俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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氷漬けのヒーロー ⑧

「魔法少女ゼクトル、始まりの10人の中でも機動性に長けた魔法少女よ」

 

「昔の名だ。 今となっては私も魔法少女ではなく、空に登る太陽と同義に過ぎない」

 

「このヘンテコな性格は確かに魔法少女感あるネ」

 

「お前そんな魔法少女が変な奴しかいないみたいに……」

 

《でも実際否定できないところありますよね……》

 

アオ、コルト、詩織ちゃん、日向さん、そして俺、大分狭い後部座席で居心地が悪い思いをしていると、手持ち無沙汰なドレッドハートによるある魔法少女の説明が始まった。

ご丁寧に資料を準備してまでの開設だ、痛み入る。 人数分配布された資料を捲ると、ご丁寧に変身時の写真まで載っている。

当時に撮影された者の切り抜きだろうか、靴先まで赤く統一されたパーティードレス型の魔法少女衣装をまとったゼクトルが魔物を相手に回し蹴りをお見舞いしている瞬間だ。 

 

「扱う魔法は“加速”、肉体だけでなく精神すら加速する魔法は周囲がスローモーションに見えるほどだったらしいわ」

 

「良く調べていますね」

 

「まあ全部受け売りだけどね、そしてある日突然失踪して今日帰って来たみたいなの」

 

「いや何があったんだヨ」

 

「理由については本人以外知りようがないんだけどその辺どうですか……っと、この先カーブね。 皆舌噛まない様に気を付けてー」

 

車窓の外を見てみると、店を出て5分も過ぎていないはずだが、町境の看板を通り過ぎたところだ。

一応他の車両も多い一般道なので自重こそしているが、やはりドレッドハートとロイが操る車両は速い。

 

「私が行く道は私が決める、その道のりがパリまで続いていただけの話さ」

 

「全然話が……わからない……」

 

「あまり考えない方が良いヨ、ビブリオガール。 自信満々の王様タイプだネこれ」

 

「まあいきなり失踪した理由についてはロウゼキさんのところでじっくり絞ってもらいますから! ロイ、次の道は右……」

 

「いいや、左だ」

 

ドレッドハートのナビゲートを遮り、日向さんが指示を出す。

左に曲がれば目的地の京都とは逆方向だ、しかしその表情は何か考えがあるのか自信に満ちている。

ロイもその顔を見てか、進路を左へと切り返す。

 

「……“加速”の魔法か。 名づけるならばそれが妥当だろう。 だがしかし、当時の私は更にその先の境地を見ていた」

 

「さらにその先……ですか?」

 

「ああ、加速し過ぎた私の精神は現在より先……数秒ほどの未来を見る事が出来た、いわゆる予知というものだ」

 

「それはええと……資料には載ってないですね、魔法局には伝えていなかったんですか?」

 

「なに、秘密を着飾るほど女は美しくなる。 私の祖母の言葉だ」

 

「それで、何故左に曲がったんですか?」

 

左のルートは京都に向かうどころか大きな道路からも反れ、次第に景色から人気も消えていく。

遠回りもいい所だが、何の意図があっての事だろうか。

 

「無論、私もとうに魔力を失った。 しかし予知の名残が私の体には残された、虫の知らせという形でな」

 

「虫のしらs――――」

 

瞬間、背後の道路が音を立てて爆発した。

続いて聞こえる一般車両のブレーキ音と悲鳴、幸い間一髪で大きな被害はないようだが道路はぽっかりと陥没していた。

 

「な、なに……!?」

 

「伏せてください、詩織さん。 ……ガス爆発ではなさそうですね」

 

「……来たか、やはりな」

 

「ロイ、各種方面に伝達。 現在位置転送して道路状況の封鎖と交通整備依頼! 敵は!?」

 

≪熱源感知、上!!≫

 

ロイの言葉に全員が窓から外の様子を視認する。

……この車は後方の爆発から逃れ、今なお走行中だ。 しかし窓から見える空には――――ぴったりと並走して飛ぶ少女の姿が見えた。

 

『―――――ぶっ殺おおおおおおぉおおぉぉぉぉす!!!』

 

「……おい、なんかすごい殺意剥き出しの魔法少女が居るんぞ」

 

「ああ、私の姪だ。 可愛いだろう?」

 

「「「「「姪!!?」」」」」

 

日向さんからの思わぬ暴露に全員の声が揃ってしまった。

聞き間違えではないだろう、そういえばあの魔法少女のドレス調の衣装はどことなくゼクトルのものと似ているような気がする。 色の基調こそは黒、ときどき差し色に金というカラーコーデではあるが。

 

「……で、なんであんなに殺す気いっぱいなんだヨ? 道路に穴開けてるしだいぶシャレになってないネ」

 

「心配はいらない、あれは利口な子だ。 いかに冷静さを欠こうと大事な一線を超えるはずがない」

 

「なるほど、とんだバカヤロウだったヨ……!」

 

「……で、なんであんなに怒ってんだあの子」

 

車と並走して飛ぶ彼女の形相は、とてもじゃないが血のつながった人間に向けるものではない。

それに何となくだが……彼女の装いは本来の魔法少女と違う気配を感じる、あれは魔女か?

 

「ちなみに、何故怒っているかというと帰国初日に挨拶をしようと彼女の家を訪ねてな」

 

「うんうん」

 

「部屋の前まで行くと鍵が開いていた」

 

「それで?」

 

「……姿見の前、あの姿のまま良く練られたであろう決めポーズを取るあの子と鉢合わせたんだ。 あまりにも似合っていたので写真を1枚とって来た」

 

「ロイ! 全速前進!! そりゃ襲われるわ!!」

 

≪あいよー!! 事が済んだらバッチリ説教だなぁ!!≫

 

ロイがアクセルを踏み込み、一気に車体が加速した。

前を走る車は流石のドライビングテクニックで躱しながら後方の魔女と距離を取る。

向こうが一般人を巻き込まない程度の理性が残っているのは幸いだ。

 

「これは京都向かうどころじゃないわね……ごめん皆、ひとっ走り付き合ってー!!」

 

「分かってますよ! 全員準備は……ああ、あなたは日向さんと一緒に隠れててください!」

 

「分かってるよ、クソ……」

 

変身が出来ない俺は戦力外だ、アオの言う通り邪魔にならないように隠れているしかない。

……そして、この長い長いカーレースが始まった。

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