俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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たとえ忘れられたとしても ⑨

背後の扉が耐久力の限界を超え、歪んだ扉を跳ね除けてトカゲがその姿を現す。

同時に“親”の登場に歓喜のような声を上げ、へばりついた窓を叩き割って子トカゲの軍団が入り込んできた。

その数はパッと見ても十や二十ではない、そして全てのトカゲが縦に細い双眸を俺へと向けているではないか。

 

「……ヘビに睨まれたカエルの気分が初めて分かった気がするよ」

 

《相手はトカゲですけどねぇ……マスター、走って!》

 

「無茶言うなぁ!!」

 

前門の群れ、後門のオオトカゲ、逃げ場がない中で活路を見出す為に覚悟を決めて跳躍する。

子トカゲの群れを超え、なんとか踊り場に着地。 足の痛みを無視して落ちる様にさらに階段を駆け下りる。

後ろ髪に何かが掠めた気がするが振り返って確認する余裕も度胸も無い、幸いなのは親ともども標的が俺という事だ。

 

《マスター、ドレッドちゃんから着信です!》

 

「手が離せない、そのまま繋いでくれ!!」

 

《アイアイサー! もしもしこちら箒組でーす!!》

 

ハクが通話を繋げると、ピーという音の後にエンジンを吹かす低音がスピーカーから響く。

その中に混ざるのは多くの人の悲鳴やトカゲのものと思われる甲高い鳴き声だ。

 

『もっしー! 生きてる!?』

 

「死にそう!!」

 

『ならまだ生きてるわね、オッケー! そっちは今どこ? 状況は?』

 

「トカゲが出た、デカい奴だけじゃなく小さい……といってもバスケットボールサイズの奴もぞろぞろだ! そっちこそ大丈夫か!?」

 

『今病院の近く! だけど同じくわらわらちっこいのが湧いて出てるわ! 今は避難とトカゲ退治で手一杯!』

 

話の合間に聞こえてくる柔らかい何かにぶつかる鈍い音はつまりそういう事だろう。

ワイパーで窓を拭う音も断続的に聞こえるため、相当な激戦のようだ。 

 

『つまりそちらに伸ばす腕が足りない状況だ、何とか堪えてほしい』

 

「その声、日向さんも今一緒なんだな? なんとかオオトカゲ連れてそっちに合流する!」

 

『ああ、無茶だけはするな。 すぐに他の魔法少女も駆け付ける』

 

「……無理せず何とかなるならそうしたいところだけどさ」

 

《―――――マスター、来ますよ!!》

 

通話を切り、二度目の踊り場に設置された非常扉を開け、僅かな隙間に身体を滑り込ませる。

一拍遅れて閉めた扉の向こうから聞こえてくるのは踊り場にトカゲ軍団がなだれ込み、衝突しあう苦悶の声だ。 一瞬でも遅れていたら飲み込まれて潰されていただろう。

 

「ハァ……ハァ……! クソ、体力つけておくんだった……!」

 

すでに全身に倦怠感がのしかかって来る、いつもの身体に比べて体力も脚力も段違いに低い。

これまで散々突きつけられてきた無力感がここにきて俺の逃げ足を邪魔立てする。

 

《どうします? この程度の扉すぐに突き破ってきますよ!》

 

「分かってるよ……! すぐに次の手を――――」

 

打とう、と背後を振り返る。 広がる景色は先程までいた1階上と同じ長い廊下だ。

だが阿鼻叫喚。 先ほどまでと違うのは廊下の壁面に並ぶ窓の殆どは割れ、そこから大量のトカゲが侵入している事だ。

纏わりつくトカゲを振り切り、点滴台を伴いながらよたよた逃げる患者たちの姿。 床に所々零れている血痕は致死に至るものではないと信じたい。

 

《……ま、マスター……これ、もう》

 

「言うなハク。 ……言ったところで何も状況は変わらない」

 

背後の扉はいつ打ち破られてもおかしくない、だが前方に逃げ場はない。

だが諦めて膝を折る暇なんてない、それに廊下にはまだ子トカゲに襲われて逃げ遅れている患者の姿もある。

 

「……ハク、悪い。 乱暴に使わせてもらう!」

 

《しゃーないですねぇ! バッチコーイ!!》

 

やはり子トカゲも魔力のない攻撃は効き目が悪いようで、一度絡みつかれたら振り解くのは難しいらしい。

だがこちとら魔人付きのスマホだ、患者に噛みつくトカゲの脳天にスマホの角をお見舞いし、1匹1匹を無理やり引き剥がす。

 

「逃げろ、早く!!」

 

「ひ、ひいぃ!!」

 

襲われていた青年は松葉杖をつきながらヨタヨタと反対側の非常口へと逃げていく。 多少の負傷は見られるが命に関わるものじゃない、どうか無事に逃げてくれ。

 

《……で、我々は仲良くヘイトを買ったわけですね。 今更逃げる訳にはいきませんよ》

 

「ああ、どの道向こうも逃がしちゃくれねえよ……」

 

誰かを逃がすという事はそれだけ自分が逃げる余裕がなくなるという事だ。

それだけ時間を掛けてしまえば鉄の扉など藁の楯みたいなものだ、轟音をがなり立てて非常口の扉が蝶番を跳ね飛ばした。

床に転がった扉を踏みつぶし、子トカゲの群れを引き連れた親玉が顔を出す。

 

≪グギルルルル……!≫

 

獲物を前に舌なめずりをするオオトカゲ、それに合わせて周囲の子トカゲたちが俺を取り囲む。

ボスの一声にしても並外れたチームワークだ、こいつらテレパシーのようなもんでも使えるのか?

 

《……ひとつ予測なんですけどね、このベビーたちはいわば子機のようなものじゃないでしょうか》

 

「子機か……だとしたら?」

 

《親機を潰せば諸共消える可能性があるかもしれません……まああくまで予測ですけどね》

 

「なるほどな、まあ希望が増えるのは良いことだ」

 

問題は予測を立てても、こいつらを倒す手段がないということだ。

状況は万事休す、俺の命も秒読みだ。 そろそろ助けがないと不味いかもしれない。

 

「……覚悟決めるか、ハク。 最悪奴の腹の中でもうひと暴れだ」

 

《絶対嫌ですねそれは! 粘液ネチョネチョまみれなんてごめんです!!》

 

トカゲたちは距離を測りながらも今か今かと飛び掛かろうとしている。

諦めるな、ラピリス達もこっちに向かっている。 それまで1秒でも多くこいつらの気を……

 

「――――月夜ちゃん!!」

 

……しかし、そんな俺の耳に聞こえて来たのは望んじゃいない救援の声だった。

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