俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある魔法少女について ④

《良かったですねマスター……変身していたら開幕ペチャンコまででありましたよ》

 

「まったく、だな……」

 

「何ブツブツ言ってんの、てかあんた大丈夫? 何でこんな所にいんの?」

 

魔法少女としての姿だったらこうも和やかに話は進められていないだろう。

認識阻害様様だ、まあ今もあまり生きた心地がしないけど。

なにせ昨日まで敵としてバチバチ戦りあってたヴィーラが目の前にいるのだから。

 

「い、いやー……はははは……そ、そっちこそその格好は何だいったい?」

 

「ん? ああ、知らない? 私って今巷で噂の魔女って奴、ヴィーラって聞かない?」

 

《毎日のように聞いているんですけどねこちとら……》

 

脳内回線に切り替えたハクのひそめた声が聞こえてくる。

幸いにもヴィーラはこちらの正体に一切気が付いていないようだ、こちらとしても本調子でない時に相手したくない魔女なので大変助かるがここからどうしたものか。

 

「んー……泥まみれ、何だか汗臭いし……もしかして訳あり?」

 

「えっ、いや俺は……」

 

「ま、いいや。 こんな所でホームレスみたいなことしてるんだしそういう事っしょ、おいで」

 

こちらの話を聞かず、強引に俺の腕を引っ張るヴィーラ。 そのまま彼女が鉄槌を振り回し軽く地面を叩く。

彼女が持つ“反発”の魔法のせいだろうか、その一振りで俺たちの身体は風船のようにふわりと飛び上がる。

 

「う、うわっ!」

 

「よっと、高度上げるわ。 マジ振り落とされたら危ないからしっかり掴まってな」

 

戦闘中は豪快に障害物を薙ぎ払ったり空気を押し出して辺りを更地にするような驚異的な魔法だったが、こんな繊細な使い方も出来たのか。

ヴィーラに小脇に抱えられた俺は情けなくその腰にしがみつく、みるみる遠ざかる街の姿は落ちたら命はないことを悟らせる。

 

「……で、改めて聞くけどなんであんなところいたの?」

 

「えっ? あ、えっと……帰る場所がなくて?」

 

まあ嘘は言っていない、ヴィーラが来なければ俺はあのまま野宿するつもりだった。

……しかし、考えてみればこの状況はチャンスかもしれない。

 

「あーね。 ……どこもかしこも碌な親ってもんがいないなぁ」

 

「そ、そういやヴィーラ……? これ、今どこに向かってんだ?」

 

「ん、とりまアタシの家。 あんたみたいなの拾うのが趣味だからさ、風呂ぐらい貸すからさっぱりしな」

 

《……マスター、ちょっと罪悪感感じますね》

 

ヴィーラからすれば一人で野宿しようとする子供を1人拾ったという状況だが、こちらから見ればただ騙しているだけだ。

敵対関係にあるとはいえ、こうも無防備に接されるとこちらも胸が痛い。

 

「……ちょっと待って、アンタみたいなのってことは他にも?」

 

「ん、いっぱい拾った。 アタシも時間だけならあるし、金もそこそこあるから。 すげーんだぜアタシ、魔女のリーダーやってんの」

 

「そっか、それは……すごいな」

 

「んっふー、そう? やっぱそう思っちゃう?」

 

自ら茶化すように言ってはいるが、ヴィーラは照れが隠せていない。

そうこうしている間に真下は段々と景色が変わって来る、街並みから外れ河川敷からアーケードの屋根を超え、今は背の高い建物が並ぶマンション街だ。

 

「……ん、見えて来た。 あそこがアタシん家、見た目悪いけど気にしないで」

 

《ありゃりゃ、こりゃあまた随分と歴史を感じますね》

 

ハクがヴィーラに聞こえないようにぼやく。

指し示されたのは古い木造建築のアパートだ、年季が入った手すりや扉はさび付いている。

近くに設置された駐輪場や駐車場はガラガラな辺り、単に人が住んでいないのか皆出かけているのか。

 

「ま、ボロっちいけど今すぐ崩れたりってこたないでしょ。 アタシの部屋は階段上って一番奥んとこ」

 

「お、おお……今更だけど、いいのか?」

 

「なーに、困ってるときは助けあいっしょ。 まー魔法少女は皆敵みたいなもんだけど、それ以外は特に邪険にする理由もないしね」

 

アパート近くに軟着陸し、階段を上って一番奥の部屋の扉を開く。

……中からあふれて来たのは冷房の涼しい空気と、鼻を突く生ごみの臭気だった。

 

「――――…………」

 

「あー、まーた冷房つけっぱなしだし……まあ、散らかしてないしいいか」

 

「これでか!? これでまだ散らかってない方なのか!?」

 

部屋の中は足の踏み場がないほど数多くのゴミ袋の山と脱ぎ散らかした衣類で散らかっていた。

軽く見渡した中で確認できるゴミは、カップ麺やらコンビニ弁当の残骸が多い。

この臭気の原因は夏の暑さで熟成された食べ残りやカップ麺の残り汁かなにかだろう。

 

「あー……2人とも忙しいからあんま片付ける暇ないんだよね。 ま、それでもたまに片してるし、ゴミ問題で騒ぎにゃなってないから良いっしょ」

 

ヴィーラ本人はあまり気にしていない様子だ、一見踏み場がなさそうな足場を器用に進み、ゴミ山の中からタオルや未開封の石鹸を発掘していく。

……まさかそれを使えと?

 

「風呂場はこっちの奥ね、まあ何するにしてもさっぱりしてからの方が……」

 

「……駄目だ」

 

「へっ?」

 

「風呂入ってもこんな部屋どうせ汚れるだけだ! 先に片付けるぞ、風呂だろうが何だろうがそのあとだ!!」

 

あまりの惨状に溜まらず、手当たり次第にゴミ袋を引っ張り出して中身を纏める。

ゴミ袋の中身もろくに分別されておらず、ぐちゃぐちゃだ。 廃棄するにしてもまずはこれを整理しないと捨てられやしない。

 

「ヴィーラ、汚れてもいい格好に着替えろ。 こんな所で生活しちゃ駄目だ、床を拝むまで今日は寝れないと思え!!」

 

「え、えぇ!? ちょっ、ま……」

 

ヴィーラの制止を無視し、作業の手を進める。 こんな不衛生な所で落ち着いて風呂になんて入ってられるか。

魔女の調査とか、俺の姿を元に戻すとかは全部後回し。 まずはこの部屋を片付けないと俺の気が済まない。

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