俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある少女の救出作戦 ③

「――――いいから、出てってよ!!」

 

急ぎ階段を駆け上る、あの声は間違いなくヴィーラのものだ。

俺がいない間に何があった? 敵襲……いや、アオとは先程まで話していたからラピリスではない。

ゴルドロスやシルヴァも違う、そもそも場所の特定すらできていないはずだ。 だったら誰だ?

 

「ヴィーラ! 何があった!?」

 

半開きのドアをこじ開けて、滑り込むように狭い玄関に飛び込む。

だが待っていたのは予想していたような光景ではない。 確かに部屋は荒れていた。

だが……床に脱ぎ散らかされた衣服や空のビール缶、ブランド物のバッグが入った紙袋などが散乱しているだけだ。

 

「出てけよ、クソババア! 昼間っから飲み腐りやがって!!」

 

「なによ、実の母親に向かって。 アタシが金払って借りてる部屋なんだからなにしたって勝手でしょぉ?」

 

「……ヴィーラ?」

 

そして、ちゃぶ台を挟んでヴィーラとビール缶片手に顔を赤く染めた女性が言い争いをしていた。

傍らにはオロオロと口を挟めずに戸惑っているパニオットもいる、これは一体?

 

「……ん? なに、また1人増えたわよ、あんたの客?」

 

「…………ごめん、箒。 今は出てって」

 

「箒ぃ? なにそれ、この子の名前? ッハ、変なの~!」

 

「っ……!!」

 

酒が回ってるのか、人の名前を肴にしてケラケラと笑う女性に向かってヴィーラの拳が振り上がる。

あわやそのまま暴力沙汰になる寸前、慌ててパニオットがその拳を止める。

 

「待って、ヴィーラ、駄目」

 

「話せよ、こいつは一回殴んないと!!」

 

「ほ、箒……手伝って……」

 

「あ、ああ! 待て待てヴィーラ!」

 

だが非力そうなパニオットではヴィーラを止めきれない、慌てて俺も協力してようやくヴィーラの暴走が止まる。

あらためて女性の方を見てみると、その格好は下着同然だ。 目の前でヴィーラが殴りかかろうとしていたというのに変わらず酒を煽っている。

そして酒の肴にしていたのだろうか、ちゃぶ台の上には、朝食の残りとして冷蔵庫に入れていた、卵焼きと野菜炒めが9割ほど食べられていた。

 

「……もしかして、この人がヴィーラのお母さん?」

 

「ああそうだよ、このババアが私の親。 何でこんな時間に帰って来てんだし……!」

 

「え~、別に私の勝手じゃなぁい? あ、もしかしてその白髪(しらが)ちゃんがご飯作ってくれた子? いやー、あんたがそんな気の利いた真似してくれるわけないしねぇ、しかも掃除まで」

 

「アタシらが作ったもんだし! それを勝手に喰いやがって……!」

 

「べっつに残りもんなんだからいいでしょ、ケチくさい。 私は仕事で疲れてんだからさー、労ってよちょっとくらい」

 

「男と遊んでたらふく飲み食いしてきたくせに? 食って寝て飲んで、そのうちブタになるんじゃない?」

 

「うっさいわねー、文句言うならあんたがちっとは稼ぎなさいよー」

 

缶に残ったビールを一息に飲み干し、彼女はふらついた足取りで寝床のある隣の部屋へ歩いて行く。

 

「夜はまた仕事だしぃ、寝るから。 ご飯ありがとね~、あと片付けよろ」

 

そして好き勝手言いながらこちらの反論を待たず、ピシャリと襖が閉じられた。

あとに残されたのは俺たち3人と、後味の悪い静寂だけだ。

 

「…………ごめん、箒」

 

「なんだよ、お前が謝るもんじゃないだろ。 言われた通り余りものだし、飯ならまた作ればいいだけさ」

 

「違う、アイツが箒の名前バカにした」

 

「……それならもっと気にすんな、酔っぱらいのたわごとだ」

 

《そもそもマスターが適当につけた名前ですからね》

 

外野、うるさい。 まったくもってその通りだが。

いや、本当に俺にとっては大した問題じゃないのにヴィーラがそこまで悔やむと俺も心が痛い。 助けてくれ。

 

「とりあえず、さっきの人がヴィーラの母ちゃんでいいんだよな?」

 

「うん……」

 

「仲が悪い理由は……まあ、聞かないよ。 なんとなくわかる」

 

今の短いやり取りだけでどれだけ反りが合わないのかは見せつけられた。

おそらくさっきの様な大ゲンカも一度や二度ではないのだろう。

 

「アタシが物心ついた時にはお父さんはいなかったよ、知ってるのはアイツが連れ込むいろんな男たちの顔だけ。 酒臭いし、タバコ臭いし、たまにアタシの事殴るし、どいつもこいつも嫌い」

 

「……そっか」

 

何も言えずに瞳に涙を湛えて震えるヴィーラの背中をぎゅっと抱きしめる。

そしてゆっくりと、落ち着かせるように背中を叩く。 昔はこうやって母さんに宥められたことを思い出した。

 

「いっつもあんな感じか、酒飲み空けてべろんべろんに酔っぱらって」

 

「うん、ろくにメシなんて作ってくれたことないし……家に帰るとほとんど寝て食って飲んで、会話なんてしないし」

 

「そっか、そりゃ酷いな」

 

あくまでヴィーラの話は否定せず、聞き入りながら宥め続ける。

印象から言えば俺もあの母親にはあまりいい印象が沸かない。 

だけどそれはヴィーラの視点から語られる話だ、あまり一方的に決めつけるのはいいもんじゃない。

 

「少し落ち着いて、それから話をしよう。 外も暑いし疲れたろ、休め」

 

「うん……うん……」

 

「……なるほど、これが誑しの技術」

 

「パニオット、静粛に」

 

暫く落ち着かせ、なんとかヴィーラも平静を取り戻したところで時刻は既に昼を過ぎていた。

……さて、昼飯はどうするかな

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