俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある少女の救出作戦 ⑤

「コルト、私は怒ってます」

 

「な、なにカナ急に……」

 

ギャラクシオンの襲撃からようやくクーラーが息を吹き返した作戦室、当時の被害を免れたソファではアイスキャンディーを咥えたコルトが寝そべっていた。

その手には付箋がびっしりと張り付けられたファッション雑誌が捲られている、だがあれの殆どは自分ではなく箒を茶化す為の目星をつけているのだろう。

 

「あなた、箒から魔女への潜入捜査に関する報告を受けていましたね?」

 

「………………な、ナンノコトカナー?」

 

「そうですか、では以前に縁さんが保管していたプリンを食べた犯人があなたであることを教えてきますね」

 

「はい!! 報告受けたヨ!!!!」

 

コルトは前科がある、5徹を超えた縁さんの唯一の希望であった毎日限定30個のシュークリームをたいらげた前科が。

その時の顛末についてはあまり思い出したくもない、コルトも相当深いトラウマになっているようですぐに真実を吐き出した。

 

「よろしい、ではなぜその話を私たちに共有しなかったのですか?」

 

「え、えっと……後日情報のシンピョーセーを確かめてから事態の混乱を招かぬよう慎重に動いた方がいいカナって」

 

「あははもっともらしい理由ですねおっと縁さん良い所に」

 

「サムライガールに話すと面倒くさいカナって思って黙ってたヨ!」

 

「ふ、二人とも……何してるの……?」

 

コルトの背後にある出入り口から入って来たのは縁さんではなく、詩織さんだ。

丁度いいタイミングで入って来たのでコルトを脅しつけてみたが、申し訳ないことに詩織さん本人はこの状況に困惑している。

 

「聞いてヨー、ビブリオガール!! サムライガールったら酷いんだヨ!」

 

「偏向報道はよろしくありませんよコルト、元はと言えばあなたの怠慢が原因でしょう。 聞いてくださいよ詩織さん」

 

「え、え、ええっとぉ……」

 

これはいけない、板挟みにされて詩織さんが混乱してしまった。

それに彼女自身もこの部屋に用事があったのか、その手には薄く束になった書類とシャーレが抱えられている。

 

「詩織さん、その書類は?」

 

「あっ、そ、そうだ……あのね、盟友の話を聞いてもう一度あの……ウィッチクラフト?を調べて……」

 

ズレた眼鏡を直し、詩織さんがわたわたとテーブルに書類を広げていく。

改めてシャーレの中に収められたものを覗き見ると、ゴマより1回り大きい黒いなにかが何粒か収められている。

 

「盟友が錠剤で変身して……解いた時に、何かを吐き出したって言ってたから」

 

「あー、そういえばそんなこと言ってたネ。 それで見つかったのがこれ?」

 

「うん、えっと……これはね」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

「……ブルームスターが、氷を?」

 

「そ、あんなん聞いてないし……炎使うって話だったのにあれ反則でしょ」

 

「それだけならヴィーラたちが負けるはずもない、明らかに異常な出力」

 

「………………」

 

《どういうことでしょうか、マスター?》

 

俺だって分からない、混乱している。

確かにあの倉庫は異様な冷気に覆われていた、だがてっきりヴィーラたちが原因だと考えていた。

しかしその考えには同時に、何故そんな事をする必要があったのかという疑問が付きまとっていた。

 

「確認するが、ヴィーラたちはおr……ブルームスターを追い詰めたんだよな?」

 

「そだよ、折角黒化体まで引き出せたのに……」

 

「こっかたい?」

 

「ブルームスターが見せる奥の手、巷ではそう呼ばれている」

 

「んな名前で呼ばれてるのかアレ……」

 

メディア露出が増えた弊害か、本人は“黒いの”とか“コゲてんの”とか良くて黒衣(こくい)としか呼んでないのに随分とカッコいい名前つけられたもんだ。

少しこっぱずかしいが顔に出ると怪しまれる、平常心平常心。

 

「トワイライトのナイフを突き立てた所までは良かった」

 

「だけど、その直後で突然人が変わったみたいに辺りが凍りついて……ドクターすらビビってたし」

 

「ドクターすら、か」

 

俺も記憶が曖昧だが、あの時のドクターは無敵の力を使っていたはずだ。

そのドクターが脅威と感じたのなら、記憶がない時の俺は相当な力を振るっていたらしい。

問題は再現性と周囲の被害か、仮に使いこなせたとしてもそのたびに辺りが氷漬けになっては滅多に使えない。

 

「あとなんかドクターとブツブツ話してたっけ、アタシらには良く聞こえなかったけど」

 

「その辺りのすり合わせも今夜行いたい、トワイライトも何か聞いていたかもしれない」

 

「俺もその話はちょっと気になるな、一度話してみたい」

 

「なに、箒ってブルームスターのファン? やめときなって、いい子ちゃんぶって絶対にアタシらとは反りあわないわ」

 

「そ、そっかぁ……」

 

今その毛嫌いしてるブルームスターと仲良くおしゃべりしてるって知ったら俺はどうなるだろうか。

おそらく、数秒後には敷金礼金を台無しにしながらペチャンコとなっているだろう。

 

「というわけで夜まで自由時間! アタシらは街の散策してくるけど……箒はどうする?」

 

「んー……外はまだ暑いし、俺は待ってるよ。 邪魔だってなら適当に外ぶらついて来るけど」

 

「んなこと言わねえし! ……けど、いいの?」

 

ヴィーラがちらりと閉じた襖の方に視線を向ける。 

寝ている母親が起きたら気まずくないか、ということか。

 

「気にするなよ、そうそう起きてこないってさっき言ってただろ? 夕飯の準備もしてるからさ、楽しみにしてな」

 

「ん……わかった、気を付けてね箒」

 

「ああ、無茶はするなよ。 魔法局だって昨日の今日で警戒してるはずだからな」

 

「もちろん、ただスカウトできそうな子を探すだけにとどめる」

 

2人並んで敬礼を決め、容赦なく日射が照りつける外の世界へと駆けだして行く。

一方、エアコンが寒いくらいに聞いた室内に残された俺はようやく人心地ついた息を吐き出す。

……いや、まだだ。 俺にはもう一つ仕事が残っている。

 

「……お世話になってる相手の両親にちゃんと挨拶しようと思いますので、狸寝入りはしなくて結構ですよ」

 

「―――――………」

 

後ろの襖に向かって声を掛けると、のっそりと先ほど熟睡していたはずのヴィーラの母親がはい出してきた。

カマを掛けたがやはりか、ヴィーラと話している間時々寝息が聞こえなかったのは耳を澄ませていたのだろう。

 

「どうも、変な名前ですが箒と言います。 以後お見知りおきを」

 

「……あんたぁ、本当にあいつの友達ぃ……? あぁ、頭いったぁ……」

 

「随分と飲んでるなぁ……まあ、寝付けないなら少し話でもしましょうか。 お水いります?」

 

ヴィーラの話は聞かれていた、つまりこの母親は魔女について知っているわけだ。

果たしてそれが今偶然聞いていただけなのか、それとも前々から知っていたのか。 

ヴィーラには余計なおせっかいかもしれないが、いま一度確認させてもらおう。

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