俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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氷漬けのヒーロー ⑦

「何だろう……すごく落ち着かない」

 

《調理場にいないマスターって違和感バリバリですね、まあ今はしょうがないですよ》

 

「なにぶつくさ言ってんですか、はいおまちどうさまです

 

やがて客足が落ち着き、席についた俺たちに料理が運ばれてくる。

「まずは飯を食え、話はそれからだ」というシェフから直々のお達しだ、この客の入りを捌く手伝いをしようかと申し得たが遠回しに断られた。

 

「まあ私は手伝う気なかったけどネ、それよりご飯だヨご飯!」

 

「……まあうちに来た以上はご飯は出しますよ、シェフご自慢の逸品です」

 

そういってアオがテーブルに置いて行ったのは美しく盛り付けられた……サバの味噌煮だ。

お盆にはセットで茶碗に盛られたご飯と味噌汁、そして副菜のお浸しに口直しの漬物が少量添えられている。

 

「……なぜ和食?」

 

「ここ、喫茶店……だよね?」

 

「まあ見てくれよりも味だヨ、こちとらこの店の味に慣れてるから半端なものじゃ納得しないからネ!」

 

「言うてこの人気だし腕は伺えるけどな、いただきまーす」

 

サバの身は軽く箸を差し込むだけでサックリと割れる、切り身がパサつかずに程よく煮込まれている証だ。

小さく分けた切り身を口に運ぶ、やはり水分を失っていない身はふっくらと柔らかい。

サバの臭みなども微塵もなく、味噌の香りが立つ味わいは実に米が進む組み合わせだ。

 

「……すごいな」

 

思わず口から感嘆の息が零れた。 ごまかしの調味料なども一切使っていない、和食らしく素材を生かして雑味を削りに削った引き算の上で成り立つ味だ。

味噌汁もしっかり出汁が取れている、当たり前だが汁を沸かし過ぎて風味が飛んでいる事もない。

白米の炊き上げも完璧だ、べた付かずかと言って硬すぎる事もない。 このレベルに至るまで一体どれだけの研鑽を積んだのだろう。

 

「いや、すごい……これは、美味い。 一体何者なんだそのシェフは?」

 

「いやー私は最初から分かっていたヨ? この店を任せられる逸材なんだからそりゃあネ?」

 

「コルトちゃん……掌返しがはやい……」

 

思えば昨日から出店で買った品々以外にまともに食事をしていなかった。

空腹にこの定食は凶悪だ、三人とも目の前の器をたちまち空にする。

 

「ふぅ……シェフには三つ星を進呈するヨ」

 

「ああ、文句無しに美味かった……にしてもこれだけの腕をどこから引っ張ってきたんだ?」

 

「はい、お粗末様です。 彼女は今朝店にふらっとやってきただけですよ、母の作ったコーヒーを飲んで思うところがあったようです」

 

「それは……強いな」

 

アレを喰らって意識を失わないどころか、店の手伝いまでしてくれるなんて相当な強者だ。

そして一般客が犠牲にならなかったことが何より幸いだ。

 

「一応調理師免許は持っているようですしなに作っても母よりはマシだと思って臨時雇用となりましたが……まさかここまでとは驚きですね」

 

「いっぱい……だもんね……」

 

あれだけ閑古鳥が蔓延っていた店内はほぼフル回転、しかもそれを優子さん含め2人のホールスタッフで回しているのだから恐ろしい手腕だ。

と、話しこんでいる間にドアベルを鳴らして更なる客が入店してきた。

 

「こんっにちっはー! ……ってあれ、凄いお客さん! どうしたのこれ?」

 

「むっ、ドレッd……鑼屋さん。 お久しぶりですね」

 

元気よく現れたのは魔法少女ドレッドノート……その変身者である鑼屋 伊吹だ。

今日はキャップとTシャツ、短パンとスポーティなコーデ、腕には変身アイテムであるブレスレットがそれとなく巻き付いている。

 

「おっひさー、皆! 悪いけど今日は食事じゃなくて……葵ちゃん、やけに堂々として片手にボウル持ったモデルみたいな美人さん知らない?」

 

「日向さーん! ご指名です、何やったんですか!!」

 

「なんだ、騒がしい。 飯の時に騒いで良いのは野球中継でホームランが出た時だけだ」

 

「あー、いた! 日向さん、出頭命令です!」

 

調理場から顔を出した日向さんの姿を確認すると、伊吹ちゃんは片手に持った写真を確認し、指を指して歓喜する。

ただものではないと思っていたが、魔法少女に探される存在となるといよいよ何も何だこの人。

 

「出頭って……何やらかしたんだヨ?」

 

「あー、悪いけど皆ついてきて! ごめんなさーい、葵ちゃん達借りまーす!」

 

「利子はトイチね」

 

「いいのか!? 良いのかそれで!?」

 

「お母さん、決して私達が居ない間は調理場に立たないでください!! 決して!!」

 

伊吹ちゃんに引っ張られ、全員が店の外へと連れていかれる。

表の道路には目深に顔を隠し、赤いスポーツカーに乗ったロイの姿もあった。

 

≪おや、どうやら見つかったようですね。 皆さんもお久しぶりです≫

 

「挨拶はあとよあと、ホラホラ全員乗った乗った! 飛ばすわよ―!」

 

「ち、ちょっと! これどこに行く気だヨ!?」

 

「日帰り京都よ、局長さんから許可は貰ってるわ!」

 

「「「「京都ぉ!?」」」」

 

東北から京都、仮にこのまま車で行くとしたらかなりの距離だ。

事前に打ち合わせがあったならともかくどうしてそんな急に?

 

「鑼屋さん、いい加減教えてください。 この日向さんが何をしたんですか?」

 

「何をしたっていうよりね、何もしてなかったのよこの10年間。 ロウゼキさんからはそう聞いたわ」

 

「10年……? って、まさか」

 

「そう、10年前……いつの日か失踪していたみたいだけど戻って来るとは思わなかったわ。 始まりの10人さん?」

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