俺が魔法少女になるんだよ!   作:赤しゃり

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永遠にさようなら ④

「あー……疲れた」

 

《それは戦闘の疲れですか、それとも葵ちゃんたちに絞られた疲れですか》

 

「どっちもだ……」

 

長い通話を終え、乾いた喉に缶ジュースを流し込み、公園のベンチへ乱暴に腰を下ろす。

戦闘での疲労もさることながら、話を終わった後もアオから長い説教を喰らい続けた精神的ダメージも大きい。

公園の中央にそびえる、背の高い時計はもうじき深夜を回ろうとしている。

 

「……今夜こそ野宿かなぁ」

 

《今更のこのこアジトに戻るわけにもいかないですしね……》

 

トワイライトには盛大に正体をばらしたうえ、完全に敵対してしまった。

今からあの涼し気なアジトに戻って鉢合わせても気まずい……どころかそのまま戦闘になりかねない。

流石に今日は消費した魔力の事も考え、明日の決闘に温存したい。

 

《だからこそマスターにはちゃんとした屋根の下で十分な睡眠をっとってほしいんですけどぉ》

 

「なーに、一晩ぐらいどこで寝たって関係ないさ」

 

「――――関係あるから困るんだよネ」

 

「……えっ」

 

声のした方へ振り返ると、目立たぬようにベースボールキャップの下に押し込められてもなお輝く金髪が揺れるのが見える。

珍しく芋っぽいジャージに身を包んだコルトが、コンビニのビニール袋を片手に俺を睨んでいた。

 

「げっ、コルト!」

 

「げってなんだヨ! やっぱり誰にも頼らないで野宿しようとしてたネ?」

 

「い、いやぁーそのぉー……」

 

じっとりとしたコルトの視線がカエルを睨む蛇のようだ、俺の考えが完全に見透かされている。

だがしかしアオ達も自分たちの仕事があるだろうに、俺のせいで迷惑をかけるのも悪い。

 

「はぁー、いいからうちに来なヨ。 変な事はしないから、ご飯もとりあえずこれでも食べてサ」

 

そういってコルトがビニール袋ごと投げ渡してきたのは、ペットボトルの紅茶とレーズンチーズ蒸しパンだ。

思い出したかのように腹が鳴る、食べ盛りの体にあれだけの運動を強いたのだから腹が減って当たり前だ。

 

「ひとまずそれで腹の虫を収めてサ、うちに来たらピザもコーラもあるヨ?」

 

「……変な事したら大声出すからな」

 

「うーん、多分そのセリフは私が言うべきなんだけどネ」

 

「お前は前科があるんだよ前科が!」

 

「分かってるヨ! でも大丈夫、今はそんな余裕ないからネ、先っちょだけでいいヨ」

 

「どこで覚えてきたそんな言葉!!」

 

「良いから来る! 明日は私達も総力戦なんだからサ、手助けできない分色々と不安要素は取り除いておくヨ!」

 

俺の抵抗むなしく、コルトに首根っこを掴まれてずるずると引きずられていく。

どこからこんな力が出てくるのか……いや、腹が減って俺の力が出ていないだけか。

 

「今抵抗すると互いに無駄な体力使うだけだヨ、大人しく連行されてふかふかの布団が寝た方が身のためカナ」

 

「くっ、卑怯な……」

 

 

――――――――…………

――――……

――…

 

 

「――――初めに聞くけど、わざとではないのよね?」

 

「……当たり前だ、ボクは加減はしていない」

 

今はもう打ち捨てられた廃ビルの中、怒気が籠った口調でローレルが訪ねる。

魔女狩りとブルームスターを逃がした件について怒っているのだろう、2人ともローレルにとっては目の上のタンコブに等しい存在だ。

 

「彼女の氷結能力については警戒すべきだ、と判断した。 一度目はボクの無敵すら貫いたんだぞ」

 

「まあ、あなたが今更慄いて逃げるような子だとは思っていないけど……私はその魔法について観測していないわ」

 

見たもの以外は信じない、か。 彼女らしい。

何を言っても彼女の機嫌は直らないだろう、それこそ氷像と化したボクの姿でも見ない限りには。

 

「ではどうする、ボクを罰するかい?」

 

「あなたを罰して邪魔ものが消えるならそうするけど、でもそうね……こうしましょう」

 

ローレルが何かを思いついたのか、不敵な笑みを浮かべる。

心臓に針を突きさされたような気分だ、嫌な予感しかしない。

 

「―――――()()()()()()()()()()()()()()。 あなたなら難しい仕事ではないでしょう?」

 

「…………! それ、は……!」

 

できない、と口走りそうになった口を必死に紡ぐ。

何を言おうとした、ボクは? ブルームスターを殺そうとしておいて、今さら魔法局の人間は殺せませんだと?

馬鹿な、我ながら生ぬるい覚悟にしてもあまりに傲慢な話じゃないか。 ボク(おまえ)は今、命を選ぼうとしたんだぞ。

 

「彼女はチェンジャー、後天的な魔法少女だけどそれでもまがい物とは比べ物にならない純度よ。 京都本部から回収した始まりの10人の杖と合わせれば、きっと私達の野望に届く」

 

「……ああ、そうだな。 ボクたちの野望は叶うだろう」

 

魔女を集め、杖を砕かれた廃人を増やし、時には他人の命さえ危険にさらしてまで叶えたい願いがある。

その願いの共通点こそが、ボクとローレルを結ぶ唯一の繋がりだ。

 

「私も最後の詰めを果たしてくる、お互いに頑張りましょう?」

 

「そうだな、その時には祝杯でも挙げたいね」

 

きっと味なんて分からないだろうがな、なんて心の中で毒づいている間にもローレルの身体は塵となって消える。

彼女お得意の植物を使った身代わり人形だ、本体はきっといつもの場所だろう。

化け物め、ぼろを出さぬままこうして裏で魔女とやり取りしているのだから頭の中がどうなっているのやら。

 

「……ラピリスを殺せ、か」

 

ローレルはどんな心境で吐いた言葉なのか。 ボクへの嫌がらせか、それとも計画を一秒でも早く進めるための効率論か。

真相は本人に聞かないと分かるまい、素直に教えてくれるはずもないが。

 

「だとしたら決戦は明日か、気が重いな」

 

昔の同僚を殺すことが、か。 偽善者め、いい子ちゃんぶるターンはとっくに終わってるだろう。

今自分がやるべきことは詰めを誤らぬこと。 ただ冷酷に、魔法局にゲームオーバーを叩きつけてやるだけだ。

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