俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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たとえ忘れられたとしても ⑦

「―――――ああ、君が例の子かな? ()()()()()()だね」

 

「……()()()()()()、思ったより元気そうで」

 

教えてもらった病室の扉を開けると、ベッドで半身を起こした父さんと、そのそばでパイプ椅子に腰かけた母さんが待っていた。

丸飲みにされた恐怖からか、少し顔色こそ悪いが、体調に異常はないという話は聞いている。

親子間で交わす“はじめまして”に少し胸が痛むが、その診断結果は吉報だった。

 

「いやぁ、本当に助かったよ。 君達がいなければ私は今頃命が無かっただろうね」

 

「礼ならもう一人の子に言ってください、俺は何もしてないので」

 

魔物に襲われた被害者ということで、特別な事に個室があてがわれている。

つまりこの病室はいま親子水入らずという状況だが、微妙に居心地が悪いのは何故だろう。

 

「いいえー、あなたのおかげよ。 秀ちゃんを助けてくれてありがとぉ」

 

落ち着きなく椅子の上でゆらゆらと体を揺らす母さんがニコニコとした笑顔をこちらに向ける。

腕に抱いたウサギのぬいぐるみと相成り、その表情は年不相応に若く見えてしまう。

 

「……けど、なんであんな場所に居たんだ?」

 

表現は悪いが、あの辺りは殆どの店が閉まっているシャッター街だ。

昔はもう少し繁盛していたが、すぐ近くにショッピングモールが出来たせいでトドメを刺された。

実際に俺と日向さんが通った時も、空いてる服屋を探すのに苦労したぐらいだから記憶に間違いはない。

 

「ああ、そうだな……子供に話す話ではないかもしれないけど、僕の妻は少し心が疲れてしまっていてね」

 

「……?」

 

話の内容をよく理解していないのか、母さんが首をかしげる。

まるで子供みたいなその一挙一動、どれもこれもが俺の記憶の中にある母さんの姿からかけ離れたものだ。

 

「いつもは病院で生活しているんだけど、たまにあの辺りを散歩するんだ。 家族の思い出の場所でね」

 

「……それは、運が無かったな」

 

もちろん覚えている、昔は母さんについて回ってあの商店街でよく買い物をしたものだ。

荷物が多くなったときは、お礼とばかりに帰りに寄った肉屋でコロッケを買ってもらった事を覚えている。

 

「ああ、本当にね。 この町に魔物が出てくるなんて何年ぶりになるだろうか……あれは、倒せるのかな」

 

「倒しますよ。 敵の戦力を過小評価することは出来ないけど、魔法少女達ならすぐにでも」

 

ラピリス、ゴルドロス、シルヴァ、ドレッドハート、そこに暁も加えれば計5人。

あのトカゲが気の毒になるほどこの町に揃った戦力は過剰だ、大抵の魔物なら苦戦もせずに駆逐できる。

もっとも、万が一があり得るのが魔物という生き物だ。 だからこそ今ここで戦いに参加できないでいる自分の無力が歯がゆい。

 

「……君、どうかしたのかい?」

 

「えっ……ああ、いや。 何でもない、です……」

 

「本当? すごく辛そうよ、凄く悲しそう」

 

そういえばラピリス達にも指摘されたが、俺はそこまで分かりやすいだろうか。

今の母さんに心配されるなんて相当だ、気を付けないと。

 

()()()()()()() お母さん心配だわ」

 

「――――――――……」

 

「ゆ、夕さん!」

 

母さんの言葉を父が慌てて制止するが、もう遅い。 口から吐いた言葉は止められない。

月夜の名前が出て来て一瞬頭が真っ白になったが、そうか、()()()()()()()

 

「……今のは、娘さんの名前かな?」

 

「あら、ごめんなさい。 なんだか似てるから……ええ、私の可愛い一人娘なの。 今はね、ちょっとお出かけしているのだけど」

 

「す、すまないね。 妻が失礼な事を言ってしまった」

 

「いや、良いよ。 大事な娘さんなんだろ? ……そうだな、帰って来ると良いな」

 

すると、腰ポケットにしまい込んでいた携帯が着信音を鳴らして震えだす。

タイミングが良い……いや、それとも悪いのだろうか。

 

「っと、すみません。 あまり長く喋っても体に障るだろうしこの辺で」

 

「ああ、次はぜひもう一人の子も連れて……まあ、その前に退院かな。 今度はちゃんとお礼もさせてもらうよ」

 

「……ええ、どうか次の機会があれば」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

病室を後にし、人気のない廊下の端まで出てから通話ボタンをフリックする。

 

「……俺はマナーモードにしていたはずだぞ、ハク」

 

《マスターのバーカ!! なんで文句の1つも言い返さないんですか!!》

 

耳にあてるやいなやピーカーから浴びせかけられたのは大音量の怒声。

やはりというかなんというか、着信の主はハクだったか。

 

「バーカ、文句言ってどうなるんだ。 俺が七篠陽彩だって言って信じてもらえるとでも?」

 

《だって、酷くないですか! 妹さんの事は覚えているのに……》

 

「酷いも何もあるかよ、むしろよかったよ。 2人揃って忘れられてなくて」

 

俺だけでなく、月夜まで綺麗さっぱり忘れられていたらそれこそ冷静じゃいられなかっただろう。

……月夜の事は覚えているからこそ母さんの心が壊れていると考えると、酷いことを願ってる息子だとも思うが。

 

「第一お前が怒る理由はどこも無いだろ、後悔がないと言えばうそになるけど……俺がこうなったのは自業自得だ」

 

《…………すごく自分勝手な事言って良いですか》

 

「どうぞ」

 

《マスターに酷い仕打ちしておきながら忘れましたで済まされて、「ごめんなさい」の一言もないのがとても腹立たしいです》

 

「あはは、そりゃどうも」

 

《マスター、私結構本気で怒ってますからね! あんたはもー本っ当に自分の事になると無関心極まってますから!!》

 

画面から聞こえてくるがなり声は一向に止まる様子がない。

これは暫くほとぼりが冷めるまで付き合うしかないか、痛くなってきた耳からスピーカーを離してふと窓の外を見やる。

 

《だいたいマスターは―――――……》

 

「……ん? どうした、ハク?」

 

すると、一向に止まる気配のなかったハクの口撃がピタリと鳴りやむ。

どうしたのかと思って画面に視線を移すと、ハクは今まで俺が見ていた窓の外をじっと見つめていた。

 

《……マスター》

 

「ハク、どうした。 何か見つけたか」

 

《―――――まっすぐ走って!!》

 

「っ――――――!!」

 

考えるよりもハクを信じて駆け出した背後から、突然けたたましくガラスが割れる音が鳴り響いた。

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