俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある魔法少女について ⑤

「そこ、ゴミはちゃんと分別する! 床は丸く掃くな、隅に埃が溜まる!」

 

「ペットボトルも虫が湧くからジュース類は中を濯いでからキャップとラベルを剥がして捨てる事!」

 

「冷蔵庫の中身も賞味期限切ればっかじゃないか! 捨てるぞ全部!!」

 

「ね、ねえ? 流石にエアコンくらい回して……」

 

「駄目だ」

 

「ひ、ひぃー!!」

 

ヴィーラと共にゴミが散乱した部屋の惨状を整理する。 彼女は既に変身を解き、体操服に着替えて口元を(比較的綺麗な)バンダナで覆っている格好だ。

開け放った窓から容赦なく流れ込む熱気に汗がにじむが、窓を閉め切ると臭気が逃げない。

 

「他の住民がいないこの時間帯がチャンスなんだよ、掃除終わったら徹底的に脱臭だ」

 

「マ? 細かすぎるっしょあんた……あー……そういや名前聞いてたっけ?」

 

「名前? あー、えっと……箒」

 

「ん、箒? はいこれ」

 

「いや違くて、名前が箒なんだって」

 

ヴィーラから差し出されたプラスチック箒を片手で押し返す。

まあ掃除してる最中なら勘違いする様な名前だ、我ながら安直だしもう少しマシな偽名を考えておくべきだろうか。

 

「ん、名前が箒なん? 変なのー、キラメキネームってやつ?」

 

「うっせ、そういうそっちの名前は? ヴィーラは魔法少女名だろ」

 

「え゛っ、あ、アタシ……? いや、別に名乗るほどのもんじゃないっていうか」

 

「一方的に名前聞いといてそりゃないだろ、それともそっちの方がよっぽどの……」

 

「…………ラン」

 

「んっ?」

 

「美蘭……藤崎 美蘭(ヴィラン)! 悪い!?」

 

雑巾を握り締めて俺を睨むヴィーラの顔は真っ赤だった。

美蘭……ヴィラン? それはまあ、なんというか……

 

「……ほら、読みにくい名前だったり精神的に辛いときは改名も認められるらしいし」

 

「慰めんなし! ぜんっぜんこれくらい何とも思ってないし、バーカ! バカ箒! ちりとり!!」

 

「ち、ちりとりは悪口かぁ!?」

 

喧嘩しながら作業の手が止まったりもしたが、それでも何とか日が暮れ切る前には何とか床が見えるまで状況は改善できた。

しかし美蘭とヴィーラ……まあ、繊細な問題だろうし今後ともヴィーラと呼ぼう。

 

「はぁー……ひっさびさにこんなきれいな床拝んだわ、やるじゃん箒」

 

「まだ床が見えただけだろ、流石に今日は日が遅いし洗濯は明日……それにまだまだ問題は多いしな」

 

9割分別が済んだゴミ袋はまだ部屋の隅に積みっぱなしだ、それぞれのゴミの日に処分するとしても日にちがかかる。

洗濯物もゴミから漏れた変な汁がしみ込んだ奴やら雑巾代わりに使った再生不能の布類などが山のように残っている。

明日は晴れの予報なので、こちらも洗濯機をフル稼働させて片付けたいところだ。

 

「風呂も洗ったし埃と汗流そっかー、先入って良いよ。 アタシその間に飯買って来るし」

 

「夕飯か、冷蔵庫もほぼ空っぽだしな……って、お金はあるのか?」

 

ついいつもの癖で冷蔵庫事情は他より詳しく把握しているが、今晩の献立を仕立てられそうなラインナップはない、というかほぼ調味料だけだ。

そもそも米の支度が出来てないから何か買ってきた方が手っ取り早いのは分かるが、ちゃんと先立つものが無ければ意味がない。 まさか魔女とはいえ強奪するわけではないだろう。

 

「……金ならあるよ、ちゃんと親から貰った奴」

 

……すると、ヴィーラは懐からクシャクシャの一万円札を取り出し、少し悲しそうな顔を見せた。

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「あ゛ー……やっぱり日本人なら熱い湯に浸かりたいよなぁ」

 

《おっさん臭いですねぇ、というか目隠しのまま湯船に浸かるなんて危ないですよ》

 

汗と汚れにまみれた体を洗い流し、浸かる湯舟の快感は得も言えぬものだ。

未開封だったタオルの目隠しはハクの指摘通り危険が伴うが、俺の意地として断固としてこれは外さない。

 

《というか、ヴィーラちゃんが居ない間に家探しでもするかと思いましたよ。 それか彼女の買い物について行くか》

 

「家探しなら掃除しながら十分やったさ、それにあまりびったり張り付くと警戒されるだろ」

 

掃除しながら魔女たちに繋がる手がかりがあれば儲けものと思っていたが、結局なにも得るものは無かった。

ここで入浴しないまま家探しを続けても、それはそれでヴィーラが戻って来た時に訝しまれるだけだ。

 

「しっかし……ハク、気づいたか? 掃除している間に思ったんだけどさ」

 

《ええ、ランジェリーとか化粧品とかやけに高そうなものも散らかっていましたね、今マスターが巻いているタオルもかなりの高級ブランドですよ》

 

「道理で肌触りからなんか違うと思ったよ……」

 

部屋にはブランド物のバッグやアクセサリーなどの品々に、化粧品やら酒ビン、タバコと子供の教育の悪そうなものまで散らかっていた。

そしてすでに時間は20時過ぎ、だというのに両親は帰ってくるような気配もない。

ヴィーラに渡された一万円もそのことを見越したものだったのだろう、しかもこれが一回や二回というわけではないらしい。

 

《彼女のかなりキラメいてる名前といい……言っちゃ悪いですけど、ネグレクトってやつですかね》

 

「……見た感じ衣食住は足りてる、ゴミ屋敷だったけどな。 まだ断言はできないさ」

 

それでも、ヴィーラが魔女になる動機としては十分だったのか。

あの倉庫でぶつかり合った時の慟哭が彼女の本音なのだろう、“親に振り向いてほしい”と。

 

「……化粧品やバッグは客からの貢ぎ物か、おそらく母親は水商売の人間だろうな」

 

《どうしますかマスター、子供相談センターに連絡します?》

 

「いや、本人がそれを望まなきゃ無意味だよ……まあ、もう少し考えてみるさ」

 

鼻の頭まで湯船に沈め、口からブクブクと泡を吐き出す。

この先の段取りとしては「説得」が最良だ、だがその道のりは厳しいものに違いない。

もし、ヴィーラとまた意見を違えて、戦う事になった場合……

 

「……俺はどうしたらいいんだろうなぁ」

 

風呂場に反響する声に、ハクは答えてはくれなかった。

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