俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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たとえ忘れられたとしても ②

「とりあえず……まずは服だ、互いにこれでは目立つ」

 

「ああ、そっか。 お互い酷い格好だなぁ」

 

シャッター街を歩く自分と日向さんの格好を改めて見てみると、泥だらけで酷い有様だ。

空中を舞う車から飛び出して土手を転げ落ちたんだ、むしろこの程度で済んで幸いと思うべきか。

 

「そうだな……俺はともかく日向さんはとくに格好を変えた方が良いかな、帽子やマスクで顔を隠そう」

 

「残念だが太陽の輝きを覆い隠すことは出来ない、変装というのも悪手だろう。 この暑さの中で顔を隠す人間こそ怪しい」

 

「前半はともかく後半はまあそうか、なら服だけ買っ……あ゛」

 

「どうかしたか?」

 

ポケットをまさぐる手が止まる、引っ張り出した財布の中身には小銭が数枚程度しか入っていない。

そうだ、祭りの時からアオに訝しまれないようお札は殆ど持ち歩いていなかった。 しかも小銭は屋台でその大半を消費していた。

財布に残っているのはとてもじゃないが服を買い直すような額ではない。

 

「……なんだ、金の事なら心配はするな。 子供1人分ならなんとでもなる」

 

「いや、流石にそれは悪いので! ほら、俺一人ぐらいならなんとか誤魔化して……」

 

「誤魔化す手間より買う方が早い、子供が下手に遠慮するものではないな」

 

「……子供じゃないんだけどなぁ」

 

「そういうセリフを吐くのは皆子供だよ。 それに先輩というのは後輩に奢れるぐらいの度量を見せつけたいものだ」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「……だからってこの服はないんじゃないですかね!?」

 

「いいや、良く似合っていると思うが?」

 

適当な服屋にて着せられたのは飾り気の少ない真っ白なワンピースとクマを模した肩掛けカバンのセットだ。

ご丁寧に靴まで新たに買い揃えられてまるで深窓の令嬢といった様相、これで中身が俺でなければ完璧だったことだろう。

 

「ヒラッヒラだしうっすいし落ち着かないしなんだこれ……防御力が足りなくないか……?」

 

《マスター、日常生活用に防御力は求められてないんですよ》

 

「会計はこれで、レシートは不要だ」

 

そんな俺を尻目に、日向さんはニコニコで接客する店員に黒いカードを渡してさっさと会計を済ませてしまう。

俺に比べて日向さんは裾の広いボトムスに英字のロゴが印字されたシャツとサングラスというコーデだ。

自分に与えられたものに比べて随分ラフというかなんというか、それでも着こなしているんだから素材が良い。

 

まさか俺は本当にこんな格好で外を出歩かないといけないのか? 今までの格好も色々麻痺していたがかなり精神的に無理があったぞ、コルトに着せ返されただけでも抵抗があったのにこれは……死ぬ。

 

《いやーでもマスターの趣味ですと男の子すぎますし妥当じゃないですかね、ははは写真撮っておきます?》

 

「お前後で焼けたアスファルトの上で両面焼きな……」

 

「何をぶつぶつ独り言を言っている? 次は風呂だな」

 

「………………FURO?」

 

【風呂】ふろ

大きな桶にお湯をため、身体を洗ったりするためのお湯 またその湯舟そのものを指す。

 

「服を揃えても汚れたままでは片手落ちだ、この辺りに銭湯はないか?」

 

「いや……いやいやいや! 流石にそれはまずい!!」

 

「風呂は嫌いか? しかし汚れたままでは目立つぞ」

 

「そうだけど……そうだけども!!」

 

風呂、それも銭湯という事は女湯だ。 俺の今の身体を考えれば、当然そっちに引っ張り込まれるわけだ。

それは倫理的にも不味いしなんならあとでコルトにバレてもみろ、一生このことで弄られ続けるか軽蔑の目を向けられる。

 

「それにキミは少し汗臭い、昨日から風呂に入っていないだろう。 いくぞ」

 

「わ、わ、待って待って! それだけは本当にヤバいんだってぇー!!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「先に入っている、準備が出来たら来ると良い」

 

もはや絶滅危惧種と化した銭湯の前、どこぞで買ってきたのか風呂桶とタオルを抱えた日向さんが扉を潜って店内へと入る。

一人外に取り残された俺はどうするまでもなく、黙々と煙が立ち上る長煙突を見上げていた。

 

「……昔な、うちの風呂が壊れた事があるんだよ。 湯沸かし機能が駄目になって……そんな時にこの銭湯には世話になったなぁ……」

 

《マスター、現実逃避しても何も解決しませんよ。 どうするんですか?》

 

「どうしようかな……一応護衛対象から離れるのは不味いんだけど超逃げたい……」

 

《でしょうね、状況的に仕方ないとは思いますがこのまま女湯に行くなら私はちょっと引きます》

 

「言うなよ、傷つくぞ……」

 

さて本当にどうしたものか、日向さんの身を案じるなら女湯に突撃すべきだろう。 しかし変身も出来ない自分に何が出来る。

だが肌や紙が泥に汚れたままじゃ格好もつかないのは事実だ、なにせ昨日の戦闘から一切風呂に入ってないもので結構汚れているはずだ。

 

《魔石を食べさせてもらえれば身体状況はリフレッシュ出来ますけど、あいにくストックも手元にないですしねー》

 

「はぁー……これは本当に覚悟決めるしかないか、もしくは――――」

 

「――――ねえ、ちょっとそこのアンタ!」

 

「……ん?」

 

腹を括ろうとしたその時、俺の決意をかき乱すかのように誰かが話しかけて来た。

振り返るとそこには勝気な印象を受ける吊り目の少女が立っていた。

年齢は中学1年生ぐらいだろうか、ボブショートに切りそろえられた髪、ホットパンツが隠れるくらいのダボついた薄いパーカーを羽織った格好はともにスポーティーなものだ。

 

「ちょっと人を探してるんだけど、聞いていいかしら?」

 

「あ、ああ。 俺でよければ……誰を探してるんだ?」

 

「えっとね、自信満々で自分が太陽だと思い込んでる異常者で見た目がモデルみたいなやつで……」

 

「…………ん?」

 

なんだろう、その人物像について激しい心当たりがあるような気がする。

しかもその人はついさっき銭湯に入って行ったばっかりだ。

 

「……それで、私の親戚という人生最大の汚点なんだけど、何か知らないかしら?」

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