俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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たとえ忘れられたとしても ⑧

「……本当にここなんですか?」

 

「ええ、確かに反応はここからよ」

 

変身を完了した暁が先導し、やって来たのは町の外れにある廃ビルだ。

元はデパートか何かだったのだろう、ペンキが掠れた看板だけが当時の哀愁を思わせる。

 

「サソリちゃんたちはこの中に入って行ってそこから先は音信不通よ」

 

「反応が途絶えた……というのはどういう状況が考えられるのだ?」

 

「んー、まあ順当に考えたら目標に当たって爆発したってところね。 サソリちゃんは火力は低いけどどこまでもしつこく追い回すから」

 

「もしくは敵によって破壊されたか……どちらにせよサソリは既にご臨終カナ」

 

「でしょうね。 手負いの魔物は何してくるか分かりません、気を引き締めて行きましょう」

 

私を先頭に置き、その後ろに暁を挟む形でゴルドロスとシルヴァが追従する。

がらんどうの屋内は見通しはいいが空気は滞っている、風の揺らぎを使った索敵はあまり過信しない方が良いだろう。

しかし……一階、二階、三階と足音を殺して慎重に探索を続けていくと、目的の魔物は驚くほどあっさりと見つかった。

 

≪グゲ……グゲ……≫

 

「……居たわね。 嘘でしょ、一番弱い爆弾よ?」

 

階段を上がり、四階の扉を開くとすぐに部屋の隅で丸まったトカゲと対面した。

その顔は細かな鉄片が突き刺さり、顔の片側は焦げ付いて視力を失っている。 サソリ爆弾にやられたものだろう。

 

「ゆ、油断はしない方が良いぞ。 窮鼠……いや窮蜥蜴に噛まれても笑えない」

 

「シルヴァ―ガールの言う通りだヨ、遠くからトドメを刺そうカナ」

 

「ええ。 頼みます、ゴルドロス」

 

トカゲは既に大分衰弱しているようにも見えるが、万が一の可能性を考えて近づかずにトドメを刺す。

ゴルドロスがサイレンサー付きの小銃を取り出し、トリガーを引くと「ぱすん」と気の抜けた音を鳴らしてトカゲの眉間に風穴が穿たれる。

僅かな痙攣、そしてトカゲの身体は力なく投げ出される。 尻尾の先から消滅していくところを見るに今の一撃で絶命したのだろう。

 

「ふぅ、思ったよりあっさり片付いたネ。 じゃあ箒と合流しようか」

 

「えー……アタシもっとこう、ドッタンバッタンバトルするかと身構えてたのに」

 

「戦わなくて済むならそれに越したことはありませんよ、魔石を回収して帰りましょうか」

 

「……待て、皆よ。 あれはなんだ?」

 

1人だけトカゲの消滅を観察していたシルヴァが、何かに気付いた。

彼女が差した指の先、消滅しつつあるトカゲの背後から白い球体のような何かが姿を現す。

見た目の印象は「大きなピンポン玉の群れ」だった、数ある中の幾つかの球体は破れてひしゃげている。

 

「……あれは、まさか」

 

脳裏の中で過る答えを否定し、疑問が口から零れた。

どうしても頭の中にある常識が、喉元まで登ってきた答えを否定する。

 

「なにって……タマゴ、カナ?」

 

「タマゴってアンタそれ……ああ! そうか、やっちまったわ!!」

 

いち早く何かに気づいた暁が体を反転させ、駆け出す。

唐突なその行動に面食らったが、魔女を単独行動させるわけにもいかない、すぐにその後を追う。

 

「ちょっと、なんですか急に! 何か気づいたなら教えてくださいよ!」

 

「アレ見て気づかないの!? 魔物のタマゴよ!」

 

「それはありえないです、魔物は繁殖しません。 魔力を源に無から生み出される……」

 

「だったらタマゴの説明がつかないでしょ、だったら言い方変えるわ! ―――――()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

≪ゲゲキョオオオオオオ!!!≫

 

「――――なんでこいつがここにいるんだよ!!」

 

《文句言っても仕方ないです、まずは逃げてください!!》

 

窓を壁面ごと突き破って現れたのは、先ほども商店街で見たトカゲの姿だ。

脇に設置された火災ベルを叩き、長い廊下を駆け抜ける。

けたたましく鳴り響くベルに異常を感じて避難してくれるならよし、多少手間取ってもその時間は俺が稼ぐ。

 

《マスター、また何か余計な事考えてません!? 真っ先に逃げて良いんですよあんたは!》

 

「駄目だ、絶対に駄目だ! 他でもない俺がそれを許さない、そもそもあいつ何でこんな所に居るんだよ!」

 

《しつっこい相手ですね本当! 喰い逃した相手がそんなに惜しいんですかね!?》

 

「喰い逃した……って!」

 

ハクの言葉を聞いて体を反転、俺を追いかけてくるトカゲに今度は突進する。

食い逃した相手に執着してるならこっちの方向は駄目だ、父さんたちがいる。 絶対に巻き込めない。

 

《ああああああしまった失言! マスター今のは忘れ……られませんよねーそうですよねー!!》

 

「悪いなハク! 命懸けだが付き合ってくれ……よっ!!」

 

あわやそのまま大口を開けたトカゲに丸飲み……される前に身体を倒し、トカゲの腹の下を滑り抜ける。

小さくなった体だから出来る芸当だ。 そして腹の直下を潜る寸前、おそらく急所であろう柔らかい腹部へスマホの角を思い切り突き立てる。

 

≪グッギャゥ!!?≫

 

《へぶっち!!》

 

「すまん、ハク! ほらこっちだぞバカトカゲ!!」

 

やはりハクの宿ったスマホならただの打突でも効く。 大したダメージにはならないが、痛みに悶えたトカゲは憎々し気に俺を睨みつけて来た。

ハクには悪いことをしたが謝るのは後だ、敵のヘイトが向かっているうちに廊下の突き当りにある非常階段へと逃げ込む。

 

《ま、マスター……非常事態だから目を瞑りますが後で文句は言わせてもらいますよ……》

 

「悪かったって! このまま外まで引き付けるぞ!!」

 

後ろからは扉に重いものがぶつかる音が何度も聞こえてくる、振り返っても良い光景は広がっていないだろう。

多少でも扉が持ち堪えている間に距離を稼ぎ、そのままこいつを外まで誘導するしかない。 そうすればラピリス達が戻って来るはずだ。

 

《……マスター》

 

「なんだ、恨み言ならあとで……」

 

《違います、窓の外……!》

 

ハクに促され、階段脇の小さな窓に目を向ける。

だけど……ああ、見なければよかった。 危うく階段から足を踏み外すところだったじゃないか。

 

「……なんだ、これ?」

 

窓の外には、バスケットボール大ほどのトカゲがびっしりと張り付いていたのだから。

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