俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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氷漬けのヒーロー ④

「はああぁぁぁぁー…………」

 

「そう落ち込むなヨ、サムライガール。 私達は選ばれなかったけど嫌われてるわけではないサ」

 

「落ち込んでなんていません! ただちょっと……あれです、疲れただけです」

 

変身能力を失ったブルームスターの護衛をシルヴァに任せ、残った私達はもう少し事後処理の続きだ。

港の倒壊具合は大問題だが、それ以上の問題点が一つある。

 

「……どう思いますか、ゴルドロス?」

 

「まあ、異常だよネ。 ここら一帯()()()()()()()ヨ」

 

そう、ゴルドロスの言う通り、港の周囲に満ちる魔力が平常のものと比べ、あり得ないほどに高い。

下手をすれば東京のそれに近いのではないかというほどだ、とてもじゃないが暫くは一般人が立ち入れる場所ではない。

 

「魔法少女の戦闘があったなら多少は魔力も増えるだろうネ、でもあの量まで膨れるなんてありえないヨ」

 

「そのうえにあの気温です、あの場にいた魔法少女でこんな真似ができるとは……監視カメラには何か移っていなかったですか?」

 

「駄目だヨ、全部オシャカ様だネ。 建物ごと巻き込んでヴィーラが叩き壊して行ったヨ」

 

「……ギャラクシオン達の証言は?」

 

「2人とも気絶してたから完全にお手上げだネ、けどそのおかげで2人のせいではないと分かったヨ」

 

映像も無し、証言も無しとなればほとんど憶測でものを語るしかない。

現場を検証すれば何か分かるかもしれないが、なんにせよ魔力の汚染が酷い。 魔法少女以外は立ち入れないため、調査をするにしても時間がかかるだろう。

 

あれほどの魔力をまき散らす存在がいるとするなら、それは放置できない問題だ。

……だというのに、なぜ私の脳裏にはブルームスターの顔が過るのだろう。

 

「……それと、サムライガール。 朗報だヨ、ギャラクシオンたちとドクターの交戦について」

 

「む、ドクターもあの場にいた訳ですか……で、その内容は?」

 

2()()()()()()()()()()()ってことだヨ、ダメージは入らなかったみたいだけどネ」

 

「―――――なるほど、分かりました。 2人にはゆっくり休む様に伝えてください」

 

保護下から勝手に抜け出し、ましてや魔女たちと戦闘を行ったなど褒められるものではない。

しかし彼女達が手に入れた情報は値千金の価値がある、今回ばかりは少し容赦をしよう。

 

「……そろそろ、私達も後手後手の状況を何とかしないといけませんね」

 

「無敵」の力は「最強」ではない。 必ずどこかに穴はあることを2人が教えてくれた。

考えよう――――ドクターを攻略するための方法を

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「おはよう、盟友ぅ……よく眠れて……ないねぇ……」

 

「うん、色々考えちまってな……そっちはすごい寝癖だな」

 

「そだねぇ……梳かしてくる……」

 

ろくに眠れないまま迎えて朝、居間で顔を合わせた詩織ちゃんの髪の毛はメデューサもかくやという荒れ狂い方だった。

本人も寝不足気味な俺以上にポヤポヤした様子で洗面所の方へ去っていく、朝が弱いのだろうか。

 

《ふあぁ……おはようごじゃいますますたぁ……クマできてますよ、昨日何時に寝たんですか》

 

「2時までは起きてた記憶あるな……全身がだるい」

 

慣れない体、慣れない環境、慣れない枕でどうも落ち着かず、結局ほとんど体が休まった気がしない。

昨日のダメージもかなり引きずっている、正直立っているだけでも辛い。

 

「だるい……重い……疲れた……やっぱり体力も落ちてるな、この体……」

 

《年齢的には若返ってるはずなんですがおじいちゃんみたいなこと言ってますね》

 

「うっさい。 ……あっ、そうだハク、店の方には」

 

《心配いらんですよ、朝一で一身上の都合によりしばらくお休み頂くとメール致しました》

 

「そうか、仕事が速いな。 サンキュー」

 

《しばらくお店に行く方々は店長の手作り料理をお見舞いされるでしょうが気にしちゃ駄目ですよ》

 

「良心の呵責!!」

 

そうだ、ただでさえ人員が不足する中で調理担当がいなくなればどうなるか、優子さん地獄のワンオペが始まる。

ただ地獄を見るのは何も知らず迷い込んでしまった客たちだろう……俺が、俺がふがいないばかりに……。

 

「ふわぁ……盟友、あらためておはよう……」

 

「おう、戻って来たな詩織ちゃん。 可愛くなったよ」

 

「…………盟友は平気でそういう事いう」

 

顔を洗って戻って来た詩織ちゃんはズレた眼鏡をかけ直し、ぼさぼさだった髪もゴム紐で纏め、寝間着以外はいつもの見慣れた格好だ。

少し顔が赤い、昨日の低気温で体調を崩したのだろうか。

 

《今の発言は録音したのであとで葵ちゃんたちに送りますね》

 

「何故……!?」

 

と、そこにガラガラと玄関の扉が荒っぽく開かれる音が聞こえてくる。

一瞬誰かと身構えたが、詩織ちゃんは帰って来る人物に心当たりがあったようだ。

すぐに玄関に駆け出し、その人物を迎える。

 

「おじさん……お帰り……」

 

「あらぁんただいま! ……あら、そっちの子は?」

 

「ど、どうもー……」

 

《あー、そっか。 警官さんのことすっかり忘れてました》

 

玄関の扉を狭そうに潜るのは筋骨隆々のマッチョメン、男島信之だ。

この姿で会うのはそう言えば初めてだったかもしれない、なんというか気まずい。

 

「お、お友達……です。 色々あって昨日はお泊まり……」

 

「あら、そうだったのぉん? うふふ、初めまして、私はこの子の叔父よ。 シマちゃんって呼んでねん」

 

「アッハイ。 お邪魔してまぁす……」

 

大の大人が体をくねらせてバッチリウインクを決める姿は実に正気度が削れる。

良かったな男島のおっさん、今変身が出来るなら思わず手が出ていたかもしれない。

 

「けど詩織ちゃんにこんなにお友達が出来るなんてねぇん、丁度今そこで1人エンカウントしちゃったところなのん」

 

「わ、私だって友達くらい……もう、一人?」

 

詩織ちゃんが小首をかしげると、男島のおっさんのデカい背中に隠れた小さな影が顔を出す。

……その金髪と性質の悪い笑顔には嫌というほど覚えがある。

 

「ふふふ……甘いネ、住所が割れてるなら私からは逃れられないヨ……!」

 

「ほ、ほぎゃああああああ!!?」

 

後ろ手で玄関を閉め、器用な手つきでカギを掛けるコルト。

そして片手に抱えたぬいぐるみからは詰め込まれた衣類の切れ端が顔を覗かせていた。

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