に向かって叫んだ声はさざ波にもまれながらも港に響く、隠れているのなら聞こえていないはずはない。

 

「……遅かったか? 我がもう少し早く……」

 

「――――なぁーに言ってんの、ずっと待ってたよギャラちゃーん」

 

聞きなれた声が港に反響する。 慌てて辺りを見渡すが、ヴィーラの姿はない。

……どこかに隠れているのか?

 

「いやー待ちくたびれたわー、もうちょっと遅かったらマジ帰ってたし。 お帰りギャラちゃん、よくぞ戻ってきてくれたっしょ!」

 

「ヴぃ、ヴィーラ! 我は……」

 

「……で、その抱きかかえてんのなに? 人質?」

 

喉から出かけた言葉がその冷たい声色に突き刺された。

どこからか聞こえてくるヴィーラのその声に籠っているのは、怒りと殺意の感情だ。

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