俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある魔法少女について ⑩

連日の激務もあり、今日は魔法局から直々に休暇を言い渡された。

学業に関しては政府からの手厚い保証もあり、1日2日の休みは問題ない。

お兄さんのいない店でずっと寝腐っていても体がなまるので、少し出歩こうと思った。

 

「…………ん?」

 

出来るだけ人目を避けながら街を歩く、一種の自主練のような気持ちで散歩に臨んでいるとそれを見つけた。

見覚えのある後ろ姿が1人と、見覚えのない後姿が2人、電柱の陰に隠れて何かの様子を窺っている。

はて、と視線の先を辿ってみるとそこはよくある民家だ。 丁度今玄関からアロハシャツを着たくたびれた様子の男性が出て来たところだ。

 

「なーにやってんですかねあの人は……」

 

通話に一切反応せず、こんな所でストーキングまがいな真似をしていたと思うとなんだか腹が立ってきた。

なので足音を消し、素早く彼女達の背後に張り付く。

 

「――――何をやっているんですか、箒」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「…………もう一度聞きますよ、何やっているんですか」

 

「え、えっと……」

 

嫌な汗が頬を伝う、俺を睨みつけるアオの視線で穴が開きそうだ。

まずい、この状況は非常にまずい。 魔法局と魔女が出会ってしまった。

アオが自ら正体を名乗るような事はないと思うが、ヴィーラたちが対応が間違えればその時点で一触即発だ。

 

《修羅場ですよ、マスター。 私はここから惜しみないエールを送りますので頑張ってください》

 

こいつは後で水に沈めよう。

 

「箒、誰この子? 友達?」

 

「人を殺しそうな目をしてる」

 

「え、えっと……」

 

まさか素直に魔法局の知り合いだなんていえるわけもない、どうにかこの状況からの打開策を考えなければ。

そうだ、冷静に考えてみればアオに退いてもらえればあとで事情を説明すればいい。 なら今はとにかくこの場を引いてもらう事だけを考えれば良い。

 

「……お、お前には関係ないだろ! へーんだ!」

 

《わー、雑》

 

決めたよ、こいつは熱湯責めにしよう。

 

「…………」

 

「な、なんだよ。 文句あんのかよ……」

 

ことさら鋭さが増したアオの視線に心が痛む。 あとで謝るからどうか許してほしい。

仕方ないんだ、ここでヴィーラたちに下手に勘繰られると動きにくい。

 

「……こ」

 

「こ?」

 

「この、浮気者ー!!」

 

「なっ……へぶっ!?」

 

目に涙をため、アオは振り上げた手提げ袋を投げつけて走り去る。

顔にぶち当たった手提げ袋の中身は財布や携帯などの貴重品が入っている、これを置いて行くなんて本人が一番困るだろうに。

 

「……ほ、箒って……まさかそっちの人!?」

 

「アダルティ、実にアダルティ」

 

「違うわ! ひっぱたくぞ!!」

 

「何だテメェら、うるせえぞガキ!!」

 

「わっ、バレた! やばいやばい、逃げるよ2人とも!!」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「ハァ……ハァ……! ヤッバ、久々に生身でこんだけ走ったわ……!」

 

「運動不足を……痛感する……!」

 

「2人ともあんまり錠剤を過信しない方が良いぞ……」

 

トワイライト邸から慌てて逃げ、辿り着いた近くのコンビニの日陰で3人仲良く腰を下ろす。

緊張状態での全力疾走で体力を使い切った2人はへとへとだ、暑さも相まって大粒の汗が滲んでいる。

 

「ほ、箒は……平気そうだね……なにか、スポーツやってんの……?」

 

「んー、まあこの程度なら問題ない程度には鍛えられてるかな……脱水になっても大変だ、何か飲み物買って来るよ」

 

「あ゛ー……アタシらも中で涼むし」

 

店内に入ろうとする俺の後ろを2人が付いて来る。

物を買わないで店内に入るのはマナーが悪いが、まあ俺が飲み物ついでにお菓子でも買うから見逃してほしい。

そう思いながら懐の財布を確かめ、自動扉を潜ると、同じぐらいの背丈の女の子と鉢合わせになってしまった。

 

「っと、ごめん。 前見てなかった」

 

「―――――無問題」

 

「ん……? あー、トワイr……むぐっ!?」

 

「―――――こんなとこで呼ばないで」

 

俺の背から少女の顔を覗き見たヴィーラが何かに気付いたようだが、機先を制してその口を掌で塞がれる。

早い、そして無駄のない動きだ。 もしかしてこの子が……

 

「……おそらく箒が思っている通り、()()()()()()()

 

こちらの視線だけの問いかけにパニオットが頷く、やはり彼女がトワイライトか。

液体窒素のような温度のない青い目に白い髪、人目を引く容姿だがケガをしているのか頬にはガーゼが張られている。

……そして何より、この時期に似合わない長袖の裾からは隠しきれない青痣が覗いていた。

 

「――――その子は?」

 

「ん? うちの新入り、箒ってんだ! 帰れないからちょっち預かってんの」

 

「あ、ああ。 よろしく……えっと、そのケガは?」

 

「――――……あなたが知る必要はない、邪魔」

 

そっけない態度であしらわれ、一瞥もされずに脇をすり抜けられる。

トワイライトの手にはビニール袋がぶら下げられ、その中には煙草の箱がカートンで詰まっている。

 

「ちょ、おま……待て待て!」

 

ギョっとして慌てて止めるが聞き耳持たず、足早にトワイライトは去って行った。

いや、買う方も買う方だが店員は何やってんだ。 子供にタバコ売りつけるとか何考えてやがる。

 

「……ケガ増えてんなー、また殴られたのかな」

 

「……またってことは同じような事が何度もあったのか?」

 

「ん、本人は庇ってるけどさ……何で庇ってんだろうね、あんなの」

 

袖から見えた青痣もきっとあれ一つだけではないだろう、他にもあるはずだ。

おまけに子供にタバコを買いに行かせるような奴だ、電柱の影から覗き込んだだけだがろくでもない奴だって事は理解できた。

 

「……箒、怖い顔してる」

 

「ああ、気にすんな……ちょっと怒ってるだけだ」

 

トワイライトの家の問題は根深い。 本人が親に依存している以上はこちらからもとやかく言いにくい。

だがそれでも手を出さないって訳にはいかない、おせっかいだろうが何だろうがあの父親は一発殴らないと気が済まない。

 

……この時既に俺は、アオへのフォローを半分ほど忘れていたのだった。

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