俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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ある少女の救出作戦 ⑥

「水どうぞ、随分飲んだでしょう」

 

「あ゛ー……気が利くわね」

 

コップになみなみと注いだ水道水をちゃぶ台に置くと、ヴィーラの母親は一息でそれを飲み干す。

荒々しくちゃぶ台の上に戻されたコップは空だが、そこへ改めて二杯目の水を注ぐ。

 

「どうぞ、酔い覚ましならどんどん飲んだ方が良いですよ」

 

「……あんた、いい嫁になりそうねぇ。 私とは大違い」

 

ケラケラと笑うヴィーラの母親、その表情には自虐的なものを感じる。

 

「まさか、女手一つでヴィーラを育ててたんだ。 こんなガキよりはずっとましだ」

 

「あはぁー……父親いないってどうしてわかったの?」

 

「ヴィーラはあなたの話しかしなかったので、何となくの予想ですけど」

 

「そうね、その通り。 見ての通り男に逃げられて落ちぶれた哀れな女よ私は」

 

自棄酒を煽るかの如く、彼女はコップの水を再び一息で飲み干す。

段々と目も冴えてきたのか、顔色に生気も戻り始めている。

 

「……ねぇ、あの子は私の事なんて言ってた?」

 

「良いことは一つも、散々なじってましたよ」

 

「でしょうねぇ、出来の悪い親だもの」

 

「……少なくとも、ヴィーラはそう思ってるみたいですよ」

 

「あんたはどう思う?」

 

「ヴィーラから聞いた話だけならまったくもってその通りだな、と」

 

三度目、飲み干された空のコップが卓上に力強く置かれる。

気分を害したか、と思ったが相変わらず彼女はゲラゲラと笑っていた。

……確かに渡したのは水だったはずだが、まだ酔いが残っているのだろうか。

 

「そっりゃぁそうね、私もいやだわぁこんな親」

 

「自覚があるならなんで……」

 

「あの子ねぇ、私の子じゃないのよ」

 

まるで世間話の様な軽さで切り出されたその話に二の句が詰まる。

 

「赤ん坊のころにさぁ、あの子の父親が連れて来たのよ。 “俺の連れ子だ”って言ってねぇ」

 

「……それを本人には?」

 

「話すわけないじゃない。 だって酷いのよ、その男ったら子供押し付けたらそのまま蒸発しちゃうんだもの」

 

「それはまあ……酷いな」

 

殆ど厄介払いの様な形で押し付けられたものじゃないか。

何も言えない赤子1人、見捨てる事もできない。 彼女は何も言わず、ヴィーラをここまで育て続けた。

 

「でしょう? そこから女手一つで育ててんだけどさー……なんか、接し方とかよく分かんなくてさ」

 

ヴィーラの母親は気まずそうに頬を掻いて乾いた笑いを零す。

当たり前だ、血の繋がりもないはずの突然与えられた子供なんてどうしたらいいか分からない。

真実を伝えることもできないまま、今の今まで気まずい空気が2人の間にあったのだろう。

 

「まあ、嫌われてんのはいいんだよ。 私も正直どうしたらいいか分かんないままだし……こんな商売でしか生活する金も稼げないんだしねぇ」

 

あらためて部屋の中に散乱していたブランドバッグやら何やらを思い出す。

扱いは雑だったが、随分と男に貢がれているのか。 贈り物のブランド力はゴミ山から見つけた売却履歴のレシートが物語っている。

 

「……あいつ、学校とかで虐めれてんじゃないの。 親がこんな商売してるとさ」

 

「……多分大丈夫ですよ、ヴィーラは強い奴なんで」

 

「それ、そのヴィーラっての! 名前もさぁ、変えようと思ったんだけど……あいつにとって少ない親とのつながりだしさァ」

 

ちゃぶ台に突っ伏し、彼女はガシガシと頭を掻き乱す。

母親としてもやはりあの名前には納得していないのか、そうなると名付け親……ヴィーラの父親についてはやるせない怒りがこみあげてくる。

 

「……あいつ、今何やってんの? 盗み聞きしてたのは悪いけどさ、何か危ないことしてんでしょ」

 

「まあ、詳しくは自分の口から話せないけど……大丈夫ですよ、ちゃんと見張ってるんで」

 

「あんた本当に子供……? 将来仕事困ったらうちに来なよ、あんたなら絶対人気出るわ」

 

「あはは、後ろ向きに検討しておきます……」

 

懐で震えるスマホはハクが笑いをこらえているのだろう、あとでシメる。

まあ、もし一生この姿のままで生きる事になった場合は戸籍も無いわけだからお世話になる事もあるかもしれない。 そんな日が一生来ない事を祈るが。

 

「でも何やってるかは話してくれないんだ……まあ、いいわ。 あんたには飯作ってもらった礼もあるし」

 

「ああ、あの卵焼きはヴィーラが焼いたものですよ。 手伝いはしましたけど中々いい出来だったでしょう?」

 

「……ちょっと焦げてた、あと私は甘さ控えめの奴が好きだわ」

 

「自分で伝えた方がいいかと、おせっかいかもしれませんけどちゃんと“母娘”同士で話し合う機会は作った方が良いですよ」

 

2人に足りなかったのはきっと「会話」だ、もう少しだけ互いに歩み寄る機会があればそれだけで済んだ問題だ。

なに、まだ手遅れなんかじゃない。 時間はたっぷりあるんだからやり直せばいい。

 

《……マスター、話の途中で悪いですけど着信です。 ヴィーラちゃんから》

 

「ん、ちょっと失礼」

 

またスマホが震えたと思いきや、今度は着信だったらしい。

昨日の間にヴィーラには電話番号のやり取りをしていたが、何があったんだろうか。

 

「もしもし、そっちで何かあったか?」

 

『あっ、箒! よかった、そっちは無事!?』

 

「ん? いや、こっちは何も変わりないけど……どうした?」

 

『マジでヤバいの、ちょっと場所教えるからこっちに来てくれる? なるはやで!』

 

電話口から聞こえるヴィーラの声は、かなり焦燥感が籠っていた。

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