俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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マジックタイム・ショータイム ⑤

「そこなガキが儂の金()ったがや! 丁度ええわ、おめが払え!!」

 

「へー……」

 

随分と温度感の高いおじい様だ、それでもこの顔にビビってくれているのか振り上げた拳は引っ込めている。

しかし金を盗んだ? まさか、詩織ちゃんがそんな事をするとは思えない。

 

「詩織ちゃん、君の話を聞かせてもらっていいかな?」

 

「なんじゃおめ、んだガキが(がだ)ること信じるんか!?」

 

「アンタの話だけ聞いて一方的に決めつけるのは不公平だろ、この子が盗んだとは限らない」

 

「な、七篠……さん……わた、わた……し……っ」

 

それからたどたどしいながら頑張って話してくれた詩織ちゃんの話を纏めるとこうだ

・たばこ自販機の前でこのじいさんが小銭入れを広げた所、手を滑らせて小銭をぶちまける。

・そこに詩織ちゃんが通りかかり、小銭を拾うのを手伝う。

・全部拾い集めた所、小銭入れの中に1枚だけ入っていた500円玉が見当たらず、詩織ちゃんに疑いの目が掛けられた。

 

「……なるほどな。 そういう事で相違はないか、じいさん?」

 

「んだ、見つからねならコイツ(ほいづ)が盗ったに違いね! こんのクソガキが!!」

 

「ちが、う……わ、わたしは……!」

 

大体わかった、つまりは確証も無く思い込みで幼気な少女を頭ごなしに怒鳴りつけていたわけか。

これはもうぶん殴っても無罪では?

 

《暴力は絶対にやめてくださいよマスター》

 

クソッ、勘の良い魔人だ。

 

「このガキ、いい加減にせんと警察に……」

 

「待てよじいさん、探し物はこいつだろ」

 

ポケットから取り出した500円玉を指で弾いて見せる。

重みのある金属音を鳴らし、打ちあがった硬貨は確かに二人の目に映ったはずだ。

 

「あっ、それ……」

 

「俺のいた所まで転がってきたよ、小銭ってのは結構遠くまで転がるもんだ。 次から気を付けなよじいさん」

 

「……ふんっ、うるさい(しづね)ガキが! 年上への礼儀がなっちょらん……」

 

ぶつくさと文句を言いながら500円玉へと延ばされた腕……を掴む。

予想だにしない俺の行動に爺さんの顔が驚き、そして段々と真っ赤な怒りに染まっていく……

 

「な、なにするがこんの……!」

 

「まずはこの子に謝れ、何はともあれあんたの勘違いだったんだ。 ごめんなさいの一言もなしじゃ筋が通らねえ」

 

「誰がンなガキに!!」

 

「あ゛っ?」

 

ついつい握る腕に力がこもる。

 

「っ……わ、分かった分かった! 儂が悪かった、許してくれ!」

 

「だとさ、どうする詩織ちゃん?」

 

「も、ももももう良い……ですっ、離して……いい、です……!」

 

本人が言うなら仕方ない、命拾いしたな。

掴んでいた腕を離すと爺さんはあれほど騒いでた500円玉にすら目を向けず、脱兎のごとく逃げ出した。

元気な爺さんだ、ありゃまだまだ生きるぞ。

 

「おい500円! ……いっちまった、ったく」

 

「七篠……さん? なに、を……?」

 

逃げた爺さんは放っておき、改めて自販機の下を覗き込む。

薄暗い隙間をスマホのライトで照らすと案の定、自販機を支える四つ脚の死角に500円玉が隠れていた。

取り出してみても砂や埃を被った形跡はなく真新しい、十中八九今さっき落としたものだろう。

 

「やっぱりな、よく探しもせず人を疑うなっての」

 

「……??? なんで、2枚……?」

 

「あはは、悪いね詩織ちゃん。 こっちの500円は俺の、あの爺さん実物見せないと納得しそうもないからさ」

 

丁度小銭入れを持っていて助かった、手元の500円で誤魔化して後で探せばいいかと思ったがあの爺さんもせっかちなもんだ。

 

「大変だったね詩織ちゃん、けどなんでこんな早朝に……」

 

「……ふ、ぇ」

 

《あっ》

 

「えっ」

 

爺さんが去って緊張の糸が切れたのか、必死に堪えてた瞳のダムが決壊した。

一度溢れたらもう止まらない、次から次へと涙がこぼれだす。

 

「わた、わたし……困ってたから、こぜ、小銭……を……っ!」

 

「うんうん、分かってる。 君のやった事は間違いじゃない、今回のことはちょっとした不幸だ、だから気に病むな」

 

「ひぅ……っ! ……グスッ……ひっく……!」

 

しかし言葉だけで諭して泣き止むほど子供は理性的ではない。

怖かったんだ、唐突に怒りを真っ向からぶつけられてどうしていいか分からず恐ろしかった。

今は泣くしかない、呑み込めない理不尽を涙に変えてしまうしかないんだ。

 

「ごめっ……ごめんな、さい……なみっ……涙が、止まらな……!」

 

「いいよ、いい……思いっきり泣け、怖かったよな、遅れてごめんよ」

 

……ただ、これはちょっと時間がかかりそうかな。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「……で、うちに連れて来たと?_」

 

「さーせん優子さん、ここしか思いつかなかったんすよ……」

 

泣き止まない詩織ちゃんを連れ、喫茶アミーゴへと戻る。

今は珍しく早めに起きてきた優子さんに事情を話した所だ、詩織ちゃんはテーブルに座ってオレンジジュースを飲んでいる。

 

「ま、いいさ。 むしろ良くやったよ、今度その男見つけたらぶん殴っておきなさい」

 

「俺もそうしたいところだけど法が許さねえんすよ」

 

優子さんが舌打ちを鳴らす、彼女の場合だと本気であの爺さんを殴りかねない。

俺が言えた義理じゃないが勤務先の店長が暴行罪で捕まって営業停止とか洒落にならないから控えて頂きたい。

 

「詩織ちゃん、だっけ? そもそも何であんな所に居たの?」

 

「えっと……ボランティアで、町内清掃を……」

 

そういって彼女は腰ポケットから軍手と畳んだビニール袋を取り出した。

目的は俺と同じ掃除か、ただ始める前に運悪くあの爺さんに捕まったのだろう、可哀想に。

 

「そう、ご両親には今連絡取れる?」

 

「えっと、今は……でも、あの、代わりに」

 

優子さんに質問に答えるよりも早く、ドアベルを激しく鳴らして誰かが店へ転がり込んできた。

 

「おどりゃあ゛!! うちの可愛い姪っ子に何してくれてんじゃゴラァ!!!」

 

「落ち着けおっさん、例の爺さんはもういねえよ」

 

闖入者の正体は保護者代理で駆け付けた男島信行、その人である。

猛々しい筋肉達磨のエントリーに詩織ちゃんがびくりと肩を震わせた、まあそうなるな。

 

「詩織ちゃんを怯えさせてどうする、その気迫を一回引っ込めろって」

 

「あぁん、私としたことが……ごめんね詩織ちゃん、大丈夫だった?」

 

「う、うん……大丈夫、でした……」

 

今の様なおっさんの姿を見たのは初めてか、彼女の態度は少し引き気味だ。 無理もない。

 

「ひー君もありがとうね、オレンジジュース代いくら?」

 

「良いって良いって。 優子さん、俺の給料から引いといて」

 

「あんたね、私がそこまで器量の狭い女だと思う?」

 

「さっすが優子さん、良い女。 という訳でこちらのジュースは奢りだ、気にせず飲んでくれ」

 

「あ、ありがと……ござい、ます……」

 

詩織ちゃんも泣き止んで大分落ち着いたようだ、それならいつまでもここにいるよりは早く家に帰したほうが良い。

 

「おっさん、そろそろ……」

 

「ええ、分かってるわん。 世話になったわね」

 

「どうってことないさ、あとこれ落とし物。 扱いに困ったらその子の駄賃にでもしてくれ」

 

ポケットから取り出した500円を取り出す、あの爺さんが落として行ったものだ。

俺が預かるわけにもいかないのでおっさんへと渡した。

 

「んもう、横領はダメよ。 悪い子ねひー君」

 

「言ってろ、彼女の事は頼んだ」

 

「任せてぇん、行くわよ詩織ちゃん」

 

「は、はいっ。 あの……ありがとう、ございました……!」

 

ヒラヒラと手を振って2人が店を後にする姿を見送る。

あとはおっさんに任せて問題ないだろう、無事に彼女の家へと送ってくれるはずだ。

 

「……あの子、なんであんな所に居たのかしらね」

 

「優子さん? さっき言ってた通り掃除じゃないんすか?」

 

「嘘ね、なんとなくそんな気がする。 女の勘よ」

 

そんな馬鹿な、何でそんな嘘を付く必要があるのか。 きっと優子さんの勘違いだろう。

 

……閉じる扉の隙間から詩織ちゃんの後ろ姿が見える。

ビニール袋が覗くその腰ポケットから、カラスの羽が一枚零れ落ちた。

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